第十五話 全力戦闘
「うおおお…めっちゃ撃ってきやがる…」
ユウキが第四エスカリア内に消えてから数十分後、何の通告も無しに波状攻撃がAVALONに降り掛かった。
しかし、魔導防壁を貫くには至らず全て無力化されている。
けれども、ローレンスはかつての経験を思い出し、武器の操作パネルに触れようとする。
「ダメっすよ、隊長」
「あ、ああ…つい」
「撃たなきゃこっちがやられる、みたいな状況だったものね」
背後から声が響く。
ローレンスは気付いていたが、マグカップを運んできたセレスが放った声であった。
「そうそう…だがこの艦は何だ? 第四エスカリアといえばあらゆる武装の製造を請け負っている大技術都市だぞ? そこの防衛の総戦力の総攻撃を一挙に食らって何で無事で居られるんだ…」
「隊長、考えたら負けですよ」
「そうだな…」
ローレンスは考えるのをやめた。
その時。
艦橋の扉が開き、艦長であるユウキとアリスが姿を表した。
戦争の真っ只中だというのにのほほんと寛ぐ艦橋内の雰囲気にあてられそうになりながらも、俺は宣言する。
「これよりAVALONは不当な攻撃に対する正当防衛に出る…ただし、今レクスのインストール中なので数分待つ事、だ」
「「「「「了解!」」」」」
こうなる事を見越して、俺はレクスのデータを消去しなかった。
インストールは数秒で終わり、今は各システムの同期作業中だ。
なので…
「さあキビキビ動くぞ! 数少ない人間の出番だ!」
「分かった、全砲門解放! 両翼魔素収束大砲発射用意!」
「ちょっと待て、それは…」
「分かった、魔気粒子拡散弾発射準備!」
BC砲と同じくらい秘密にしておきたい虎の子の魔素収束大砲については、こんな雑魚に使うものではない。
「各砲に魔力充填完了」
「敵艦データをローレンスに送る!」
「助かる! 自動照準開始…照準固定、誤差修正! 発射!」
一斉に轟音が響き、窓の外が再び閃光に包まれた。
「ローレンス! また出力を間違えて…あっ」
「あ」
最初に放たれた最大出力の一撃を受けた艦隊は即座に瓦解した。
モードレッドがただの一撃で貫かれ致命的なダメージを負い、ほかの艦は次々と艦体を破壊され墜ちていく。運悪く中核を破壊された艦は大爆発を起こし、バラバラになって墜ちていく。
「誤差修正! 艦首魔気粒子拡散弾、魚雷発射!」
魚雷というのは語弊があるわけだが、丁度いいので魚雷にした。
艦首から青い光と共に小さい弾が放たれる。
敵はそれすら警戒して、一斉に回避行動を取る。
たしかに間違っちゃ居ないが、この兵器の前には悪手だな。
「なっ!? 何だあの威力…」
魔気粒子拡散弾は敵の真ん前で爆発し、反転中の敵艦に向けて無数の細かな魔力弾を一斉に放った。
敵艦にボコボコ穴が開き、あっという間に蜂の巣の完成である。
迎撃能力を失った敵艦群に魚雷が突っ込み、中に入っている魔素に反応してどちらも誘爆させる対結界の為に作られたガスが一斉に拡散し、内部からの魔力の爆発を受けて更に爆発する。
誘爆だけで敵の見える範囲は壊滅した。
「凄えな…これじゃタダの虐めだろ」
「だから決戦兵器は使わないんだよ」
その時、爆炎の中から新たな艦が姿を表す。
「まじか!? 建造されていたんだな…」
「ローレンス? 何か知ってるのか?」
「ああ、あれは…」
出てきた艦は不恰好で、中型艦くらいの大きさの本体の下に、でかいミサイルが取り付けられている。
そしてそれらが、一斉に放たれた。
「あれこそ魔素崩滅弾頭だ、生き物も戦艦も、容赦無く破壊する兵器だぞ…!」
どうやら周辺の魔素を急速に燃やし尽くして破壊エネルギーに変える兵器らしく、生物も中の魔素を燃やされ白化して死に至るらしい。
おっそろしいもん作ってるな…
「ま、迎撃すればいい」
「迎撃した瞬間爆発するけどな」
「爆発したとして、死ぬのはあいつらだけだろ?」
「鬼かよ!?」
とはいえ無辜の民に犠牲を出すわけにはいかない。
こちらも奥の手を出さざるを得ないな。
まあ、奥の手<<<<<切り札<<<虎の子<<<<<最後の手段、なんだがな。
「ローレンス、今兵装を使える様にした。」
「おっ…これから?」
「そう、それだ」
迎撃しても爆発するのなら…手段はただ一つよ。
「照準固定! 空間転移起点弾『URANOS』発射!」
「うーん、我ながら…痛いネーミングだ」
艦首から放たれた魚雷は、敵ミサイルに近づくと素早く中心部分に回り込んで爆発し、その部分を消し飛ばしてしまう。
消し飛ばしたのではなく一時的に周囲の球形の空間の固定力を緩和し、空間魔法の効果を高めて虚無に転移させただけだ。
“虚無”というのは無限魔導機関のエネルギー源である“無限”と対極に位置する世界で、この世界でエネルギーを持つものは全ていずれは虚無に戻るという場所だ。
虚無と無限がぶつかりあった時、何が起こるかは俺にも分からない。
よって今はゴミ捨て場にしか使えない。
『———ノヴァ・レクス、復帰しました』
全てのモニターにレクスのロゴが浮かぶ。
これで戦闘は指示を飛ばすだけで良くなるな。
「よーし、180°反転! 逃げるぞ」
「またかよ!?」
殲滅するとは一言も言ってない。
大体、後方の奴らには攻撃すらされてないんだから、ここで撃つと正当防衛の範囲を超えるだろ。
『反転完了、両舷最速、離脱します』
「分かった」
艦橋から見える景色が凄まじい速度で動いていく。
『後方の艦隊、動き出しました』
「そりゃなぁ」
俺の狙いは逃げることによって敵を引き摺り出して殲滅し、そのついでに旗艦に攻撃をさせてぶっ倒す事だ。
「レクスは俺の嫁、俺の女に手を出したら殺す」
「おい艦長、頭でもおかしくなったのか!?」
「艦長、アリスさんにぶっ殺さ…ぎゃああっ!」
ふふふふと笑いながら一度は言ってみたいセリフを言ってみたのだが、周囲の目線が一気に冷たくなった。
後、アリスが低出力の魔導光線を放ち、器用にもラムズを火傷させていた。
変な冗談言うから。
『敵、短距離転移準備に移ったようです、前面にモードレッド二隻が出てきます』
「時間稼ぎのつもりか?」
こっちは別に撃ってはやらないけどな。
ってか、後方にまだモードレッド居たのね。
「まだ撃つな、撃たれてない限りはこっちも攻撃しない」
しかしこいつらには命令違反という切り札は無いのか、捨て身で突っ込んで来る。
『空間振動を検知、両舷3㎞の範囲に敵艦が転移してきます』
「近いな!?」
艦の大きさ的に、ほぼほぼ鍔迫り合いの距離だ。
なるほど、こちらの射程が上だからこそ、スナイパーライフルのように銃身が長く、近くでは撃てないと思ったのか。
『撃ってきました————が、損傷はありません』
「分かった、ローレンス?」
「.....はぁ、あの世で幸せにな」
至近距離からの砲撃を浴び、二隻が潰れた空き缶みたいになって撃沈された。
「対空戦闘!」
『対空戦闘用装備展開!』
艦橋の左右には対空戦闘用の装備が密集した場所があるが、ここが弱点になりやすいので、普段は収納している。
それがAVALONの威圧感を緩和する要因にもなっている。
艦橋付近の防御が薄いように見せているが、実際はガチガチなんだよな。
ちなみにこんな無駄な機構、整備性も悪いし故障すると使えなくなるのでナンセンスである。
即座に修復できる俺が艦長やってなきゃ使わないよ…
『20mm魔導機関砲、連射式三連実体砲発射』
網目状に別々の対空装備が付けられているのだ。
魔 実 魔 実 魔
実 魔 実 魔 実
といった具合だな。
勿論、撃ち分けも可能である。
そして、秒間2500万の連射パッワーを持つ魔導機関砲をぶっ放せばその至近距離にいた艦がどうなるかと言えば…
一瞬で巨人にぶん殴られたみたいになって、艦中央を大きく凹ませてゴミのように落下して行った。
『周辺の艦隊、退却していきます』
「賢明な判断だな」
まあ当然だろう。
攻撃効かないし味方が屠殺されてるしな。
「追撃しろ」
『えっ』
《えっ》
「「「「えっ」」」」
仲間達が一斉に声を上げた。
なんだなんだ?
『ここで攻撃をする場合、無意味な殺戮となります…戦略的には何の意味もありません』
《ユウキ…背中を撃つのはダメ!》
「艦長、やっぱり悪魔の子孫だったんだな」
「血も涙もねぇな」
「奴等の艦中心の熱量が全員ほぼ均一だぜ? 最大出力で逃げてるんだぜ?」
「それを殺るなんて…流石は艦長といったところかしら」
「イジメは良く無いですよ?」
いつの間にか艦橋に上がってきていたセレスを含めた全員に非難され、俺は仕方なく攻撃命令を撤回した。
「よし、逃げるぞ…長距離転移準備」
『了解、長距離転移準備』
機関の音が高まり——————————
数十秒後視界が白く染まり、次の瞬間にはまた別の形の雲が浮かぶ空が窓から見えた。
『長距離転移完了』
「了解」
もう部下も付いてこないだろうし、あいつ一人とその周囲だけで何とか取り返そうとしてくるかもしれないけど………
一体ここから、どうやって逆転する気なんだ?
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