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雑貨屋に行き着替えを購入し、目的地へ向かう。
腹が膨れて少し落ち着いたのかべったりとくっつくことはなくなったが、服の端をぎゅっと握られているためあまり速度は出せない。
そのまま歩き続けていると聞いた通りの場所に大衆浴場があったので、料金を二人分払い中に入る。
脱衣所に行き脱いだ服を籠の中に入れていく。服を脱ぎ終えたところで振り返ると、べったり着いてきていたクーが離れたところにいる。
「どうした?」
クーの方へ近寄ると、近づいた分だけ離れていく。
じりじりと近づいて距離を少しでも近づけて……(今だ!)
脚に力を溜め瞬間的に加速し接近すると、クーは反応できなかったようで、あっさりと捕まった。
クーを抱えて籠の前まで戻り、服を脱がせようとすると、今までで一番の抵抗をされた。
首を振りながら必死で裾を引っ張り、決して脱がされまいと抵抗をしている。
(子供とは言え、他人に裸を見られるのは恥ずかしいもんか。ま、だからと言ってやめるはずがないが)
そうしているうちに元々痛んでいたからか、ビリっと音がしてクーの服が裂けた。
「――っ!」
すとん、と服が落ちるとそこには何もなかった。
股間にあるはずのものが、なかった。
「あー……なるほどな。すまん」
クーは全てを諦めたような顔でその場にぺたんと座り込んでしまった。
ひとまずはここにいても仕方がないと何も抵抗しなくなったクーを抱えて浴場の方へ行く。
(おー、思っていたよりも立派なもんだな)
何種類かの湯船があり、それぞれ疲労回復や解毒作用など、いろいろな効能があるようだ。
ひとまずは体を洗うかと洗い場に行き、すっかり大人しくなったクーを椅子に座らせる。
湯桶でお湯を救いながらクーの方を見ると、ぎゅっと目を瞑り、ふるふると小刻みに震えている。
頭にポンと手を置くと、一際大きく震えたが、気にせずにお湯をかけていく。
ザパっと頭からお湯をかけると何が起きたのかと目を開きキョロキョロと周囲を見回した。
あ、今目を開けると……
「――!」
案の定お湯が目に入ったのか、両手を目に当てて悶絶している。
もう一度お湯を掬い、今度はゆっくりとお湯をかけながら頭を洗ってやる。
だんだんと慣れて来たのか既に震えは収まり、されるがままになっている。
(さて、頭も洗い終わったし次は……と)
備え付けてあったタオルをクーに渡してやり、自分も同じものを持ち、それで体をごしごしと擦り見本を見せる。
クーも見よう見まねで同じ動作を行い、こちらを見て首をかしげる。
「そうだ。あってるぞ」
俺が頷くのを見ると、クーは嬉しそうな顔をして全身をごしごしと洗い始めた。
(大丈夫そうだな)
クーの様子を見てそう判断した俺は、自分の体を洗い始める。
ある程度洗い終えたところでクーの方を見ると、背中を洗うのに苦戦しているようだった。
「クー、こっちこい」
呼びかけると、さっきの警戒心は嘘のようにこちらに寄って来る。
くるっと向きを変えクーを後ろ向きにすると、クーの背中にタオルを当てて洗ってやる。最初に一瞬だけ驚いたような感じがしたが、すぐに何をされているのかを察して大人しくなった。
まあこんなもんか。
「よし、終わりだ」
しっかりと洗ってやった後、頭にポンと手を置いて終わりを宣言する。
さて、あとは軽く体を流して風呂に浸かるかと考えていると、クーが俺の背後にまわり背中をぺちぺちと叩いてくる。
「どうした?」
クーの方を振り返ると両手でタオルを持ってごしごしと何かに擦りつけるようなしぐさをしている。
「もしかして俺にやってくれるのか?」
クーがこくこくと頷いたので、
「じゃあお願いするか」
と背中を向けるとすぐに背中で何かが動いているのを感じた。
ちらっと後ろを見ると、クーが一生懸命手を動かして背中を擦っている姿が見える。
(んー、正直力が弱すぎてあまり洗えてない気がするが……悪い気分じゃないな)
そのまま五分ほど経過し、疲れて来たのか背中に感じる力が弱まってきた頃、
「ありがとう。もう十分だ」
と言って振り返ると、満足そうにうんうんとうなずきながら額の汗をぬぐっているクーが見えた。
二人で体を流した後、一番近くにあった風呂に浸かる。
(あー、いい感じだな。昨日の疲れが吹き飛ぶ気がする)
少しお湯の温度が高かったのか、クーは片足を浸けてすぐに引っ込めてしまったが、既に風呂に浸かっている俺を見て恐る恐ると足を入れる。
両足を入れたところでぎゅっと目を瞑り熱さに耐えながらこちらに向けてざぶざぶと……
「クー、止まれ!」
俺は思わず叫んだが遅かった。次の瞬間にはクーの姿はお湯の中に消えていた。
俺はすぐにクーのところに行き引っ張り上げる。
クーは一体何が起きたのかとじたばたと暴れていたが、目の前に俺がいるのを認識すると体の力を抜き安堵の表情を浮かべた。
クーを抱えたまま元の位置に戻り、クーを浴槽の縁に座らせる。
「ちゃんと目を開けて歩かないと危ないぞ。ほら、あそこを見てみろ」
そう言って俺は風呂の中を指さす。そこには段差があり、その先は風呂が一段深くなっている。
「この風呂は体の大きいやつでも入りやすいように真ん中の方が深くなってるんだ」
クーは俺が指差している場所を見ようと体をひょこひょこ揺らしたり、首を伸ばしたりしている。
だが結局見えなかったのか、恐る恐るといった感じで湯船の中に足を入れていく。そして慎重に俺が指差している近くまで行き確認をしている。
クーがザバザバと戻ってくるとじっと俺の方を見てくる。
「どうだ? わかったか?」
クーはこくこくと頷き俺の隣に座った。
最初はギュッと目を瞑っていたが、徐々に全身の力が抜けていきリラックスしているのがわかる。
「真ん中に行かなけりゃ問題はないからな。さてあとは百数えるまでゆっくりと浸かってから出るだけだ」
そういって俺はクーの前に指を出す。
「いーち、にー、さーん……」
言いながら俺は順番に指を立てていく。
クーも真似をしているのか同じように指を動かしている。
「……ろくじゅーいち、ろくじゅーに……」
クーは途中でわからなくなったのか湯船の中に手を戻している。
そのまま数を数えていると、クーが少しふらふらしているように見えた。
「クー? 大丈夫か?」
クーは頷いているが、顔が赤い。
(まあ無理をする必要はないか)
「よし、そろそろ上がるか」
その後体を軽く流したあと脱衣所に戻り、体をしっかりと拭いた後服を着る。
「その服でよかったか?」
クーの姿を眺めながら俺は問いかける。
男だと思っていたため、服装は白色のシャツに茶色の短パンという、これでもかというぐらいの少年ルックの服装だ。
(さっき風呂の中で見たときも思ったが、顔だちは整っているしちゃんと女の子向けの服を買ってやった方がいいか?)
俺がクーのことをじっと見つめていると、クーは火照った顔で自分の服装を眺めた後、クルっとその場で回った後こちらを向いて首をかしげる。
そのままじーっとこちらを見てくる。
どうしたのかと思っていると再びくるっとまわったあとこちらを見てくる。
これは、感想が聞きたいってことか?
「あー、似合ってるぞ」
そう伝えるとクーはにこっと笑い飛びついてきた。
お風呂から上がったばかりだからか、クーの体はかなり熱かった。