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冒険者が子供を拾う話  作者: よよよ
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2

街に着き商人から依頼の達成の証明書を受け取った後、子供を背負って宿屋に向かった。

「一部屋空いてるか?」

宿屋についてすぐに主人に尋ねる。

「ああ、空いてるぜ。一晩銀貨三枚だ」

金を払い部屋に着くと、子供をベッドに寝かせて様子を見る。

すっかり容態はよくなったようで、穏やかな寝息を立てている。

まだしばらくは起きそうになかったので、ひとまずギルドに依頼の達成を報告に向かう。

ギルドに着くと、受付へ行き、先ほど商人からもらった証明書を渡す。

受付は確認した後、一旦奥へと戻り小袋を一つ持って戻ってきた。

「はい、これが今回の報酬となります」

「おう、ありがとよ」

小袋を受け取ろうと手を伸ばすと、ひょいとその手がひっこめられた。

「ユウさん、あなた依頼人に護衛を辞めるぞと脅したそうですね」

視線を明後日の方へ向け、口笛を吹いて誤魔化す。

「そんなことをしても無駄です。先ほど依頼人の方から直接苦情を言われましたから」

(あのやろう、ちくりやがったな)

「くれぐれも何か復讐してやろうなんて考えるのはやめてくださいね。逆恨みもいいところですから。それと以降こんなことは止めてくださいね。ギルドの評判にかかわりますから」

適当に説教を聞き流しながら相槌を打っていると、不意に耳を引っ張られた。

「聞いてますか。いくらあなたがBランクの冒険者といっても資格をはく奪されることもあるんですからね」

「わかった! わかりました! 今後気を付けます!」

「まったく、ちゃんと依頼をこなしていればAランクでもおかしくない経歴なのに……」

受付は耳から手を離すと、改めて小袋を差し出してきた。

「ではこれが今回の依頼料となります」

俺は小袋を受け取るとすぐにポケットに入れ宿屋に戻ることにした。


宿屋に戻るころにはすっかり日も暮れていたので、二人前分の料理を作ってもらい、それを持って部屋へと戻った。

部屋に戻ると机に料理を置いた後ベッドを確認すると、子供はまだ眠っているようだった。

じきに目を覚ますだろうと食事を取っていると、ベッドの方でもぞもぞと動く気配があった。

「お、やっと起きたか」

子供が体を起こし、きょろきょろと周囲を見回していると、不意に俺と目が合った。

「や、おはよう」

軽く手を上げて挨拶をした瞬間子供はベッドから転がり落ちるようにして飛び退き、部屋の隅まで逃げた。

「――! ――!」

怯えたような表情で口をパクパクとさせているが声は出ていない。

「大丈夫だ、俺は敵じゃない」

手の平を向けてひらひらと振り、何ももってないということをアピールしながら近づこうとすると、目を瞑りぶんぶんと首を振って拒絶の意思を表示してくる。

「どうしたもんかな……」

と考えていると、机の上に置いた料理が目に入った。

(まあ試してみるか)

「ほれ、もう夜も遅いし腹が減ってるだろ。食え」

料理を持って子供の方へ近づく、すると向こうも匂いに気付いたのか、警戒しながらもゆっくりとこっちへと近づいてくる。しかし一定の距離以上は近づいてこようとはしない。

俺は料理の皿を床に置いて、少し距離を取った。するとその瞬間に子供は皿を抱えてすぐに部屋の隅に戻ると、手づかみで料理を貪り始めた。

「おーおー、そんなに焦って食べると喉に詰めるぞ」

警告をしたが、その心配はまったくなく瞬く間に料理を食べ終えてしまった。

ただそれだけでは足りなかったのか、まだ机の上に置いてある俺の分の料理に視線が釘付けになっている。

まあまた作ってもらえばいいか。

「ほれ、これもやるよ」

俺は机の上の皿を取り目の前の床に置く。

すると子供は恐る恐るといった感じで近づき、よほど腹が減っていたのか、それとも多少は警戒を解いてくれたのか今度は部屋の隅まで持っていくことはせず、その場で食べ始めた。

「おー、いい食いっぷりだな」

何気なく手を伸ばして頭に触れる。

触れた瞬間、驚いたのか距離を取り、怯えたような表情でこちらを睨んできたが、何を思ったのかマジマジと手のひらを見つめると、自分から手に頭を擦りつけて来た。しばらくそうした後、ぱぁっと今までの怯えが嘘のような明るい表情を見せた後、にこにこと食事を再開した。

「なんなんだ? ……まあいいか」

考えても仕方がないかと気にしないことにして子供が食事を取っている間、適当に頭を撫でてやると、その度に嬉しそうに眼を細めていた。

子供は食事を終えると目を擦り始めたので、抱きかかえてベッドに寝かせてやると、すぐに寝息が聞こえて来たので、俺も床に余っている布団を敷いて眠る準備をする。

「まあ拾ったからにはちゃんと最後まで面倒はみるべきだよなぁ」

(せめて一人で生活できるようになるまでは面倒見てやらないとな)

そんなことを考えながら目を瞑ると、いつの間にか眠りに落ちていた。

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