第十話 発進
またストック補充するまでお待ちください。
「はぁ、そうですか…」
エリナからの報告を受け、サーシャ・エスカリアはため息を吐いた。
エリナが催眠にでも掛けられていないならば、常識的に有り得ないあらゆる設備をその身で体験してきた事になる。
「あの少年は…自重というものを知らないのでしょうか?」
「彼に限っては無駄だろう」
フルフェイスマスクが破壊され、一時的に素顔を晒しているエルミアが私にそう言う。
「彼に自重を求めるならば、自由を好む彼は敵に回るだろう」
「それが厄介なのですよね…そこも好きなポイントですが」
自由を求め、凄い力を振るえるのにも関わらず帝国側には付かず、この周辺国からは半ば終わった国とされているエスカリアに味方してくれる。
その理由は金でも愛国心でもなく、ただ孤児院の家族の為である。
「それにしても、彼は何故戦艦など作って遊んでいるのだ? さっさと兵器でも作り帝国を滅ぼせば良いものを」
「ここは第七エスカリアなのですよ? 規模のわからない帝国を潰したとして、もし生き残りがいれば…」
「他のエスカリアが危ない、という事か…」
「ですから、彼はおそらくあの艦をベースに戦艦を大量生産し、防衛戦力を編成するつもりだと思います」
「何とも、えげつない」
報告で聞いたユウキの戦艦の、常軌を逸したあらゆる設備、武装、装甲。
それに………
私はふと、大戦艦の留まっている場所を見る。
そこには何もない。
何もない風に見えるかもしれないが…
桟橋から飛び降りようとすれば透明の何かに激突する事だろう。
そう、アレはレーダーや熱源感知、生命反応感知、魔力感知、魔眼の類い全てを騙すことの出来るステルス装甲で覆われているのだ。
「あんな装甲は見たことがありません」
「彼には秘密が必ずあるが、今はまだ聞くべき時ではないのだろうな」
秘密を無理やり聞くのは、エスカリアが平和になってからで良い。
エルミアとサーシャは同時にそう思ったのだった。
ピピピピピピピ…
アラームの音で俺は飛び起きた。
目を開ければスタンドの暖色の光に照らされた部屋が視界に映った。
「朝か?」
『おはようございます、本日の天気は晴れです』
天井がカパっと変形して、マニピュレーターとモニターが降りてくる。
モニターには今日の天気と時刻が表示されていた。
今日の天気は毎日晴れである。
今は雨雲の下に浮かぶエスカリアに居るが、普段は雲すらない高空を飛ぶからな。
それよりも…
「10時!?」
『お寝坊さん…ですね』
「うるせいやい」
昨日は艦内中を歩いたお陰で疲れ気味だっただけだもん!
俺はTシャツに着替えて、プシューとドアを開けて外に出る。
寒色の光に照らされた廊下を歩き、中央エレベーターホールへと出る。
エレベーターに乗り、艦橋へと一気に上昇する。
このエレベーターは紐吊り式ではなく、左右の滑車で上昇していくタイプのものだ。
このおかげでコアシップが分離/合体しても無事でいられる。
「あ、艦長おはようございます」
「結局ここで良かったのか?」
「はい!」
エリナは艦橋の左右に埋め込まれた席のうち、右側を取った。
「よし…じゃあエリナを副艦長に任命し、パトロールに出発する」
『了解』
途端、AVALONの管内図が表示され、一斉にバーが流れていく。
艦橋の電気が一瞬消えて、また付いた。
「補助エンジンアイドリング解除」
『了解』
補助エンジンは普段、微量の魔力を消費して低活性状態で動いている。
そのエネルギーが艦内で消費されるのだが、アイドリングを解除した瞬間、艦内のあらゆる設備に送られていたエネルギーはメインエンジンに優先して供給される。
『メインエンジンに十分なエネルギーが供給されています、メインエンジン起動』
ゴウン!
と音がして、低い駆動音が下から響いてくる。
『フライホイール接続』
グ・オ・オ・オオオオオォォォォン!
あの似非フライホイールが回転を始め、どういう原理かは知らないが魔力の流れが安定し始める。
「艦長、メインエンジン噴射まで10秒です!」
エリナが嬉しそうに言う。
「魔力場安定、噴射システム、推進器に異常なし」
この艦には浮遊石があるため魔力場は必要ないのだが、一応ね。
魔力場もこんだけデカい船だと不安があるし…
エスカリア最大の戦艦として知られるハイペリオン級も浮遊石で飛んでるしな。
ゴオオッ!
後方から音が響く。
すぐに減衰したのはサイレンサーの効果だろう。
エンジンが放つ駆動音などは全て魔導消音器のお陰で消え去り、うるさい船という印象を与えない。
「よーっしゃ、前進!」
「前進です!」
『前進』
静かに、ステルスを解除しつつAVALONは蒼穹に飛び立った。
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