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151/154

151:どちらかを選ぶのではなく、どちらも手放したくはないから

最終回まで今回を含めて残り四回です。

できれば最後までお付き合いくださいますようにお願いします。

「のぞみ! もう一回だ! 今度は切り離した上で外にワープさせちまえッ!」


 脂汗を浮かべてうずくまるのぞみに、ボーゾは顔を青くして自分の、スリリングディザイアの中から完全に追い出すように言う。

 しかしパートナーの指示に、のぞみは痛みに喘ぎながらも首を横に振る。


「……それは、ダメ……こ、こんなの、自由にさせたら……色んなモノが、食べられ……ちゃう、から……ッ!」


「だからってこのままじゃお前が、お前の世界のパークが貪り食われるぞ!? あれは正真正銘の世界を喰らうモノ! それで俺が世界を作る欲望として生まれた始まりの混沌なんだぞッ!?」


「な、なるほど……どおりでベルノ越えの食欲な訳で……へヒヒッ」


「笑ってる場合かぁッ!? 早く放り出さなけりゃ、その食欲以上の食欲に食い殺されるんだぞッ!? 体勢を立て直せば対処できる方法は見つかる! だから放り出せ、出してくれッ!!」


 モニターに映る無数の彩りのアメーバ。貪欲に迷宮の壁やモンスターを食らっていくその様子を指さして、ボーゾはのぞみにウンと言わせようと、言ってくれと願う。


 だがのぞみは、汗まみれの顔をひきつらせてやはり首を横に。


「なんでだ!? お前がどうかしてしまえば……ッ!?」


「……あんなのを、ダンジョンから出したら、ダメ……ダメだよ……ダンジョンは、異世界は……ワクワクできる、冒険の詰まった……希望じゃなきゃ、ね……へヒヒヒ……」


 力なく笑いながら。

 しかしあるべき形を、譲れない願望を瞳に灯しながら。

 のぞみは世界を喰らうモノを断固として自分の内側に閉じ込め続けようとする。


 ボーゾはそんなのぞみへ厳しい目を向けるが、のぞみは弱々しい笑いを崩さない。

 その見つめ合いから程なく、根負けするかのようにボーゾは苦笑を浮かべる。


「……ったく、自分の理想形は崩したくない。死にたくもない。まったく、とことん欲張りなヤツだよ、俺の相方はよ!」


「ヘヒヒ……欲望魔神のパートナー……だもの、ね……」


「別に褒めてねえぞ。呆れて折れただけだ。お前が逃がす気が無いなら無いで、なんとかする方がいいってな!」


 吐き捨てるように言うボーゾに、のぞみは弱々しい笑みを深くする。


「それで、具体的にどうするかは……」


『まずは私たちに任せて欲しいなーッ!!』


 悩ましげに呻くボーゾの言葉を遮って、元気な声が響く。

 それに引っ張られてのぞみたちがモニターに目を戻せば、虹色アメーバの前にベルノを先頭に集結した魔神たちの姿があった。


『パークの危機! 食欲を越えた食欲! そんなことを言われちゃー立ち上がらないワケにはいかんでしょーッ!!』


『食欲云々はベルノだけのこだわりでしょうが……ママの窮地を座して見過ごす魔神などおりませんよ』


 先頭切って気勢を上げるベルノに突っ込みつつ、ウケカッセたち残る魔神衆も、自分の居場所を脅かす敵に好き放題させ続けるつもりは毛頭ない!


「や、ちょ……ま……! アレ触るのだけは……」


 立ち上がった身内を守るため。

 そんなのぞみの制止と警告の声を半ばに、魔神たちは散開。遠巻きにアメーバマキへ攻撃を仕掛ける。


 スムネムが睡眠欲を煽り、ザリシャーレとイロミダが司る欲望を乱高下させて幻惑。

 そこへベルノが呼び出した食材をなだれ込ませて、迷宮へ侵食する手数を奪い。ウケカッセは査定しようの無いアメーバの一部を、おもちゃの銀行券の山へ変え、カメラアイだけで覗いているバウモールがビームを叩き込む!


「魔神変化組も忘れてもらっては困るなッ!!」


 さらにサンドラのオーラブレードとシャンレイの気功波が。アムルルーとグリードンのドラゴンコンビによる炎の吐息がたたみかける!


 だが浴びせかけた攻撃を、アメーバは傷ついた部位ごとに捕食。真新しく作り替えてしまう。さらに自分を換金したおもちゃ紙幣からも発生。魔神たちに食いつこうとのびかかる!


 とっさに飛びのく魔神たち。しかし虹色アメーバは自分から爆発、一発一発が致命に至る散弾になる。


 だが魔神たちを襲うそれらを、毒々しい濃霧が壁になって阻む。


「ドロテアかッ!?」


 アルカと違い、説得に応じず軟禁状態だったはずの暗殺者。その意外な援軍参戦に、サンドラが目を見開く。


『アレが発生した一部始終を見せたのだな!』


「知れば戦うべき相手は決まる! 討つべき仇と言うものは……ッ!」


 ベルシエルがいかにして味方に引き込んだかの種明かしをする中、愛しい相手を食われて怒り心頭のドロテアが猛毒の刃を投げ放った。

 が、その瞬間を待ち構えていたかのように、毒霧を食らったアメーバが彼女の身のそこかしこに食いつく。

 無数に食いつかれては、ドロテアの致命打を避けて切除しようにも間に合う筈もなく、毒々しい髪色をした暗殺者は瞬く間に首から下をアメーバに包まれてしまう。

 救出に踏み込む魔神衆。だがその誰よりも早く飛び出す者がいた。


「食わせてやるかよッ!?」


 黒い腕に押し出されて叫ぶのはアルカだった。

 彼女は大きな鋼の塊になった腕を躊躇なく虹色アメーバへ突っ込み、粘液に巻かれたドロテアの体を引っ張り出す。


 そしてアルカがすれ違いざまに転がり離れた一方、彼女を押し出していた黒い腕はアメーバマキを掴み、押し返していく。


「ヘッヒィエェエエエッ!?!」


「止せよのぞみ! 早く手放せッ!?」


 接触点からの奪い合いに負け、黒腕を食われる痛みにのぞみが悶えるのに、ボーゾは手を引くように指示し、ゲートを展開。

 ゲート向こうの青空に虹色アメーバを腕ごと押し出すと、転移ゲートが閉じてアメーバを食いついた腕ごとに遮断する。


「ど、どこに……!?」


「海エリアだ。アーシュラが呼んでたんだぜ?」


 涙目になって送った先を尋ねるのぞみに、ボーゾはコンソールを操作して海エリアの様子を呼び出す。

 すると画面の中ではアメーバマキが海面を叩き割って波を起こすところであった。


 そこへアーシュラが舵輪を握る生駒が砲撃。さらに艦載機である飛行型マシンゴーレムたちもビームやミサイルやらで火力に加わる。

 そして配下や冒険心に負けてはいられないとバウモールも甲板へ着地。熱線や吹雪を叩き込む。


 激しく波立ち渦を巻く海の様子に、のぞみはひとまずは良しとして迎撃していた魔神衆へ目を移す。


 魔神たちが円になって集まったその中心。そこには体に布を被せられて横たわるドロテアの姿が。だが布に覆われた彼女の体は明らかに細い。まるで骨がわずかな筋だけで辛うじて繋がっているかのように。


「ドロテア!? どうしちまいやがったっての!?」


 そんな暗殺者の姿に、のぞみが疑問の声を上げるよりも早く、アルカが叫ぶ。

 しかし叫ぶ彼女も右腕の二の腕から先が無くなっていて、人の心配をしている場合ではない。


 深手を負った二人に、のぞみは慌てて黒腕を伸ばす。そして黒い腕で食われ奪われた部位を補う。


「二人とも……親のダンジョンコアがあやふや……!?」


 だが義手を与え、肉体を補ったことで、彼女らが抱えているより根本的な問題が明らかになる。


 ダンジョンマスターであり、ケイン一党を再生させていた巻島マキ。

 彼女が虹色アメーバ、世界を食らうモノに変じたためにか、ドロテアとアルカの属するコアの存在が曖昧なものとなってしまった。


 ダンジョンコアが消失してしまえば、そこから生まれた生物は運命を共にすることになる。

 つまりいくら傷を癒したところで、このままでは二人は存在が保てるか胴かすら怪しいのだ。


「というわけでウチの子になれ……なるべし……! 答えは、聞かない……ッ!!」


 そんな消えゆく命を前に、のぞみは自分の欲望のままに彼女らを身を補う黒腕経由でハック。所属を奪い取って魔神と化す。


「そ、それぞれ……創造欲のアルカ……と、生存欲のドロテア、で……! ヘヒヒッ」


 欲望の魔神となった体の具合を確かめる二人の様子に、のぞみはにんまりと笑みを浮かべる。


「……ったく、生かすだけならもうちょい負担の少ないやり方もあっただろうがよ。自分も食われてるってのに、まったく甘いことだぜ」


「それはまあ……ここで手放せるようなら、らしくないっていうか……黒腕生えてこないっていうか……うぐッ!?」


 欲望の黒腕でサムズアップしようとしたのぞみだったが、唐突に苦しみだす。


「おい! しっかりしろってッ!?」


 ボーゾはそんなのぞみを励ましながら、何が起こっているのかとモニターを見る。

 するとどうか。なんと交戦中の海のエリアで大渦が発生、生駒がその流れに引き摺られまいと必死に抗っているではないか。


 バウモールを筆頭としたマシンゴーレムや砲撃の破壊力の凄まじさに、環境が荒れたのか……と、そんなわけはない。

 海水を触れた端から、そこに泳ぐ生物もろともに貪り食らう虹色アメーバがその食欲でもって生み出しているのだ。


 渦巻く流れの中心はすでに海底に届いており、海を支えるその大地にアメーバマキの牙が食いついている。

 これがのぞみの苦しみが増した原因であった。


 海底から直にのぞみに食いついた虹色アメーバは、流れるままに集まってくる海水と海産物を際限無く吸収。縦方向にその体積を伸ばしていく。


 ドンドンと太く高い柱に……否、大樹と化す勢いで高く太く育っていくアメーバマキは、やがて高い位置から二本の巨大な枝を広げ始める。


 空を掻き握るように動いたそれは、枝ではなく一対の腕だ。

 そうなればその中間地点に乗った部位は頭となる。

 丸みを帯びたその部位は案の定、鋭く険しい眼光を灯した女の顔になる。


『食わせろッ!! すべてをッ!! 私と健一の世界のためにッ!!』


 渦の中から生えた虹色巨大巻島マキは、雄たけびを上げるやその顔面を渦巻く海面に叩きつける!


 そして海水を一気にすすり上げ、貪る勢いを倍加させる。

 この勢いは、それまでかろうじて抗っていた生駒を渦の流れに引きずり込むほどに。


 生駒を、それを操るアーシュラや火力に加わったバウモールごとに貪ろうとするこの動きを見て、のぞみの目に黒い炎が輝く。


「ワタスモノカァアアッ!?」


 身内を守りたい切なる願いと、奪われつつあることへの正しい怒りの叫びに従って、海を突き破って突き上げられた黒の巨拳が虹色マキの顎をぶん殴る!

 強かにかち上げたこの一撃が、上半身だけは人間としての形を持った虹色アメーバを海底から引き剥がす。

 不定形の下半身をぶら下げて空に舞い上がったアメーバマキはしかし、その身を広げて空中ブレーキ。そのまま海面側に上半身を出現させ、天を衝く勢いの黒腕へかじりつきにかかる!


「ああもう! 我慢ならん! これ以上相棒を傷つけさせないって欲望は我慢ならんぜッ!!」


 対してボーゾが辛抱たまらんと叫び、のぞみの胸元から姿を消す。


 そして金髪をなびかせ、掴みかかる両手の紋章を背負った美男子が噛みつかれようとする黒い拳の上に現れ、天へ手をかざす。


 そして巨大アメーバもろともに再び姿を消してしまうのであった。

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