六
我々を殺してしまわないものは、我々をより強くしてくれる。
私は表紙を眺めながら、かつて何度も反芻したこの言葉を思い出していた。
まだ少し幼さを残しながらも、成長した姿でそこに座る彼はまさしく魔性。
自らの色の袍を纏う彼は美しく凛として、だが陰があり、それは彼の乗り越えねばならなかった受難を想起させた。
彼は殺されかけた。
力も奪われた。
だが、強くなった。
静かにこちらを見据える眼差しが、そう語っている。
左目が、いや、なんでもない。
背景に描かれてる建物は、恐らく天上の宮城であろう。
これから始まる物語の表紙を飾るに相応しい姿絵だった。
そして購入してから五日目、私は万感の思いでページを繰る。
最初の目当ては地図だ。
まず全ての国の位置関係を把握して、それぞれの国を舞台にした物語の記憶を掘り起こす。
長い間、風雪に晒され掠れてしまった石碑の文字を、指でなぞるかのように。
幸い、積もっていた雪は沫雪であり、記憶自体はすぐ見つかった。
それは戦乱の記憶だけではなかった。
合間合間に紡がれる、人の誠実さや実直さ、清廉さ。
共に苦難を乗り越え、時には敵対しながらも信頼で結ばれ、無二の友となったり、結局はなりえなかったり。
穏やかな青鳥でのやり取りや、活気を帯びはじめた市井の様子。
個性的な王や麒麟、その麾下である将や官、友人、黄朱や妖魔。
そういったものが、まざまざと思い出された。
ーーだが。
私は、自分の記憶に違和感を覚えた。
果たして、今、脳内で再生されている会話は、絵は、本当に公式のものだろうか。
私は何か、いや、誰かに、記憶を改竄でもされたかのような不気味さを感じていた。
歴史は変わってはいないはずだ。
だが、人と人との関係性、というか、それがあったかもしれない会話なのか、実際にあった会話なのか、なかった会話なのか。
それが分からない。
私は、何処までが公式で何処からが妄想なのかが分からなくなっていた。