【水着商法】緒方倫
「倫、専属モデル契約おめでとう!」
文の取り出したファッション誌を輪になって覗き込むいつもの面々。開いているのはもちろん倫のページ。
「あは、この拗ねたみたいな表情かわいいですね、倫さん」
「……みたいなじゃなくて、拗ねてるの」
グラビアと同じ顔。当の倫は輪から外れて背中を向けている。
「ねぇクールビューティ。この撮影のさぁ――」
「誰がクールビューティだ!」
「書いてあるから。『この夏最注目のクールビューティ』」
「わたしが書いたんじゃない! 事務所に勝手にインテリキャラを作られたの!」
「なるほど。キャラあった方が売り出しやすそうだしなぁ」
「わたしが趣味は読書だって話したからかな」
「読んでるのはやらしい本なのにな」
ここに写ってる本もそうなの?
「そもそも。この写真のコンセプトなに? マフラー巻いて眼鏡かけて本開いて、で、水着! 一体何シチュなんだよ!? 」
属性盛りすぎではあるな。
「あ、撮影したのはまだ二月だったから?」
「スタジオしっかり暖房かかってましたぁ!」
「眼鏡もマフラーもとっても似合ってますよ」
「そりゃ私物ですからぁ! あと!」
倫はページのアオリをさす。そして文をじーーっと見る。
「 こ れ 文 が バ ラ し た の か な ? 」
――わたしは群れない。
ぶはっ。
「うん、かっこいいかなぁと思って」
本気で思っているから罪悪感がない!
「いいわけあるかーーっ!! 黒歴史が国会図書館に永久保存されたっ!! 」
「あはは、熱くなるなよ、クールビューティ」
「がああああっっ!! 」
「あはははは」
いつものいつもの。
おしまい。