第四話 英雄に抱く希望
「まさか隊長サンが英雄だったとはね」
「いやぁ面目ねぇ...前線で捕まっちまってよ、自国民に顔向けできねえんでお前さんにも言えな
かったんだ」
帰ってきた俺たちは、パレードで迎えられた。
復興中なのでそこまで豪華なことは出来なかったみたいだが。
しかし国民が見ているのは俺じゃなくて横の隊長サン。
その正体はローレンス・ヴォルティネア。
帝国の数万の軍を相手に数百の艦隊を率いて艦隊の中を高機動で暴れ回り、旗艦を撃破して
指揮系統の混乱した残存艦を掃討して回ったという、一騎当千にして深謀遠慮の将にして優秀
な指揮官でありチャンスを逃さない狂戦士でもある超英雄だった。
彼を助けた俺には二等軍神勲章が秘密裏に授けられた。
他の浮遊都市の貴族を刺激したくない事と、俺のために金を使いたくないのがバレバレである。
子供に盛大な式典などを行えば王の権威は失墜するだろう。
「ケチめ」
「それでもお前さん、20万エスカルを貰ったんだろ」
「それとこれとは話が別だろ」
ローレンスに突っ込まれるが、お姫サマから「ユウキくん頑張りまちたねーこれあげまちゅ」みた
いな感じに貰った勲章も金もあんまり有り難くない。
その時、ローレンスが俺の鬱屈とした心にとどめを刺した。
「あ、そういや俺らお前の艦に乗艦任務受けたから」
「は?」
オイオイ、英雄様様が俺のチンケな巨大戦艦に乗り込むだって?
冗談はよしてくれよ。
「安心しろ、階級上はお前さんの方が上だ、俺らはリハビリの名目でお前さんの船でサボる事に
したのさ...愛機も壊されちまったしな」
「野郎...ローレンスの他には?」
「俺の女のセレス、部下のカロン、ラムズ、ハーデン、それとセレスを除く部下の紅一点、ファリン
が乗艦任務を受けた」
「ふむ...」
俺は即座にどこに割り振るかを決める。
オールマイティなローレンスだが副艦長の座はエリナが持ってる...から、いずれ俺が死んだら艦
長になって艦長自ら艦載機で出撃しそうな席である戦闘班長にでもしとくか。
カロン、ラムズは航海長と機関長でもやってもらうか。
ハーデンは多分あのガタイのいい兄ちゃんだし、整備長か技術班長をやってもらおう。
ファリンさんは...適当に医務長にでもしとくか。
この艦の医療設備はトーシロでも余裕で扱えるしな。
「おい、今一瞬で俺らの配属先を考えただろ」
「よく分かったな、ローレンスは戦闘班長な」
「マジかよ、一番責任ある役回りじゃねえか」
ローレンスは呆れたように口を開く。
その眼には悲しみの光が宿っていた。
エリナ、ローレンス、俺は城下町を散歩していた。
AVALONに戻っても何か楽しいことがあるわけじゃないからな...
「派手にぶっ壊されたな」
「私も緊急発進して愛機で戦ったんですけどねぇ、十分くらいで機関に一発食らって墜ちちゃった
んですよ」
「エリナは操縦は得意じゃなさそうだもんな」
戦艦マニアだが艦載機や中型機の操縦は得意ではなさそうだ。
「なぁ、ここ中央広場か?」
「そうだけど?」
ぐっちゃぐちゃに壊されて、今ではもう使えなくなった残骸の臨時置き場になっている中央広場。
「俺な、ガキん頃はここで暮らしてたんだよ...こっちかな」
ローレンスが勝手に角を曲がって走っていく。
住民が何だなんだと振り返り、ローレンスだと知ると騒ぎ出す。
俺たちもローレンスを追いかけると、ある所で呆然と立っていた。
「何でここだけ残ってんだよ...?」
「あっ、そこは...」
メチャクチャ美味い串焼き肉を出す店だったので、こっそり結界を張っておいたのだ。
それが功を奏して被害の激しいこの場所でも生き残っている建物だ。
「おいオヤジ、生きてるのかー?」
そこにローレンスがドアを叩き、叫ぶ。
少しするとドアが開き、年老いた男が姿を現した。
「おや...? まさかローレンスか?」
「そうだよ、ヴォルティネアのバカ息子だ」
ローレンスは英雄だがなった時は平民だ。
その理由はヴォルティネア家を追い出されたからだ。
追放後一念発起して軍隊に入り、大活躍して元の家に戻ったというやれば出来んじゃねえかお
前!!! と叫びたくなるような人物であった。
ローレンスにまさか知り合いなんてもんが居たとはな...
「おお、そこに居るのはユウキじゃないか、今日はお休みだぜ」
「ああ、材料が手に入んねえもんな」
「いやー、皆余裕がなくてな...カネはあっても、こんな暗い時代に未来も無いのに...と鬱屈として
んのよ...ローレンスがここいらで活躍してくれりゃあこの気分もちっとは晴れんのかねぇ」
串焼き肉屋のオヤジはそう語った。
ローレンスは一瞬複雑そうな顔をし、こちらを見る。
自分なんかよりこいつの方がよっぽど活躍できる、そんな顔だった。
俺はそれに無言で答える。
見てろよ、今は艦長も分からない謎の船〈AVALON〉の誰も信じてくれない見た目は子供の艦長
だが、いずれ誰かの希望になれるようになってやるからな。
「帝国打倒以外に、目標ができたな」
俺は静かにそう思ったのだった。
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