第九話 突破
〈AVALON〉艦内へと戻った俺たちは、艦橋へと昇った。
そこで目にしたのは—————
「...........随分と落ち着いてるな」
「まあ、この艦を害せるもんならやってみろって話だしな」
ラムズがスナック菓子を摘まみながら言う。
その横でハーデンが武装のチェックをやっている。
「通信は?」
「しましたよ?」
ファリンが言う。
セレスは何故か居ないが、恐らく艦内にいるのだろう。
「甲板に墜落してた船の事を聞かれたからよ、黒煙を上げながら通信を無視して第三エスカリアの方に消えたって言っといたぜ」
「ナイス」
あっちに面倒ごとが移るかもしれないが、どっちにせよあの船がそんな長く航行できる状態ではなかったはずなので、向こうが受けるのは捜索任務だけだろう。
「じゃ、何で囲まれてるんだ?」
解決したはずなのになんでこんなに険悪な雰囲気なんだ。
「それがなぁ、レクスのことみたいだぜ?」
「レクスが? 一体何なんだ」
いやまぁ予想は出来てたけどね!
『諸君らに勧告する! 即刻件の人工智核を引き渡し、現空域を離脱せよ! 断った場合、武力行使も辞さない!』
などと今も勧告が続いている。
「........なぁ、これ帰ってもよくないか?」
俺は提案する。
が、ラムズやローレンスが俺に詰め寄る。
「ダメだって、何考えてんだよ艦長!?」
「艦長、それはマズいぞ......」
「いや、帰ろう。全速で振り切って、発砲した奴は撃沈する」
まずは一旦レクスをシステムから切り離してクリーンアップし、それから返還しなければいけないが、この艦に政府の技術者を入れるなんて死んでも御免だ。
一旦帰って、その作業を終えて戻ろう。
「反転180度、最大戦速で離脱する」
『了解しました』
俺を止めようとするローレンスだが、無慈悲なレクスの声が艦橋に響き、艦橋からの光景がゆっくりと動き始める。
『き、貴様ら!! 逃走するなら撃沈するぞ! こちらには強力な武装が搭載されている! 逃げ切れると思うな! 投降しろ!!』
通信の声が怒気を帯びるが、それらを無視して〈AVALON〉は完全に反転した。
そして、下の方から機関の駆動音が響いてくる。
数秒もたたずに後方から爆発音のような音が響き、艦橋から見える雲がどんどん流れていく。
『なっ、なぁっ!!! 追え! 逃がすな! 撃沈しても構わん!』
流石に撃沈したらまずいだろ。
「発砲確認! 直撃コースだ!」
無数の光線がAVALONに迫るが、まあ損害になる訳もなく。
ピカピカの装甲の前に弾かれるか、そのまま魔導防壁に吸収されるかの二択でしかない。
実体弾も持っているようで、物凄い爆発音が響いてくるが.......
『現在、艦の魔導防壁損耗率99%』
魔導防壁はミリ程度しか減っていなかった。
まあ当たり前ではあるんだけどな。
一般の魔導障壁とは出力が違いすぎる。
「レクス、攻撃してきた艦はマークしてるな?」
『はい!』
「そのデータをローレンスに送れ」
『分かりました』
ローレンスの席のモニターに映る艦に、マークが付与されて緑やオレンジの枠が付く。
「俺が撃つのか?」
「正当防衛だろ」
「了解、撃て」
俺の一言に納得したのかしてないのか分からないローレンスが、砲撃命令を出す。
次の瞬間、ディスプレイに映っていた敵艦が一瞬で潰れた空き缶みたいになり、内部から誘爆して爆散する光景が見えた。
「第三砲塔から第五砲塔、発射」
左右からそれぞれ迫ってきていた中型艦…確かプローラス級だっけ?
が連射できる魔力の光線を雨霰と降らせてくるが、魔導防壁の前では連発型の攻撃は意味を成さない。
一点特化で貫いた方が効率的だ。
そしてたったの一発で空の藻屑に。
「長距離転移準備! これ以上(敵の)犠牲を増やすな!」
「自分でやっておいてかよ…」
ローレンスがぼやくが、AVALONは一気に加速を強め、追撃艦を振り切り空間の壁を突破した。
「空間振動感知、長短距離転移で離脱したようです」
「クソッ!!!」
艦橋に声が響き、同時に罵声と何かを叩く音が響く。
「何をやっている! こちらも転移して追撃だ!」
「ダメです、総督! 許可なく第四エスカリア防衛範囲内から出ることはできません」
総督と呼ばれた男は、喚くが部下に一蹴される。
「くっ、ならばあの艦を指名手配しろ!」
「それもダメです、例の件を公表しなければ手配できませんから」
「しかし奴は砲撃し犠牲を出しただろうが! これは立派な殺人行為だぞ!」
「こちらが先に発砲した事実をどうやって伏せるんですか!? それにあの船は発砲してきた艦にのみ攻撃をしています! 正当防衛と言われれば我々に勝ち目はないんですよ…」
「クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
艦橋に人を殴るような音と、小さい呻き声が聞こえた。
「全艦このまま転移しろ! 総攻撃で沈める! その後はどうにでもなる!」
攻撃が通じなかったという報告を、殴られた部下は聞き心地を優先してしなかった。
愚かな指令を総督は下し、自殺者の艦隊は一斉に転移を開始した。
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