5
大衆浴場から出た俺たちはそのまま武器屋へと向かった。
「いらっしゃい」
店の奥から声がかけられたのでそちらを見ると、厳ついスキンヘッドのおっさんがいた。
「こいつでも使えそうな武器はあるか?」
クーは店内が珍しいのかきょろきょろと周囲を見回していたが、自分が見られているのを感じたのか動きが止まった。
おっさんが顎に手を当てながら考える。
「ふむ……。まだ武器を持つには早い気がするが、持たせるとしたらこれぐらいだな」
おっさんは壁に掛けられているナイフを数本カウンターに並べる。
「子供用の剣はないのか?」
「すまんな。うちにはそこの坊主が使えるぐらいの剣はないんだ」
(坊主? まあ訂正も面倒だしいいか)
「なるほど、それでナイフってわけか。まあいいやとりあえずこれをもらおう」
カウンターに並んでいる中から適当に一本取り購入を決めた。
「まいどあり」
「ほれ、クーいくぞ」
俺が声をかけると、クーは慌てたようにこっちに走ってくる。
すると、何かにひっかかったのかクーがこけ、咄嗟にテーブルにかかっている布をひっぱった。
その拍子に並べられていた剣のいくつかが落ちてきた。
「クー!」
俺は咄嗟に手を伸ばしクーをかばう。
刃が当たったのか腕に少し痛みが走り、直後にガシャンと大きな音がした。
(クーは……大丈夫そうだな)
倒れた拍子に擦りむいたのか腕が少し赤くなっているが。
「大丈夫か?」
おっさんが声をかけてくる。
「ああ。問題ない。それよりもすまん。商品を落しちまった」
「なに、それぐらいなら心配すんな。別に折れたわけじゃあるまい」
「そういってもらえると助かる」
そういって立ち上がろうとすると、クーがびくびくと怯えた様子でこちらに近づいてきた。
クーに向けて手を伸ばすと、叱られると思ったのかぎゅっと目を瞑りシャツの端を握りしめている。
頭の上に手を乗せると、一瞬ビクッと震えたが、そのまま撫でてやるとゆっくりと目を開けこちらを上目使いで見て来た。
「大丈夫だ。怒ってるわけじゃない。それよりもクーが無事でよかった」
にこりと笑いかけてやると、クーも釣られて笑いそうになったが、俺の腕のケガを見てすぐに笑顔を引っ込めた。
ちょっと血が出ているが、大したことはないから気にするな、と声を掛けようとしたが、それよりも先にクーが俺のケガに向けて両手をかざした。
直後、クーの手から緑色の光が発せられ腕にあった傷が消え去った。
「クー……お前、回復魔法が使えたのか」
武器屋のおっさんも驚いたらしく、クーの方をまじまじと見ている。
「坊主は魔法が使えたのか。それならここよりも魔道具屋に行った方がいいかもしれないな」
「魔道具屋?」
「ああ、ここから少し行ったところにあるんだが魔法に関する道具を扱ってる店がある」
「わかった。そっちも行ってみる」
クーに声をかけて、武器屋のおっさんの言っていた店に行き、中に入る。
(確かに魔法って感じがするな)
店内を見回すと、杖が立てかけられていたり、瓶に入った液体が並べられたりしている。
ナイフも並べられていたが、先ほどの武器屋で見たものとは違い、やたらと華美な装飾が施されているものが多い。おそらく戦闘ではなく儀式に使用するものなのだろう。
「おや、いらっしゃい。見かけない顔だがなんの用だい?」
店内を見回していると声がかけられる。
声の主を確認すると、黒いローブをまとった老婆がいた。
「こいつに魔法の素質があるらしくてな。それでここをおすすめされたってわけだ」
俺の後ろに隠れていたクーの背中を押し、店主の前に立たせる。
「ほうほう」
じろじろと眺められる視線が怖いのか、なんとかして俺の後ろに逃げようとしている。
「じゃあちょっとカウンターの方まできとくれるかい」
ごそごそと何かを探しながらこちらに呼びかけてくる。
俺は言われるままにクーを連れてカウンターの方へと近寄る。
老婆は目当てのものを見つけたのか、カウンターの上に大きな水晶玉を置いた。
「さて、じゃあ魔法の適性を見るからこの上に手を置いてくれるかい」
クーは恐る恐るといった感じで水晶玉の上に手を置いた。
「ふむふむ」
俺も一緒になって水晶玉を覗き込んでいると、
何やら青く光っている。時折白色にもなっているようだ。
(しかし、なんだ? 青色の光はかなり強いのに、反対に白の光はそこまで強くない気がする)
「お前さんは水魔法の適性がかなり高いみたいだね。そして回復魔法の適性も多少はあるようだ」
水晶玉を片付けた店主は、カウンターから出てきて店内を回り、数冊の本と一本の杖を持って戻ってきた。
「ほら、属性魔法の入門書と回復魔法の入門書、それとまだ早いかもしれないけど適性が高かったから水魔法の中級魔導書、それから青魔石を使った入門用の杖だ」
「青魔石ってのは?」
「杖には魔石ってのが付いていて魔法を使う際の補助を行ってくれるんだが、その色によって効果が強まる魔法が変わる。青魔石は水魔法を強化してくれるのさ」
(なるほど、得意な魔法を更に強化してくれるってことか)
「わかった。全部もらおう」
「こっちで用意しておいてなんだが結構値が張るよ? いいのかい?」
「問題ない」
「まいどあり。それとこいつはおまけさ」
そういって小瓶を三つ取り出してカウンターに置いた。
「これは?」
「マジックポーションだ。魔法ってのは魔力を使う。魔力は時間とともに回復していくが、急いで回復させたい場合はこれを飲むのさ」
「ありがたくもらっておく」
商品を受け取った俺は一度荷物を置きに宿屋に戻った。