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153/154

153:喰らい合う

 のぞみは怒っていた。


 自分勝手に一人だけで犠牲になろうとしたボーゾに……ではない。

 エゴに任せてありとあらゆるモノを食い滅ぼそうとしたマキにである。

 その第一の標的として、のぞみの居場所であるスリリングディザイアを、その場所を共有する身内たちを定めていたのだからなおのこと。


 であるからこそ、のぞみも遠慮無くエゴを爆発させた。


 その結果が、漆黒の超巨大のぞみである。


 太陽系を包むほどに大きくなったのぞみは、その勢いでもってアメーバマキを宇宙からも追放。

 世界と世界の狭間である、この白一色の空間を決着の地として場所を移させたのだ。


 そして今、相棒ボーゾを取り戻し、地球に続くゲートを内包した巨大のぞみの腕に、虹色アメーバが食いついてしまった。


「のぞみ! 早く振り払え! 世界を包める欲望を膨らませたのはスゲエ! スゲエがしかし……ッ!!」


 のぞみが捕食されるものと恐れてのボーゾの警告。

 だが超巨大のぞみは食いつかれた腕を見つめるのみ。

 むしろ慌てて飛び散り離れたのは、食いついた虹色アメーバであった。

 味への嫌悪か。それとも毒か。そんな勢いで逃げたアメーバの動きに、ボーゾは疑問符を浮かべる。

 だがすぐに理由を察して、頭上に見える影を見上げる。


「まさか……のぞみお前もッ!? お前まで世界を食らうモノになったってッ!?」


 世界を食らうマキが恐れる。それはもう同じ世界を食らい産み出すもの以外にはあり得ない。


 エゴをむき出しに世界を貪り食う敵に抗うため、のぞみのエゴもまた彼女を世界を食らうモノへと導いたのだ。


 パートナーが怪物となってしまった。

 ボーゾはこの結論に、崩れるように肩を落として椅子へもたれ掛かる。


「……いや、だが待て……それなら俺はどうして食われてない?」


 しかしその結論はすぐに新たな疑問に塗りつぶされる。


 のぞみが本当にあらゆるものを貪るままに食らう怪物になっているのだとしたら、ボーゾはすでに食われていなくてはおかしい。

 そしてそれ以前に食われて消えているはずのスリリングディザイアの存在も、欲望の魔神たちの存在も、ボーゾには変わらず感じ取ることが出来ている。


 ならば、と超巨大のぞみを見上げるボーゾの目の前にモニターが現れる。

 いつものぞみと見ているものと同じこのモニターが映すものは、超巨大のぞみの見ているものと同じものだ。


 このことからボーゾは、のぞみが世界を食らうモノとなりながら彼女本来の心を、欲望を何も失っていないことを悟る。


 しかしボーゾが安堵する一方、のぞみの目の前で虹色アメーバが再集結。大きな個体を形作る。


「……おいおいおい? なんか、でかくなってねえ?」


 だがボーゾが言うとおり、大型化はただ元のサイズに戻るだけに留まらない。

 ブクブクと、ブクブクと際限なく膨らみ、上半身ばかりかきちんとした二本の脚を作って完全な人型を作る。


「俺たちに、のぞみに対抗してってワケかよッ!!」


 ボーゾが吐き捨てる前で、虹色アメーバのマキは超巨大のぞみと互角、いやそれ以上の巨体として完成。

 そして仕上がるや問答無用と掴みかかる!

 これに対抗してのぞみも掴み返し、圧し掛かるのを押し返しての手四つの型に。


 その衝突で白い空間そのものがたわみ、揺らぐ。

 膨大な力の衝突、であるが掴み合った手に起こっているのはそれだけではない。

 その手のひらと手のひら、噛み合った指と指の接点、そのすべてで食らい合いが行われているのだ!


 食いつき、消化、再生。

 互いに相手を食い潰そうとするその動きが、のぞみとマキ双方向にエネルギーを行き来させて循環、表面上には何も起こっていない均衡を生む。


 この膠着状態に黒のぞみはその長く大量の黒髪を腕に纏わせ、さらに大型化。押しつぶしにかかる虹色マキを押し返し、その勢いのまま両腕で噛み潰しにかかる。


 が、対するマキも首を伸ばしてのぞみの首に食らいつく!

 すかさず伸ばした首についていくようににゅるりとのぞみの抱擁を逃れて背後に。

 そして羽交い絞めから、全身を使って食いつく!


 だが全身を黒腕で編んで作り上げた超巨大のぞみとて、全身が捕食口にして消化器官。

 接触が増えればそれだけ食い合いが盛んになるだけのことだ。


 そこで均衡を崩す力を求めて、世界を食らうマキはまずボーゾを食らおうと魔の手を伸ばす。


「食われてたまるか……って、こっちも星みてえなサイズがッ!?」


 敵の滅びを求める欲望を放ち、生きる欲望を断じて手放さないボーゾ。

 であるが、負けじと頭上に一面から押しつぶしにかかる虹色にはさすがに冷や汗を浮かべる。


 しかしもちろんパートナーの危機を許すのぞみではない。

 腕に絡めた髪を解き、ボーゾを狙う魔の手を網に絡めとる。

 さらに網を作って余りある髪で背中に組み付いた本体も全方位から突き刺す!


 そのまま背中から引きはがすと、大きく振り回してからの投げ飛ばし。


 投げ飛ばされた勢いのまま、虹色アメーバは大きく広がって白い空間をまっすぐ飛んでいく。


 のぞみはそれを追いかけ一直線に飛翔。全身を黒髪で包み、大口のサメに変身して噛みつき!


 しかしのぞみの噛みついた虹色アメーバは、食いついたサメの口を縛るように巻き付き、さらに飛び散った断片を銛として突き刺して食い返す。

 これに負けじと、のぞみの側からも手を伸ばして掴みかかって、文字通り吸収の手を増やす。


「だが……これじゃ同じようなことの繰り返しだぜ、千日手もいいところだぞ?」


 ボーゾが苦い顔でつぶやく通り、形をいかに変えようが、のぞみとマキのぶつかり合いは同じ力の衝突に過ぎない。

 どちらかが折れない限り、どこまで行っても相食むのを繰り返す、膠着状態のループが続くのだ。


 それはのぞみも分っている。

 当然衝突相手であるマキも同じく。


 だからこそ、これ以上のループを嫌い、決着を求めた虹色マキはさらに大きく膨れ上がり、のぞみを包み込む!


「ぐおッ!? こいつは、この欲望でブーストをッ!?」


 決着と、その後に続く破壊と創造。

 のぞみとの戦いで散々にお預けを食らって生じた渇望が世界を食らう力を膨れ上がらせる。


 膨れ上がるままにのぞみを潰し、食いつくそうとするマキの欲望。

 対峙したのぞみとその身内はもちろんの事、地球とそこに生きるものすべてを自分の求める世界の礎にしようと舌なめずり。


 のぞみはそんな身勝手に過ぎる欲望を食らい合いで感じ取り、マキの世界エゴを食い潰そうという欲望を膨らませる。

 この膨張は虹色のエゴを押し返し、もろともに膨らませる。


 膨張は広がり削れてアメーバが薄い膜となってもなお続き、その勢いのまま漆黒の爆発が白の空間を揺るがすのであった!

本作も次回で最終回です。もし最後まで見ていただけましたら何よりです。

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