弐
そうだ、神棚を作ろう。
帰宅した私は殆ど自然に、そう思った。
私に信仰している神はいない。
故に家には神棚と呼べる物は無かった。
どんな推しが居ても、祀るという感情までは湧いてこなかったのだ。
その推しが統べる世界で慈しむことが出来れば、それで充分だった。
私は我が家の内に、神棚に成り得る場所を探した。
その場所は清潔で湿気が籠もらず、かつ日光の当たらない場所でなければならない。
だがうろうろしながら、既存の家具や設備では納得のいく神棚が出来ないことがわかった。
かと言って、本棚に入れるわけにはいかない。
そんなものに、私のこの気持ちは納まらない。
そう、この感情をおさめる……。
そうだ、聖櫃を作ろう。
私は、殆ど自然にそう思った。
聖櫃、それは特別な箱。
かつてモーセの十戒をその内に納めた契約の箱。
私はその神聖な箱を、我が家の内に追い求めた。
だが見つかったのは、段ボール製の箱ばかり。
BOOKOFFやAmazonと書かれたその紙の箱は、手に入れた本を納めるには相応しく無かった。
打ちひしがれた私は寝台に腰を掛け、寝台脇の台に置いた本屋の袋を眺める。
購入してから三日が経とうとしている。
私は十指を組み、主上に詫びた。
お迎えする準備が足りなかったことではない。
私がここでこうやって右往左往する、その気持ちしか主上に捧げることが出来ないことを。
もちろんそんなもの、主上は望んでいらっしゃらないことは分かっている。
主上は、主上を待ち望んでいた民の為にこうして物語を書き続けている、高潔なお方だ。
私の行動など、私の自己満足にしか過ぎない。
もっと主上に感謝を捧げたい。
もし続きが無かったとしても、無論文句などない。
この世界を作ってくれてありがとうという気持ちしか無い。
そこに、こうやって、二冊の本を送り出してくれた。
感謝してもし尽くせない。
そうだ、もう一回買おう。
私は殆ど自然に、そう思った。
インターネットで買うべきものを検索する。
もちろんすぐに見つけた。
そして私は、信じられないものを目にする。
小野主上の新刊。
さ、三巻に……よ…四巻……だと……?