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我々を殺してしまわないものは、我々をより強くしてくれる。


私は表紙を眺めながら、かつて何度も反芻はんすうしたこの言葉を思い出していた。

まだ少し幼さを残しながらも、成長した姿でそこに座る彼はまさしく魔性。

自らの色の袍を纏う彼は美しく凛として、だが陰があり、それは彼の乗り越えねばならなかった受難を想起させた。


彼は殺されかけた。

力も奪われた。


だが、強くなった。


静かにこちらを見据える眼差しが、そう語っている。

左目が、いや、なんでもない。

背景に描かれてる建物は、恐らく天上の宮城きゅうじょうであろう。

これから始まる物語の表紙を飾るに相応しい姿絵だった。






そして購入してから五日目、私は万感の思いでページを繰る。


最初の目当ては地図だ。


まず全ての国の位置関係を把握して、それぞれの国を舞台にした物語の記憶を掘り起こす。


長い間、風雪に晒され掠れてしまった石碑の文字を、指でなぞるかのように。


幸い、積もっていた雪は沫雪あわゆきであり、記憶自体はすぐ見つかった。


それは戦乱の記憶だけではなかった。

合間合間に紡がれる、人の誠実さや実直さ、清廉さ。

共に苦難を乗り越え、時には敵対しながらも信頼で結ばれ、無二の友となったり、結局はなりえなかったり。

穏やかな青鳥せいちょうでのやり取りや、活気を帯びはじめた市井しせいの様子。

個性的な王や麒麟、その麾下である将や官、友人、黄朱こうしゅや妖魔。

そういったものが、まざまざと思い出された。

ーーだが。



私は、自分の記憶に違和感を覚えた。



果たして、今、脳内で再生されている会話は、絵は、本当に公式のものだろうか。


私は何か、いや、誰かに、記憶を改竄でもされたかのような不気味さを感じていた。


歴史は変わってはいないはずだ。


だが、人と人との関係性、というか、それがあったかもしれない会話なのか、実際にあった会話なのか、なかった会話なのか。


それが分からない。



私は、何処までが公式で何処からが妄想なのかが分からなくなっていた。

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