第十九話 参謀への嫌疑
エリナに二等空尉を仲間に引き入れたことを話すと、彼女は微妙な顔をした。
「えっ、あの男装のイキリクソヤローをですか?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、男っぽくなりたいとか言って男装してる変態ですよ」
「個人の趣味に口出しするのはどうかと思うけど?」
「アイツは私の戦艦趣味を士官学校時代から馬鹿にして来るんですよ、消耗品に愛を注ぐなんて非効率だと」
「ああ、そう...........」
ちなみに、気付いたらエリナの私室には大量の戦艦模型が飾られていた。
プラモデルを創造して渡したら、嬉々として組み立てていたな。
「とにかくアイツには会いたくないので、艦橋には絶対呼ばないでください。私はここで寝泊まりします」
「そんな無茶な.......」
というわけで、クイン二等空尉についての話は聞けた。
次にやることといえば、会食である。
「うん、美味い」
今日の昼食のメニューは白飯、トン汁、豚カツ、煮物という重いものだが、とにかく腹が減るのでこれでも足りないくらいだ。
「あの.........何故自分はこのようなものを.........?」
そして、お隣のクイン・エルサー二等空尉の前にはジャンクフード一式だ。
好みがよく分からなかったので、とりあえずこの世界でも一般的に食べられているハンバーガー、ポテト、チキンナゲット、アイスティーを用意した。
「気に入らなかった?」
「いえ、頂きます」
クイン空尉はそのままハンバーガーの箱に手を付け、開けて包装紙を剥がして食べ始めた。
「.......!」
「..........」
クイン空尉は金髪を短く切り揃え、着ている服も男のものだ。
肌が白かったり、エリナには無い胸部装甲があるせいでバレバレだが......
ひょっとしてエリナ、クイン本人が嫌いなんじゃなくてこれが気に食わないだけじゃ.......
「................................................」
「.................................................」
しばらく、沈黙が続く。
気まずい。
俺はご馳走ともいえるメニューをほぼ完食し、お隣さんも食べ終えて、テーブルに置いてあるティッシュを1枚抜いて手と顔を拭っていた。
「.......それで、理由をお聞かせ願えませんか?」
「俺が誘いたいから誘った、他に理由が必要か?」
「私たちに懐柔が必要だ、と考えているのならそれは間違いです。我々は裏切ることなどありませんから」
「どうしてそう言える?」
俺がクインを見ると、クインもこちらを見る。
「私は成り行きでこうなりましたが、私の艦に搭乗していた部下たちは、皆上に逆らえない低い身分の者だったり、ほぼ奴隷のような者でしたから」
「なるほどね....」
「ですから、貴方が彼等を同じように冷遇でもしなければ、決して裏切りはしません」
「冷遇はしない、敵対しない限りは..........」
気まぐれとはいえ、情けを掛けたなら最後まで、だ。
脅しをかけて保護したとはいえ、尽くしてくれるなら貰います。
それが俺って男だ。
数時間後、さて風呂にでも行くかと思って居た俺の元に、来客を知らせるコールが鳴った。
インターホンを開いてみれば、クイン空尉だった。
「第4から連絡が来たのですが、中央塔を吹き飛ばしたのは貴方ですか?」
「そうだと言ったら?」
「..........本当に怖いものがないのですね、貴方は......あれは第四エスカリアの権威の象徴ですよ? しかも周辺に誘爆して技術区画も壊滅.......何万人、いえ何十万人が死んだか.......」
「あそこでは人権を無視し、自由を踏みにじった研究が行われていた、無辜だろうと関係ない、現状に抗えなかった時点で同罪だ」
我ながら屁理屈なのは分かっている。
俺も予想外だもん。
中央塔だけ吹き飛ばせば良いと思って居たが、まさか周辺に誘爆するとは......
総督の最後の恨みだろうか。
「あ、でも中央でそんな大爆発が起きたら、第四エスカリアも終わりか?」
「メインフレームに致命的な損害を受けたようで、都市全体の出力を落として浮遊に充てているそうです」
「そうか」
流石に中央塔ではまずかったかな?
でも人間爆弾化は現状寿命を大きく縮めるしなぁ。
「.............技術区画には私の知人や友達も沢山居たのですが」
「—————すまん」
俺はこの作戦を考案したレクスのシステムチェックを行うことを決意した。
絶対軍用プログラムの残滓か何かが残っていたに違いない。
エネルギー膨張による爆縮を狙ったが、あんな広範囲にダメージを与える誘爆が、中央塔程度の爆発で起こるわけが無い。
絶対にレクスが何かを仕込んだ。
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