参
ああ、なんということだ。
私は、信じられないものを見る気持ちで画面をスクロールする。
まさか、買い逃してしまったのか?
確かに私は、あの時、あの二冊しか目に入らなかった。
私はその視野の狭さを悔いた。
だが、おかしい。
その商品名の下にあるはずの星が無い。
二巻の下には既に四つの星が瞬いている。
私はその星を減らした愚かな民に心持ち仄暗いものを感じつつも、期待に震えながら、公式サイトへ移動する。
麒麟便り。
以前何度も更新しては肩を落とした便りである。
だが今、そこには、期待していた言葉が並んでいた。
三巻、四巻、11月9日刊行。
まだ売ってすらいない!!
あの本屋で見たときには想像すら出来なかった幸せな言葉が、そこには並んでいる。
だがこれ以上、このサイトの言葉を読んではならない。
そこにはどんなネタバレが含まれているか分からない。
表紙の人物が誰かということすら今は知りたくない。
私は急いで公式サイトを閉じた。
私はこの時、完全に勝ち組だった。
公式やTwitterを普段からチェックしていたのでは味わえなかったであろう感情を、今味わっている。
驚き、歓喜し、感謝し、落胆し、そして今、愉悦を覚えている。
それは、あの星を付けた民に対しての優越感を含んでいた。
あなた方がもう読んでしまったであろうその二冊を、私はこれから、新鮮な気持ちを持って読むことが出来る。
そしてこの二冊を読み終えてしまっても尚。
続きが刊行されることが決まっている。
そしてその読み方は私次第。
一気に読もうが、ゆっくり読もうが、あと四冊もあるのだ。
数々の戦乱に巻き込まれ、行方の知れなかった主上。
講談から新潮への蝕にも耐えたのに、もしかしたらこのまま先を知ることなく、主上か私のどちらかが斃れることもあろうかと思っていた。
寝台の上で、廃されたはずの伏礼を取る。
……主上、私には感謝しかございません。
いつまでも続いて欲しいなど言えるはずがございません。
全ては主上の御心のままに、ご随意にお書き頂いたものを、時々こちらの世界にお持ち頂ければと願うばかりでございます。
そうして私は、二冊の本を手に取り、ブックカバーを外し、美麗な表紙を眺める務めに勤しんだのだった。