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次に私は、今作の題名を咀嚼し始めた。

そしてその色から想起させられる主従を思い浮かべる。


恐らく、やっと……やっと前に進めるのだ、あの主従は。


永かった。

だが私などより、あの降って湧いたような凶事から今まで、自分の力だけではどうしようも無かったあの従と、恐らくは同じような状態であろう主のほうが、自らの内にある天命、そして彼らの性質により、久遠とも思える年月を過ごしてきただろう。

無為に過ごしていたはずがない。

共に過ごせた僅かな時間の思い出を糧に、やらねばならないことを胸に秘め、怨嗟に心を痛めながら過ごしてきたはずだ。

今度こそ皆に幸せになって欲しい。

心からそう思うのだが……。


そして次に連想されるのは、静けさ、廃墟、空虚、囚われの身であること、そして蝕。

これはそう簡単に幸せになるわけにはいかないことを暗示している。

勿論そうだろう。

ただこちらに戻ってこれただけで力は無く、誰が味方であるのか、何処にいるのかすら分からないのだから。

道が失われた訳ではないにしろ荒廃は更に進んでいるだろうし、地続きの他国が無いことから民草が流民になることも容易ではない。

逃げることが出来なかった多くの民が失われたことだろう。

粛清は苛烈であろうし、何人もの有能な人物が無念にも散ることだろう。



この時私は、自らの内の、ある大きな感情を認めなければならなかった。


戦乱、そして悲憤。


これこそが、私の求めていたものだ。


私は読むべき物語がそこにあり、彼等が苦しむことを知って安堵し、更には喜悦すら覚えている。


当たり前だ。


「公式は安易にハッピーエンドに進んでほしくない」


これが嘘偽りのない、私の非情な心からの叫びだ。


幸せになって欲しいなどよく言えたものだ。

いや、幸せになって欲しいのは山々なのだが、それは紆余曲折のうえ数々の苦難を乗り越えた先にあるはずのもので、幸せも痛みを伴うものであるはずなのだ。

だからこそ、ひと匙の幸福で何杯も飯が食える状態になるのだ。



……さすがは主上。

宝玉をその腕に抱えた数々の苦難、それを用意するのに十八年も掛かったのですね……。

苦しかったことでしょう。

施しを待つ憐れな民の為に、四百字、二千五百枚もの大作を書き上げたのですから。



これまでにない圧倒的な質量で語られるのは、恐らく私では想像も出来ないような哀しみに満ちた峻険な道のりだろう。

だが私は、その旅の終わりに、彼等が幸せになっていなくてもいいとすら思う。


それは、その先にまだ続きがあるかもしれないという幸せな可能性を残すことになるのだから。





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