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20:引きずり込まれた先がボス部屋とか何の冗談!?

 渦を巻いた力。


 それに捕われ振り回されたのぞみに、いきなりの浮遊感が襲いかかる。


「ヘヒィ!?」


 渦からか竜巻からか、とにもかくにもペェッとばかりに吐き出されたのぞみは、ぼいんぼいんと尻で弾む。


「んあッ!? ぐわッ!? うぼぁあ……」


 固い床との衝突を繰り返し受け止めた尻を上にして、そのままぐったりと倒れ伏す。


 そんな丸い尻を持ち上げ倒れたのぞみだが、ふと感じた寒気に転がる。

 直後、のぞみの倒れていた床を巨大な塊が叩き割る!


「ヘヒィエェエエエエッ!?」


 その衝撃と床の破片に押されて、情けない声を上げてゴロゴロと流される。


「もぎゃんッ!?」


 そのまま壁にまで押し流されて、ようやく制止。


 渦と、そこから立て続けに転がされて回した目もそのまま、ぶつけられた壁を支えに立ち上がる。


 そうしてのぞみが回した目でとらえた光景は、拳を地面に突き刺したまま、輝く赤い目で見下ろしてくる巨人の姿であった。


「ヘヒ、ヒヒッ?」


 そのインパクトにめまいは晴れたものの、のぞみは引きつり笑いを浮かべたまま固まってしまう。


 その間に無機質な肌をした巨人は地面に埋まった拳を引き抜き、重々しい足音を響かせる。


 そして赤く輝く目でのぞみを見下ろしたまま、その岩塊のような拳を振りかぶる。


 あれが直撃したとしたら、たとえ魔法の防護壁があろうと、ひき肉煎餅一枚の出来上がりだろう。


「ヒィ、ヒィ、ヒィイイッ!?」


 足裏に届いた振動と目に見えた危機に、のぞみは正気を取り戻して支えにした壁から転がるように離れる。


 しかし鈍く輝くほどに磨かれた石の巨人は、標的を見逃すまいと拳を振り上げたままその動きを追いかける。


 だがその動きは、一歩一歩ごとに地響きが起こるほどに重く。それゆえに鈍く。歩幅に大差がついてるにもかかわらずのぞみに追いつけないでいる。


 どんくさい自分でも逃げに徹すればどうにかなる。


 その発見がのぞみの気持ちを落ち着け、自分を狙う巨体以外にも目を向ける余裕を生む。


 のぞみを拳一つでぺちゃんこにしてしまえるだろう巨人が動き回れるだけの広々とした洞穴。

 しかし石や土でできた地面や壁、天井には、逃げ道になりそうなものが何もなく、完全に閉じ込められてしまっている。


 しかしのぞみがモノを見えているように、部屋の中が真っ暗闇だというワケではない。


 壁の一辺。その中央には一抱え程もある玉が収まっており、それが自ずから輝いて放つ光が、部屋の中を明るく照らし出している。


 その他にも、部屋のそこかしこに人魂じみた光が浮かんでいるが、光量がまるで違う。

 人魂もどきが松明か懐中電灯だとするならば、壁の玉は太陽。それほどにまで違う。


 そんな輝く玉に、のぞみは目を奪われていた。が、ふと部屋を照らすその正体に思い当たる。


「ま、まさか、アレ……だ、だだ、ダンジョン、コア?」


 冷や汗を垂らしつつ、声を震わせてポツリと。


 確かに壁に埋まった玉は、のぞみが病院で取り込んだのをはじめとして、これまで奪い、吸収してきたコアに似ている。

 だが、それらはせいぜいが手のひらサイズ。だいたいはビー玉やピンポン玉程度のもので、あんな、バスケットボールよりも大きく見えるようなものは無かった。


 だがダンジョンマスターとしての直感とでも言うべきか、のぞみにはあの玉がこのダンジョンのコアなのだという確信があった。


「ヘヒ、ヒヒッ、ヒッ……ど、ドコがウチと似たような規模だって……?」


 このサイズ差には、のぞみもたまらずぼやくしかなかった。


 実態が知られていなかったか、はたまた急激に規模拡大を起こしたとでもいうのか。このコアのサイズは、のぞみが今まで取り込んだモノを全部合わせても負けてしまいそうですらある。


 話が違うとしか言いようがない。


 しかしのぞみは同時に、地下水脈エリアも含めて考えたならば、規模にみあったサイズだと奇妙な納得も感じるのであった。


 そこでふと我に返ったのぞみは、止まっていた足を慌てて駆け足。

 直後、背後で爆発じみた衝撃が巻き起こる。


「ヘヒャエイ!?」


 衝撃に煽られるまま、のぞみの体は軽々と宙を舞う。


 そのままべしゃりと潰れるように腹ばいになった、のぞみは手足をばたばたとさせて、どうにか石巨人が拳を引き抜くまでに逃げ出す。


 気を抜けば、死ぬ!


 運良く避けられた危機にいま何の前にいるのかを再確認したのぞみは、早鐘を打つ胸を押さえて石巨人の背後へ回る。


 そうして石巨人の拳が届かない角度を維持しながら、ボスモンスターとコアとに交互に目をやる。


「む、むき出しなら……直に触っちゃえばいい……! だろう、けど……」


 思いついた打開策を口に出すのぞみだが、その声は尻すぼみに小さくなる。


 石巨人が暴れているのにさわりに行けるのか、という不安はもちろん。だがそれ以上に単純に、壁にはまっている位置がのぞみでは届きそうにない高さなのだ。


「アレにぶっ飛ばしてもらって、これが我が攻略ルートだー……って、し、死ぬ! 確実な……死!」


 そんなバカな思いつきを口に出してみては一人で青ざめる。


「それよりも……もっと、安全、確実な方法……ヘヒヒッ」


 口に出したバカバカしいプランを笑い飛ばして、のぞみは手のひらにコンソールを展開。


 そうして手のひらに表示されたマップには、のぞみの操作できる領域が増えていることが示されている。


「ヘヒ、ヒヒッ! や、やって……やる……! やってやるぞぉ……!」


 ダンジョンマスターとしての力が通じる。ならばできることはある。


 それを確認したのぞみは、舞い上がるままに笑い声を上げて動き出す。


 だがその甲高く不気味な笑い声に石巨人が反応、背中から倒れかかる。


「ヘヒィイッ!?」


 背面式ボディプレスとでもいうのか、のぞみの頭上へ巨大な石の塊が落ちてくる。


 下敷きになれば死は確実。そんな大質量から逃れようとのぞみは足を動かす。だが影の端はまだ遠く、迫る圧力はもう間近。


「ヒ、ヒヒィイアアアアッ?!」


 落ちて迫り来る死の気配に、のぞみは涙目になりながら半狂乱に手のひらに指を走らせる。


 そうして設置したトラップを踏んで、のぞみの体が一気に巨人の下から滑り出す。


 いわゆる滑る床、決められた方向へ運ばれるトラップ床というやつだ。


 そのまま弾き出されたのぞみは、またもや壁に叩きつけられて止まる。


 だがまだ危機を脱したワケではない。


「ヘヒィイッ!?」


 のぞみを滑り出させた床に、石巨人もまた背中から触れて流されているからだ!


 床に運ばれるままに迫る巨体。

 それにのぞみは、とっさにコンソールを指で弾く。


 マップ上ででこぴんしたところで、どうにかなどなるものか。


 だが石巨人の体はまるでその指に弾かれたように跳ね返る。


「ヘヒ!?」


 だがすぐにまた反転してのぞみへ。しかしまた跳ね返り戻る。

 そうしてのぞみへ、弾かれ、のぞみへ、弾かれと、同じ場所の行ったり来たりを延々と繰り返すことになる。


 なぜこんなことになったのか。


 しかしなんのことはない。のぞみの操作が、滑る床トラップの方向を一部反転させ、脱出不能ゾーンを作り出したのだ。


「げ、ゲームなら……明らかな、設置ミス……ヘヒ、ヘヒヒヒヒッ」


 ゲームであれば、あまりにも酷すぎる設計ミスからの脱出不能バグに捕われたボスモンスターに、のぞみはたまらず笑ってしまう。

 そのまま行き来を繰り返す石巨人を横目に、のぞみはダンジョンコアの真下にまで歩いていく。


「い、今、行く……ヘヒ、ヒヒッ」


 そうして踏んでいる床をせり上げさせて、コアが手に届くところにまで運ばせる。


 だがのぞみが玉に触れようと伸ばした手は空を切る。


「ヘヒ?」


 持ち上げ支えていた地面の消失。

 まさにはしごを外されたのぞみは、理解不能な状況に目を白黒させながら、地面へと落ちていくしかなかった。

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