第十話 潜空艦演習
〈AVALON〉の艦橋にて俺は命じる。
「全艦魔力共鳴開始、艦列を維持しつつ前進せよ」
〈オーダー承認:前進開始〉
優秀な人工智核(この世界におけるAIのようなもの)を入手できないので、魔導機械による自動制御におまかせである。
優秀な魔導技師でもいればな…
〈B-2に問題発生:機関異常〉
「おっと…B-1艦、レーザーアンカー射出、B-2を曳航せよ」
〈オーダー承認:成功…前進再開…速度調整〉
〈AVALON〉と連携して〈LEVIATHAN〉と〈ALIGATOR〉が前進する。
「姿は見えねえが…空間に潜航するのはすげえ技術だな」
席から身を乗り出して外を見ていたローレンスが呟く。
「C-1艦、浮上しろ」
〈オーダー承認:成功〉
左翼を潜航していた〈LEVIATHAN〉が浮上し、その巨体を露わにする。
「おお! あんなでっかいのが亜空間に潜んでんだな」
「ステルス装甲の重戦艦でも脅威なのに検知できねえ亜空間からの攻撃とかヤバいな」
「帝国終わったかもなぁ…」
〈LEVIATHAN〉は悠々と空間の境界面を航行し、その鋼の肌を見せ付けている。
「C-1艦、潜航せよ」
〈オーダー承認:成功〉
C-1艦はサメが海に潜るように沈んでいった。
一同から残念そうな声が上がる。
「全艦浮上しろ」
〈オーダー承認:成功〉
〈オーダー承認:成功〉
〈オーダー承認:成功〉
〈オーダー承認:成功〉
〈オーダー承認:成功〉
A艦からE艦、それにくっ付いて来たALIGATORたちが一斉に浮上する。
「「「「おおおおお~」」」」
窓に張り付いているローレンスたちを「水族館かよ」と呆れて見ていた俺だが、
「ふふ、賑やかですね」
背後からの声に飛び上がる。
「....セレスさん」
「ええ、セレスさんです」
ローレンス一同の中でも影が薄いなどというレベルではないほど認知されない女性であるセレスはそう言って笑った。
「おっ、来たか! セレス」
「セレスの姉貴来てたのか!?」
「やっぱり隊長しか気付けねえよ!」
空気状態のセレスを認識できるのはどうもローレンスだけのようで、二人は常にラブラブである。
セレスは配属表から外れてしまったが、今は一応艦内管理人をやっている。
普段は暇だが、定時に艦の各部屋を回って点検したり、俺達がブリッジから離れられない時に機兵を使って艦内の整備をアシストしたりするのだ。
一応ブリッジからは艦内のあらゆる設備を操作できるが、その接続が何らかの原因で切断されたときの為の人員ともいえる。
いずれは操舵か〈LEVIATHAN〉の指揮を任せようと思っている。
「艦長、定時点検のデータはデータベースに送信しておきました」
「どうも」
「セレス~、疲れてないかぁ?」
「大丈夫ですよ、このくらい」
美人を15㎞近く歩かせるのも忍びないので、艦内の移動装置の使用を許可している。
緊急用だが、緊急時の故障を防ぐには普段から使うことも大事だ。
後、乗り心地は悪いが王都を襲撃した機兵の一体に「クロクモ」というダブルミーニングの名前を付けて彼女専用の機兵とした。
「全艦、再潜航せよ!」
〈オーダー承認:成功〉
〈オーダー承認:成功〉
〈オーダー承認:成功〉
〈オーダー承認:成功〉
〈オーダー承認:成功〉
〈LEVIATHAN〉が一斉にその姿を亜空間に沈めた。
「全艦転進! 王都に帰還する!」
俺は艦長席のコンパネから舵輪を取り出し、右にぐるぐる回す。
15000m級の艦体がゆっくりと回転し、王都————第三エスカリアの方向を向く。
「はぁぁぁ、もう終わりですか」
残念そうにエリナがため息を吐く。
〈LEVIATHAN〉と〈ALIGATOR〉をもっと見ていたかったのだろう。
「今度ドックに案内してやるよ」
「ありがとうございます! 一生ついていきますよ、ユウキ艦長」
「付いてこなくてもいいんだけどな.....」
AVALONはその黄昏色の巨体を陽に照らされつつ、颯爽と第三エスカリアへの空路を飛び続けた。
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