第二十話 飛翔
今日はここまでです。
次の十話でこの章が終わると思います。
第六エスカリア。
軍港跡に停泊している潜空艦内では、クインが椅子に座っていた。
私室だろうと軍服で過ごす彼女は、背もたれにもたれる事も無くモニターの移り変わる数字やグラフを見つめていた。
「(大丈夫だろうか........)」
第七エスカリアからの救難信号を受け取り、急行したきり連絡すらないユウキを、クインは密かに想った。
彼女は公言していないが強い男性が確かに好きだ。
だが、腕っぷしだけではない、別の何かを併せ持つ最強の男が好みなのだ。
しかしそんな男など居ない。
所詮は空尉であるクインに、そんな男と巡り合う機会など無かった。
「....何を考えている、あの化物に心配などする必要がない」
彼女は自分の中の心配を振り払う。
あらゆる面で最強であったユウキは、クインの心をも射止めた。
だが、彼女は抵抗した。
最後の抵抗は、ユウキがまだ幼....く見えるということだ。
彼が成長すれば、彼女も諦める他ないが、その時にはもう彼女に魅力はない。
そう真面目に考えているのだった。
「大体、艦長に相手が居るのは明白ではないか、負け戦に手を出すほど私は愚かではない」
ぶつぶつとクインは呟く。
艦長の周囲には、少なくとも4人の女性がいる。
ユウキの手によって自我を取り戻した機兵のアリス、人工智核のノヴァ=レクス、計理班長のファリン、保安長のセレスだ。
彼女らを抜け駆けしようとすれば、必ず報復がある。
「...........っと、何を考えているのだ。私は――――」
その時、クインの眼がモニターの変化を捉えた。
数秒ごとに送られてきていた情報更新用の定時通信が、急に途絶えたのだ。
「なっ!?」
クインは驚いた。
途絶えたという事は、AVALONに何かしらの事態が起こったという事だ。
だが、まだ可能性は充分にある。
数十分待ち、復旧しなかった場合は何かあったという事だ。
「........................」
そして、数十分が経過した。
通信グラフは未だ、微動だにしない。
クインは艦内放送のスイッチをオンにし、叫んだ。
「AVALONからの通信途絶を確認! これより緊急発進する! 各員は定位置に着け!」
「...............................ッ!!」
意識が急速に浮上し、俺は眼を開けた。
視界は闇に閉ざされている。
ここがどこかは分からないが、恐らくAVALON艦内のはずだ。
「.............光よ」
滅多に使わない魔法で、俺は光を灯した。
淡い光が、俺の周囲を照らし出した。
ここは、AVALONの艦橋だ。
「皆は............無事っぽいな」
ただ、漏れ出た爆炎が悪さをしたのか艦橋のど真ん中に大穴が開いてしまっている。
とっとと直してしまうか。
「結構魔力を使うんだがな........」
俺の軽率な行動が招いた大事故だ、全魔力の百億分の一くらいを使う手間は惜しまない。
俺は床に手を付け、AVALONの最後の姿をイメージした。
そのまま待つ事数分、艦全体の修復が完了した。
「よし、終わりだ」
後は電源の復旧とレクスの起動だな。
アリスは電源から切り離されてるはずなんだが、メインコンピューターが動作停止した影響でシャットダウン状態のようだ。
俺はエレベーターの内部の梯子を使い、下の階へと降りる。
ドアを蹴破って通路を進み、メインコンピュータールームに進む。
浸水してるな、俺は海水を分解し、鍵へと再構築した。
後でこの鍵に合う鍵穴でも作るか。
「再起動っと」
再起動のために魔力を充填し、非常用バッテリーを起動させる。
中央の大モニターに[BOOTING……..]と表示され、レクスのお馴染みのマークが表示された。
『............................ノヴァ=レクス――――《新しき王》、起動しました』
「よし、データバンクにアクセスしろ」
『了解、データバンクにアクセスします』
データバンクに蓄積された記録は俺の再構成の影響を受けていない。
電源が切断された場合自動で外部との露出部分をカバーするので、どんな破壊の影響もほぼ受けない。
ただ、流石に暴走した魔力が直撃したら破壊されるが。
今回は余波を受けただけだったので無事だ。
『アクセス完了――――システムエラーログのフィードバックをメインサーバーに送信、これよりブリッジに復帰します』
「ああ」
このままでは何もできないので、俺もブリッジに戻る。
道中、目覚めたのか別の乗員と遭遇した。
「あ、艦長! 何が起こったんですか?」
「知らないのか?」
「すいません、俺は計理班で........」
「そうか、もうすぐ復旧するから、皆を起こしてくれ」
「了解です!」
駆け出していく乗員。
俺はその背中を見送り、再びエレベーターを昇りブリッジに上がった。
「お、艦長起きてたのか」
「勿論」
ローレンスに出迎えられ、俺は艦長席に座る。
艦長席のモニターを起動し、日付をチェックする。
「一日も経ってるのか.......」
『はい、乗員は目覚めていた者もいましたが、殆どが魔力供給の停止で何もできず、その場に留まっていたようです』
「そうか...........機関の再起動は?」
『セレス様が行っております』
「..........いつも済まないって伝えておいてくれ」
『了解』
乗組員には迷惑を掛ける。
本当はAVALONも俺とレクスとアリスで回せるのだが、寂しいので乗ってもらっているのだ。
一応レクスが演算モードの時の運用のためでもあるけどな。
「っ、そうだ、犠牲者は?」
『今、確認が終わりました――――――0です、ただ重傷者の数が非常に多いので、救護室で手当をしています』
「そうか」
良かった..........こんなくだらない事故で死者を出したら俺はもう立ち直れないところだった。
くだらないとはいいつつ、内側からの大爆発でボッコボコのベッコベコに壊れるほどの凄まじい事故だったので、死者がないのは逆に奇跡だ。
「おっ、機関再起動完了だ」
『フライホイール接続、機関出力60%まで上昇』
「魔力場に接続」
『魔力場に接続、安定化完了』
「魔導防壁、再充填」
『魔導防壁展開完了』
「AVALON、発進!」
後部推進機から光を噴射させ、AVALONは上昇していく。
外部カメラからの映像を見つつ、ハーデンが「やっぱすげぇな艦長」と呟く。
BC砲も含めてしっかり復元したからな。
ただ、今回の失敗を抑えたうえで出した結論は、やっぱ未完成の兵器だって事だ。
下手に撃てるものじゃないし、理論の組み立て直しが必要だ。
多くの思いを抱えつつ、AVALONは空を征く。
後でめっちゃクインに怒られた。
次からは気を付けないとな.......
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