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第十九話 陥落

『お帰りなさい、艦長』

「帰ったか」

「お帰りなさい」

「よう」


俺はいつものメンツに出迎えられ、艦長席に着く。


『お気づきでしょうか?』

「ああ、相当近づかれてるよな」


レーダーに表示されているのは、無数の艦影。

恐らく救援の艦隊だろう。

はぁ、さっさと風呂に入りたいんだが。


『通信が入っておりますが?』

「一応正規艦隊かもしれない、応答してくれ」

『了解』


また話す価値のない会話にならなければいいんだが。

モニターが点灯し、[SOUND ONLY]の文字が出る。


『――――こちら第六エスカリア警備艦隊! 応答せよ!』

「はいよ、何の用事だ?」

『..........諸君らは第六エスカリアの施設を攻撃した! これは重大な敵対行動である! 直ちに降伏せよ! しない場合は発砲する!』

「............正気か?」

『その大きな機体で調子に乗っているようだが、こちらには機動力がある! 素直に降伏したほうが身の為だぞ』

「俺達は王室の直下な訳だが?」

『王室が何だ! 第六エスカリアは関与しない!』

「よし、言ったな――――偽装解除」

『偽装解除』


AVALONは一見すると数基の砲塔、ミサイル発射管を備えた母艦に見える。

機動力があれば回り込め、装甲の薄そうな(実際は薄くても余裕で耐えらえるんだが)箇所に集中攻撃を叩き込めば墜とせる、そう考えてもおかしくないだろう。

だがそれは偽装を解除したことで一気に絶望へと変わる。


『は..............な、何だソレは』

「何って、お前らを倒すのに充分な火力だよ」

『や、やめろ..........!』

「いやぁ、降伏しないから、発砲してくれないか?」

『何を......?』

「ほら、俺達から攻撃したらいい口実だろ?」

『ふざけやがって!』


お、撃ってきた。

魔導防壁に防がれて、削った耐久も直ぐにチャージされて無意味となる。


『馬鹿な、傷一つ――――』

「では処刑する」

「測的よーし、照準よーし」


ローレンスが小さく呟く。

レクスが居れば言う必要が無いのだが、ノリノリだな。


『主砲発射』


窓から見えていた夜空が、閃光に塗り潰された。

前に展開しているであろう艦隊が、みるみる溶けていく。

次にレーダーが更新されたとき、敵艦隊は全体の三分の二を喪失していた。


『次弾発射』


また閃光が走り、あっと言う間に敵は全滅した。

もはやここまで来ると作業である。


「.......さて、本格的に第六エスカリアに喧嘩を売ったな」

『収容区画の惨状はデータに記録してありますが、このような事をするような人間に慈悲を掛けるのですか?』

「いや、俺は良くても乗組員に迷惑を掛けたな、と思っただけだ」


俺は第六エスカリアで待機しているであろうクインを思い浮かべた。

ん? 待てよ..............


「さっさと帰らないと、クイン達が危ないな」

「いや艦長、クイン達は潜空艦で待機してるだろ?」

「あ、そうか」


じゃあ別に急いで帰らなくてもいいのか..........


「じゃあ、あの島を吹っ飛ばしてから帰ろう」


俺は提案した。

地上部分と地下をボコボコにしただけじゃ、また復旧される恐れがある。

別に時間も無いわけじゃないし、一撃入れてから帰ってもいいだろう。


『しかし、島を一つ完全に破壊するともなれば、主砲では出力不足ですが..........もしや』

「そう、BC砲を使おう、テストもしてないし、試射がわりだ」







BRAVE CANNON。

俺の名前のユウキ(別に俺が自分で付けたわけじゃないんだが)を英語にして、キャノンとくっ付けた名を冠した兵器だ。

え、手抜き? バカ言え、兵器名なんて適当でいいし、開発者の名前を付けるのも自由だ。


『艦内電源をシャットダウンします、非常電源に切り替え』


外を明るく照らしていた外部照明が落ちる。

艦内も、緑の非常灯の灯りのみになる。

これは別に無駄な演出という訳ではなく、緊急時に緊急用の無限魔導機関に点火するためのエネルギー確保のためだ。

左右舷の噴射口の真ん中に謎の噴射口があるのはこの為である。


「魔力汲取開始」

『魔力汲出開始』


階下から、無限魔導機関の駆動音が大きくなって響いてくる。

ここでさえこれなのだから、機関室は耳栓をしないと何も聞こえないだろうな。


『BC砲への回路接続』


同時に、投影されているAVALONの全体図に変化が現れる。

艦底部の奥まった場所が開き、そこから円筒型の砲台が現れた。

そして、その砲台の砲口に、光が集って行く。

汲み上げた魔力を薬室内で収束し、発射と同時に次元断層にぶつけて一気にエネルギーを取り出す寸法だ。


『薬室内に魔力収束、規定値に達します』

「ハーデン!」

「あいよっと、強制転移装置作動」


魔力を異次元に転送する準備は完了だ。


『BC砲、安全装置解除』


ガコン、と重い金属音が響いた。


「ここまで凝るのか.......」

『艦長はロマンが大事だと常日頃から発言していますから、お気に召しませんでしたか?』

「いや、いいけど.....」


俺の前に現れたのは、ターゲットスコープと、お決まりのハンドガン型の発射スイッチだった。

ロマンのように思えるこれだが、俺は結構好きだ。

ボタン一つで敵を殲滅すれば、いずれは殺人鬼と同じになってしまう。

トリガーを引いて、自分のしたことの重さを実感できるからこの形がいいんだ。


「照準よし...........発射」


そして俺は、引き金を引いた。

駆動音が限界まで高まり――――消えたと同時にアラートが鳴り響いた。


「な、何だ!?」

『異常事態発生! チャンバー内部で魔力が暴走しています! 噴出量が多すぎて、制御できません!』

「「何だって!?」」


俺とハーデンは同時に叫んだ。

馬鹿な、俺が頑張って書いた理論をレクスが完成させて、そこにハーデンが経験を織り交ぜて補足した完全な計算結果のはずなんだが..........

どうして想定より魔力量が多いんだ?


「っ、チャンバー外に放出しろ! 引火したら........」

『やっています! 破壊された次元断層からの流出量の方が多く――――』

「クソ、俺が行ってくる!」


俺は立ち上がる。俺の手で物理的に切り離して――――――

その時、凄まじい激震がAVALONを襲った。

背後で、レクスの音声が鳴り響く。


『スパークに引火! 内部にまで魔力が逆流して.........魔導機関大破! 魔力場安定装置維持できません! 中央コンピューターにまでエネルギー逆流、機能停しししししし――――――』


そして、AVALONは墜落した。


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