第三話 第四エスカリアへ
それから数日後。
〈AVALON〉は防衛を〈LEVIATHAN〉五十三隻と〈ALIGATOR〉八十隻に任せ、第四エスカリアへ
と向かっていた。
もっとも、マジで第三エスカリア周辺には帝国軍は居なくなった。
長短距離転移奇襲亜空間芋りチクチク殴り戦法が悪質すぎる上に対策法も無く、他の浮遊都市
に戦力をまわしたのだろう。
「この辺は空賊が出るはずなんですけどね」
「なんでか居ないよな、フシギダナー」
実は〈LEVIATHAN〉が三隻くっ付いてきていて、接近してきた国籍タグの無い艦に自動警告メッ
セージを送信し、応じない場合即座に攻撃している。
ステルスを解除して航行しているクソデカいこの艦を見て、更にメッセージも来て応じないやつは
どう考えても空賊以外ありえないからな。
あ、それとこの艦は姫サマに無理を言って仮の国籍タグを貰っている。
本物の国籍タグはエスカリア情報局のある第一エスカリアに行かないと発行できないが、前線で
ある第九エスカリアに近いためまだ行けない。
「とにかく、平和なのはいい事だな」
「ああ、俺も特にすることないしな」
ラムズとハーデンが呟く。
「艦長、お茶は要りませんか?」
その時、背後から声が聞こえた。
振り向かずともセレスと分かる。
「貰おうかな」
「おいセレス! まさか俺のことは忘れちまったんじゃないだろうな!?」
俺の席のサイドテーブルにマグカップを置き、そこに紅茶を注ぐセレス。
その姿に、慌てたようにローレンスが叫ぶ。
「いえいえ、艦長さんを揶揄うのが面白くて」
「そ、そうか......」
セレスは全員に紅茶を給すると、下へと戻ろうとする。
「セレス」
「何ですか、艦長さん?」
「せっかくだから冒険の話を聞かせてほしいな」
俺は頼む。
ゲームだけではヒマすぎて狂い死んでしまう。
「それで、私たちは被弾しながらも敵旗艦に肉薄して、ローレンスが叫びながら砲撃を命じたんで
す、その必死さと言えば、思い出せば笑ってしまうほどですが————当時は叫びでもしないと
待っているのは死でしたから.......」
「ふぅん....」
とても面白い話を聞くことが出来た。
———のだが、背後から視線を感じる。
「アリス、どうかしたか?」
《———何でもない》
「そうか」
アリスも話を楽しんでくれていればいいんだけど。
「このままじゃ退屈だし眠くなるし......両舷増速」
《了解.....第二戦速》
AVALONが加速し始めた時、ラムズの計器から電子音が鳴る。
「おお? ........接近警報だ、艦長」
「接近質量は?」
「えーっと、軽旅客船くらいだな」
「脅威となる武装は積んでなさそうだな、スクリーンに投影しろ」
「了解」
上部スクリーンに映されたのは、黒煙を上げながら飛ぶ船だった。
「何が起こっている?」
「不明だが、救難要請は出ていない」
罠かもしれないが、とりあえず救助してみるか。
「トラクタービーム発射、甲板に降ろせ.......ハーデン、機兵は出せるか?」
「新規量産型のパラサイトが二十二基出せるぞ」
「そいつを出してくれ」
「了解だ」
艦の前面下部からビームが出て小型船を捉え、甲板の上まで誘導する。
船はそのまま甲板に降り—————ることは出来ず、
甲板に激突して滑りながら止まった。
「機兵で囲んで警戒しろ、俺が行く」
「艦長、気を付けろよ!」
ローレンスが警告してくるが、まあ大丈夫だろう。
ウチの艦の最下部に搭載されている最大火力のアレを食らったら即死するだろうが、通常の兵
器じゃ俺には傷を付けることは出来ない。
甲板に出た俺は、凄まじい風圧によって扉に叩きつけられる。
「がはっ————アリス、魔導防壁展開!」
《了解》
キィィィンと音を立てて魔力の壁が生まれ、風が消え去る。
俺は黒煙を上げ続ける小型船に接近する。
とくに反応は無い。
動かず次の命令を待つ機兵の横をすり抜け、熱で歪んだハッチを無理矢理開ける。
中に入ると、煙と熱気が俺を襲った。
「..........生存者は、いないのか?」
中にいるのは、倒れた男が1人だけだ。
男の手には、小さいアタッシェケースの持ち手が握られている。
「これは.......?」
俺は彼の元へ駆け寄り、アタッシェケースに手を触れる。
その時、男がピクリ、と動いた。
俺は警戒し後退る。
「ああ.........天使様.....」
「天使?」
ぎこちなく首だけを上げた男の目には、光が無かった。
恐らく呼吸困難で、もうすぐ死ぬだろう。
「我が愛娘を、よろしくお願いします.........」
愛娘? どこにそんなのが? 第四エスカリアが関係しているのか?
疑問は尽きなかったが、俺は新たな厄介ごとの始まりを予見していた。
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