第四話 空賊襲撃
――――――数時間後。
クイン指揮官率いる艦隊は第六エスカリアの空域に入っていた。
「!」
まだ空域に入って数分しか経っていないというのに、クインの手元のモニターが警告を鳴らす。
同時に、周囲の厚い雲から中型艦が姿を現す。
砲台が改造されている。
「クイン指揮官、通信要請が」
「......通しなさい」
クインの命令により、旗艦のモニターに下卑た笑いを浮かべる男が映った。
『ほう、別嬪さんじゃねえか?』
「我が艦隊に接近した理由、所属と艦数を――――――」
『黙れよ、王室のメス犬が』
そんな会話をしている間にも、同行する不明艦の数は増えていく。
全て正規の製造ラインにない改造艦だ。
『俺等は「アンラ・マンユ」の殲滅艦隊、六番隊よ! 降伏は受け入れねえ、墜ちなァ!』
男が叫ぶと同時に、通信が切れた。
不明艦の砲台が回転し、照準が合わせられる。
数秒も掛からず、一条の閃光が小型艦を狙って放たれる。
本来三本である砲塔を一つに絞ることで威力を上げ、連射性能を高めているのだ。
「へへ、簡単なもんだぜ」
殲滅艦隊六番隊隊長、フンドは嗤う。
王国所属の艦隊といっても、所詮この程度なのかと。
「俺等が王国を占拠しちまっても.........」
「バカ言え、俺はハイペリオン級とやり合うのは御免だぞ」
その時、フンドは異常に気付く。
「嫌に硬くねえか?」
「そうっすね、装甲が分厚い――――ッ!?」
ズーム表示で小型艦を見たフンドは戦慄する。
自分たちの砲は威力が高く、連射性能もある。
帝国の重武装艦を沈めたことだってあるのだ。
その砲が........全く効果を与えていないのだ。
傷どころか、焼け焦げすらない。
「くっ、離脱するぞ!」
「な、なんでっすか?」
「俺等の砲撃を無効化するような奴らが、俺らより弱い砲撃なわけねえだろ! 引き金を引くなら、撃たれる覚悟もしとけって事だ!」
六番艦隊は即座に離脱しようとするが、時すでに遅し。
既に小型艦の砲撃は目標に向けられている。
窓の外が白く光ったかと思えば、艦橋に激しい衝撃が走った。
「なっ、なんだぁっ!?」
「チィ、後部に被弾! 第三隔壁を抜けられましたァ! んんっ!? 機関内圧上昇ォ!? フンド様、航行不能です!」
「ふざけるなぁ!! 強すぎんだろ! 一撃で戦闘不能だぁ!?」
再び窓の外が輝き、艦橋が大きく揺れる。
「後部に被弾! 安定装置がぶっ壊れました!」
「ちぃ、墜落かよ!」
ベリベリと後部が剥がれ落ちたフンドの艦は、爆炎を上げながら雲海へと沈んだ。
「フンド隊長がやられた!」
「こっちも拙いぞ!」
他の艦も素早く離脱しようとするが――――――
ズガアァアアアアン!!
二本の砲撃が直撃した艦が、内側から爆散する。
隣接していた艦も爆風を受け沈む。
それに気を取られていた残りの一隻は、格好の的になり、蜂の巣になって炎上、空中で爆発四散した。
「戦闘終了!」
「待ちなさい、まだ来ます」
「了解!」
数十秒後、一斉に鳴り響く空間振動検知のアラート。
蒼穹が歪み、鈍色が空を侵蝕していく。
「検知件数.......90! 最低でも90隻です!」
「全艦戦闘陣形! ユウキ司令官!」
『何だ?』
「まだ潜伏を?」
『ああ、まだ足りない.......味方が被弾してからだな』
「了解!」
クインは文句を言わない。
今ここでAVALONが登場したところで、大したインパクトは与えられない。
相手が「勝てる」そう思った瞬間が、もっとも衝撃を与えられるタイミングなのだ。
「敵艦、発砲確認!」
「反撃開始!」
しばらく、砲撃の応酬が続く。
無数の赤色の光条は味方艦隊を襲い、そして何の損害も与えない。
反対に、味方艦隊から放たれた光の束は、敵艦隊に爆炎の花を幾つも咲かせる。
しかし、戦況は一方的には進まない。
「くっ、魔導防壁損耗率64%! 持ちません!」
「..........回避行動! 最大速度で旋回しつつ反撃します」
艦隊が、丸ごと旋回し始める。
距離が離れているため、少し移動するだけで当たらなくなるという算段だ。
ついでに、AVALONの射線から離れたいのだろう。
しかし――――――
「損耗率増加! 回り込まれてッ.........囲まれました!」
「っ.....まだ、まだ足りない......!」
クインの口から、悔しさの混じった声が漏れる。
それは、以前もそうだった。
理不尽に勝てない、そんな自分の無力を悔しく思って居るのだ。
「魔導防壁損耗率100%! 防壁、消失します!」
「第一装甲に被弾!」
『こちら二番艦、艦首に被弾増加!』
小型艦が徐々にダメージを受け始める。
『もういい、よくやった――――クイン』
「ユウキ.......様」
クインは顔を歪める。
画面の向こうのユウキはフッと笑って言う。
「負けるつもりの戦いで、力及ばないことを嘆いてもしょうがない。勝てるつもりの次の戦いでは、必ず勝てよ」
『分かりました』
次の瞬間、傷ついたクインたちを守るように――――――AVALONがその姿を現した。
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