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第一話

まばゆいビルの明かりとなまぬるい風が夜の街を包み込んでいる。出歩く人もちらほらとしか見当たらない。

寒くて暑い日に夜が訪れてからもう三年の月日が経っていた。

朝が始まり夜が終わらない。ただそれだけのこと。

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すこし歩くだけでじわりと汗が吹き出してくるのを感じる。

陽の光が容赦なく照りつけ体を蒸し焼きにしようと企んでいる。

たまらず着ていた麻のジャケットを脱ぎ、できるだけ丁寧に小さく畳み込みリュックサックに詰めた。

最近は一日の中に四季があるみたいだ。


足を少し速めて目的地を目指す。

今日は月に一度の恒例になっている大学の友人らとの集まりがあるのだ。いわゆるティーパーティーってやつだ。

飲み会ではない。ティーパーティーだ。

自分でいうのもなんだが現代の若者のリアルなどそんなものなのである。


駅から15分ほど歩いたところでやっと目的地のカフェが見えてきた。真っ白できれいな外観。店先の黒板に綺麗な文字で書かれたおすすめのスイーツたちの名前。

ひとつひとつのスイーツに「ふわふわ」だの「とろーり」だの定番の形容詞が並んでいる。僕の求めていた「ひんやり」はいないよう。


お洒落な木のドアを開けて中に入ると僕の求めていた「ひんやり」な空間が待っていた。ありがとう。


「いらっしゃいませ。お一人様で宜しいでしょうか。」

「あ、待ち合わせなのですが。」

店内を見渡すと一番奥の席で手を振るメガネの痩せた男の姿が見えた。

店員さんに断り、奥の席に向かう。

「よお!比呂!久しぶり!」

「うん、久しぶり。ドクター。」


紹介が遅れた。三島比呂。それが僕の名前だ。

普段は家電からロボットまで幅広く開発、販売を行う会社で営業職を務めている。

そして彼はドクター。医者ではない。ドクターは彼のいつも飲んでいた飲み物からつけられたニックネーム。詳しくは知らないが車のエンジンを開発するような仕事をしているらしい。

大学時代、特にサークルもゼミも同じという訳ではなかったがいつの間にか仲良くなっていた。


四人がけのテーブル席に座るドクターの前の椅子にリュックサックを引っ掛けて座る。

ドクターはもうすでにティーパーティーを始めていたようで机の上にパンケーキと紅茶が並んでる。

僕もドクターと同じ注文をして一息つく。

「あかりはまだなんだね。」と訊くと

「ああ、なんか道に迷っているみたいだよ。」とドクターは面白そうに答えた。

なんともあかりらしい。あかりもティーパーティー会員のひとりで大学の同級生。学生時代から「ふわふわ」っとしてて「とろーり」としたティーパーティーにぴったりな女の子だった。本人に怒られそうなのでこれ以上は言わない。彼女とはゼミが一緒で仲良くなりよく遊ぶようになった。今はどこかの大手企業の受付嬢として働いているらしい。確かに容姿だけをみるのなら彼女を受付に置くのはベストな選択といえるだろう。これ以上は言わない。


「今日も暑いし寒いし嫌な天気だよな。」

「そうだね、朝は肌寒いくらいだったのに。今はもう暑くて倒れそうだったよ。」

「比呂は営業マンだから外回りも大変だよなー。最近仕事はどうなのさ。」

「んー、なんとかやっているって感じかな。最近、商品の売れ行きが驚くほどよくてさ、営業するというより商品の説明で奔走してる感じで。」

「ほおー。すげぇんだな、お前んとこ。俺んとこは技術力じゃ誰にも負けないと思ってるんだけどどうも宣伝が下手でなあ。比呂営業してくれよ!」

「ははっ。僕の営業力なんて知れたもんだよ。」


こんな感じでお互いの近況を伝えあっているとシャツの胸ポケットから突然振動が伝わる。


「おっと、電話。ちょっとごめんよ。」

ドクターに断りをいれて店の外に出る。暑い、灼熱だ。

スマホの画面には「あおい」の文字が表示されており急いで電話をとる。

「もしもし。あおい?」

「うん、また電話しちゃった。」

あおいは笑いながらそう言った。

「比呂元気でやってる?変わりない?」

「ああ、元気。電話くれてうれしいよ。それよりそっちの話を聞かせてくれよ!」

「うん、今日も地球は青くてきれいだよ!」


あおいは僕の幼なじみで初の民間宇宙ロケットに乗る宇宙飛行士。明日の昼頃あおいは地球に戻ってくる。

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