第七話 安全な戦場
「自動照準オンライン、誤差修正を行え…誤差修正完了、敵の足は遅ぇな」
眼下の巨大な砲塔が回転し、それぞれ別の方向を向く。
「ってか、砲台がアホみたいに付いてるな」
「後悔はしている」
普段は一部の砲台は収納されているとはいえ、露出している砲台だけでも威圧感が物凄い。
「まあいいや、撃つぞ」
「対ショック、対閃光防御」
艦橋の窓が薄いフィルターに覆われて、少し暗くなる。
艦橋の灯りが強まり、その暗さはすぐに消えた。
「撃て!」
ドゴォン!
爆発音とも衝撃音ともつかない音が艦を揺らし、外から激しい閃光が発生する。
フィルターが無かったら前後不覚に陥りそうだ。
「ローレンス、出力最大で撃ったら眩しいじゃん」
「ちょっと待て、この主砲の威力おかしくねえか!?」
スクリーンには二つの砲台から放たれたそれぞれ3本の光線が旗艦に突き刺さり、内側で誘爆して爆散するのが見えた。
「俺らの愛機は機関出力がねぇから、いっつも臨界まで回して最大出力でぶっ放してたんだが…その癖が出ちまったな」
「ああそう…」
どうやらこの艦が相当にヤバかったらしく、自分は悪く無いと言いたげだ。
「とりあえずローレンスはお酒禁止ね」
「ひでぇ!?」
「自分の部屋でちびちび飲んでるのは把握してるよ」
「ぐっ!」
その時、ズガァンと爆発音。
「左舷に被弾! 損傷なし!」
戻ってきていたハーデンが報告する。
「ラムズが何も言わなかったのでよく分かりませんが、爆発音なのでミサイル攻撃ですね」
「責任転嫁かよ!? あんたの席にもレーダーは付いてるだろ!」
エリナにツッコむラムズ。
誠に遺憾だと言いたそうだ。
「ローレンス、対空防御!」
「了解、小魔力機関砲発射準備!」
例の戦艦よろしく艦橋周辺にはハリネズミの如く機関砲などの対空装備が付けられている。
艦の大きさ故に数も異常だが。
「おい待て、三百基は置きすぎじゃねえか? こんなもん一斉にぶっ放したら艦が移動しちまうぞ」
「もし友軍艦がいたら確実に損傷を受けますね」
ローレンスとエリナがツッコむ。
まあ分からないでもない。
だけどこれでもかと三百基置いてもまだ間隔があるのが恐ろしいところだよね!
普段は格納している装備の一つでもあるわけだが、この弾幕を見て近寄ろうと思う奴は居ないだろう。
「敵艦逃げきれず爆沈!」
「おっしゃ!」
ローレンスがガッツポーズを取る。
「残存艦、逃げていきます!」
「反転180度、追撃する」
まだ操舵席は空席なので、俺は艦長らしく舵を握る。
残った二隻はかなりのスピードで射程距離外まで逃げようとしているが…
「機関最大」
「了解です!」
AVALONは素早く回頭し、逃げる獲物を追う竜の如く加速して二隻に迫る。
「敵艦より通信」
「俺が出よう」
ローレンスが通信を受け取り、スピーカーモードにする。
『な、なぁ! 助けてくれよ』
「無理だな、こんだけ攻撃してくれたんだ、お礼はたっぷりとさせてもらおう」
実際にはノーダメージだがな。
『頼む! 俺たちの宝もやるから!』
「やはり空賊か、てめえらのアジトは必ず見つけてやるからな」
『死にたくない! 死にたく——————』
「艦首魚雷発射」
遥か前方の艦首から黒い弾頭が飛び出し、逃げていた一隻に直撃しその艦は爆散した。
人殺しをしているわけだが、全く実感がないな。
この手で飛び散る血を見なければ、殺人を犯した気にはならないのだろうか…
「全砲門を敵艦に向ける、主砲発射用意」
現在露出している前方火力の集中攻撃か、あの世への餞別には丁度いいな。
「発射」
「了解、撃て」
全て同じ方向を向いた主砲が、一斉に光を放った。
オーバーキルの爆殺光線を喰らった敵艦はティッシュのように燃え上がって海へと激突して飛散した。
「終わりだ」
「とんでもねぇな、この職場は確かに安全だ」
ローレンスがしみじみと言った。
愛機で戦場を駆けていた彼には感慨深いのだろうな。
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