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149:封じ込め系トラップでたたみかけ

 聖剣の一撃が白一色の壁を断ち切る!

 しかし天井にまで届くその裂け目からは、大量の出汁とうどん、ひやむぎが隙間を埋める勢いで流れ込む。


 滝となって浴びせかかるこれをケインは纏うオーラで消し飛ばす。

 この間に、大量の生きたうどんたちを吐き出した壁は自己修復を果たして、裂け目を塞ぐ。


 出口の無い空間に残ったのは英雄ケインと、フードを目深に被ったその連れの足元を浸す出汁。そしてそこを泳ぎ回り、彼らの口や鼻を通って胃袋へ飛び込む機を窺う麺たちのみ。


 壁を叩き切った甲斐の無いこの結果に、ケインは床を踏みつけオーラを放出。これは瞬時に出汁溜まりを干上がらせ、麺たちを乾麺を通り越して風化させた。


 そしてケインはもう一度と、オーラを乗せた聖剣を一閃! 部屋を壁どころか天井から床、逆側の壁に至るまで切り裂き輪切りにする。

 が、結果は同じ。否、より悪い。

 作った裂け目全てから、出汁と麺が英雄たちに飲み込まれようと猛然と侵入してきたのだ!


 そんなケインたちの様子をモニター越しに眺めて、のぞみの口許にホラーなスマイルが浮かぶ。


「ヘヒヒッ……備えあれば、嬉しいな……なんちゃって……ヘヒッ」


「おう。確かに嬉しいなって、それを言うなら憂い無し……だろ?」


「ヘヒッ……ネタにマジレス、ドーモ……ヘヒヒッ」


 そんな茶番を入れながら、のぞみたちはうどんたちの対処に追われるケインの様子を眺める。


「奴ら対策に組んだ罠部屋。バッチリ機能してるじゃねえかよ」


「ヘヒッ……研究して、備えてみた、からね……ヘヒヒッ」


 ケインたちを捕らえている出口無いこの部屋は、いまいち自信の持てないのぞみの自信作だ。

 ケインに易々と断ち切られているからそうは見えないだろうが、空間を構成する壁の材料はヒヒイロカネにバキュライト、その他他所のダンジョン産出品を買い取ったレジェンド金属の数々を加えた超々硬度の合金である。超合金ディザイアである。

 しかし硬さに任せるだけでは、頼もしき守護神を容易く切り裂くケインを捕らえてはおけない。

 それを知っているのぞみは、壁に自己修復の能力を付与。さらにわずかな間隙さえ突かれぬように、部屋そのものをギチ詰めの出汁とうどんとひやむぎで満たした空間で囲っているのだ。

 脱出を計り破壊すればその破損から食べられたがりが雪崩れ込む。それは切り裂く範囲が増えれば増えるだけ勢いを増す。

 仮に部屋そのものを破壊できたとしても、全方面が食べられたがりの海に変わるだけだ。


 そう。今まさにケインが無数に放った万の刃が成したとおりに。

 全方位から押し寄せる出汁と麺に、ケインは連れの腕を掴んでオーラのバリアを展開。飛翔魔法を全開に出汁と麺の海を突き破りにかかる。


 やがてその突撃は壁にぶち当たり、ケインは煌めく聖剣で正面の壁を断ち切る。

 そして溢れたのは白と褐色。つまりは大量のうどんたちと彼らが泳ぐ出汁である。


「ヘヒッ……細工は流々……転移封じをかければ、そう来ると、思った……ヘヒヒッ」


 ケインの直面するこの状況は、単純に二重構造だというわけではない。

 壁の修復が、ケインたちを中心に発生しているのだ。

 この空間に落ちた者はマークされ、仮に壁を砕き、押し寄せるうどんたちに負けずに抜け出したとしても、破られた部屋は標的を中心にして復活する。

 そして部屋を覆う出汁の海はループ構造。

 つまり力業での脱出は不可能と言うことだ。


 のぞみの仕掛けに従って、突き破られても突き破られても立ちはだかる壁。


 延々と繰り返されるこれに、ケインはさすがに無駄を悟ってか、突き刺した聖剣を押し込まずに手放す。

 そして出汁と一緒に吐き出すように返される刃を受け取り、部屋を満たしたうどんたちを消し飛ばす。


 するとさすがに力の放出し続けでバテたのか、地に足をつけて深呼吸をする。


「あーあー……食いきれないからって、相変わらずベルノがブチキレそうなことしてくれやがってよ」


「いや、もうキレてるよ? キレそう……じゃなくて、もう、ブチブチ……」


 のぞみが指さす先のモニターでは、大盛りの海鮮チャーハンを、わんこそばのごとくかきこみ繰り返すハチミツ色のウエイトレスの姿が。

 食欲プロデュースのポートパークからの殴り込みということで、ベルノもケインの様子を見ているのだが、それがこの有り様だ。

 先ほどから繰り返される食べ物モンスターを粗末にする仕打ちに、自棄食いするほどに怒っているのだ。

 もっとも、大変なのは食欲魔神の怒りを鎮め、紛らわせるために、料理し続けるアガシオンズであるが。


「こ、これ以上落ち着きを、無くしたら大変だし……ここらでひとつ、動かそう……ヘヒヒッ」


 そんな使い魔スタッフの苦労を偲びつつ、のぞみはダンジョン操作するコンソールをポチッと。

 するとケインとフード女のいる空間に、四つの巨体が現れる。


 重々しい足音を共鳴させたそれらは、常人の倍程の鋼の巨人。

 ただしその足は短く、頭部は大きな胸部と一体化している。

 その大きく膨らんだ胸部についた覗き穴からは、膨大な熱量を含んでいるだろう輝きが漏れ、内に秘めた大きな力を窺わせる。


 頭身バランスはともかく、心臓部としての機能を胸部に集中させた鉄巨人の構成に、ケインは目を見開く。

 アルカの設計を踏襲した鉄巨人が向かってくる。

 これはすなわちアルカの寝返りを、言わばアルカからの三行半となる。


 ケインはこの鉄巨人が現れた意味を悟り、構えた聖剣の切っ先を下ろす。


 この隙に四体のマシンゴーレムは、大振りな腕の先端についた三叉刃を、激しく回転!

 そして威嚇するように、唸りを上げた両腕を掲げる。


 この動きにケインは反射的に聖剣を閃かせる。

 一瞬の間に放たれたオーラブレイドはマシンゴーレム四体を残らず両断。

 しかし同時に鉄巨人の頭上に現れたモノも真っ二つにする。

 割れて弾けたそれはお化けタマネギのボニオンだ。


 微塵と砕けたその身から溢れた濃密な刺激物の霧。


 みるみるうちに広がり、部屋を満たす勢いの霧に、無防備な目と鼻を刺された形になったケインたちは堪らず怯む。


 そうして動きが鈍った間に、さらにボニオンが出現。それも滝の如く。

 部屋を埋め潰す勢いで現れ続けるボニオンたちは英雄たちへ押し寄せ、傍へ寄る端から爆ぜて刺激物の霧を濃くする。


 そこへさらに斬られたのと同じマシンゴーレムたちもリポップ。短い足で床を踏み鳴らすや、ごつい両腕の先の三叉刃を猛回転させ、文字通りの手当たり次第にボニオンをみじん切りにしていく。


 そう。このマシンゴーレムたちは食材を刻んでいく料理用ミキサーなのだ。

 鋭く勢いのある回転刃は確かに殺傷力を持つ。しかしその威力はあくまでも食事処の利用者やベルノのための食材を送り出すためのもの。

 ごつい見た目に反して、断じて戦闘タイプではないのだ。


 ミキサーゴーレムはその使命に従ってひたすらにみじん切りを作り続け、刻んだものをワープさせてベルノへ届けていく。


 そんな自分たちをそっちのけでボニオンのみじん切りをし続けるマシンゴーレムたちに、ケインは沁みる目を堪えて聖なる剣を振るう。

 涙で滲んでいるにも関わらず、オーラの刃は正確にボニオンもろともにマシンゴーレムを断ち切る。


 しかし切り伏せられたその直後、ボニオンを切り刻みつつ押しのけながら新たなミキサーゴーレムがポップする。


 切り伏せても切り伏せても、絶え間なく際限なしに出現するモンスターに、ケインは苛立ち、床を踏みつける。

 その威力に、押し寄せたボニオンが吹き飛び弾け、マシンゴーレムもひっくり返る。

 が、同時に強すぎたせいで踏み抜いた床から出汁とうどんが吹き出し、足をからめとられる。


 ケインは穴に引きずり込まれようとしている足を強引に引き上げてオーラを放出、なおも絡み付こうとするうどんモンスターたちを焼き払う。

 その余波を受けたボニオンたちが焼け焦げつつも爆ぜ、その近くのものも巻き込んでさらに目と鼻を突き刺す霧を濃くする。


 打開しようにも動くに動けないこの状況に、ケインは徒労感のあまりに床を殴り、さらに頭突きを繰り返す。


「ヘヒヒッ……すっかり冷静さを無くした、ね……ヘヒヒッ」


 そんな英雄の様子を見て、のぞみは自分の罠の完成度にほくそ笑む。


「強ければ強いほど、動けば動くほど状況は悪くなる。まったくえげつない罠だぜ」


 ボーゾが言う通り、ケインたちを封じた空間は、まず壁を破るだけの力がなければうどんやひやむぎモンスターには襲われない。


 もっともヒヒイロカネとバキュライト、それらをふんだんに合成した超硬度超靭性超合金の壁材を破壊できるのはケインくらいなものだろうが。


 それで破りこじ開けたとしても、大量のうどんモンスターたちを処理し続けられる力が無ければ、呑まれて呑み込まされて強制送還となる。

 だが、手っ取り早くケインたちがトラップを脱出するには、うどんやひやむぎを受け入れるのが一番なのであるが。


 しかし強い力を備え、行動によって結果を出し続けてきたケインにとっては、あえて行動しないという発想はなかなかに現れないことだろう。


 ボニオンという嫌がらせモンスターを大量投入して冷静さを奪っているのだからなおのことだ。


 のぞみは狙い通りに効果を発揮しているこのトラップに、にんまりとご満悦。しかしその緩んだ顔はすぐに沈んでしまう。


「上手くハマってるのはいい……いい、んだけども……ただ、ちょっと……特化しすぎで、一般探索者向けには、使えない……使えなさ、すぎる……ッ!」


「贅沢な話だな……だがそれがいい。どんどん贅沢に、どんどん欲しがろうじゃあねえかよ。成果も手段も最高の理想形を欲しがれよ」


「ヘヒッ……私たちが相手にしてるのは、異世界のチートもりもりヒーローばっかりじゃ、ないってだけなんだけども……とりあえず、お題達成で脱出路を解放……って感じの隔離部屋って予定で……ヘヒヒッ」


「で、お題に失敗したらボニオンラッシュとかの罰ゲームってか?」


「ヘヒッ……そ、それでこその……トラップ……ッ!」


 ニヤリと問うボーゾに、のぞみはホラースマイルを添えたサムズアップで返す。


「というわけで、再利用するため……バランス調整のアイデア、まとめとかないと……ヘヒヒッ」


「あ、おいちょっと待てい! 欲望のたぎり大いに結構ッ! 結構だがしかし、その前に押さえるとこを押さえておかなきゃならんだろッ!?」


「おおっとぉッ! で、ですよねー……ヘヒヒッ!」


 アイデアメモを開いて思い付きのまとめに入りかけたところへのブレーキに、のぞみは引きつった顔で手を止める。

 普段は目先の欲望を煽りながらも、要所要所では長く欲望を燃やし続けるための舵取りをしてくれる。

 さすがは欲望を司る魔神であると言う他ない。


「グッジョブ、ボーゾ……そいじゃ、そろそろチーターさんたちも、次のステップへ……ポチッとな」


 そんなパートナーの働きを称えつつ、のぞみはコンソールに呼び出したアイコンを一突き。

 すると爆発タマネギと格闘し続けていたケインたちの姿が閉鎖空間から消える。


 牢獄をつまみ出された彼らの前にあるのは奈落のごとき深みへ届くだろう穴だ。

 それも正面ばかりではない。全部だ。前後左右の彼らに足場として与えたタタミ一畳分の足場以外のすべてが深く広い穴で取り囲んであるのだ。


 沁みて滲む目でそれを認めたケインは、穴の中や遠く離れた足場の間の虚空に仕込まれているだろうトラップを恐れてか、軽々しく飛ぼうとはしない。

 しかし場所が変わっても思い切って動けないこの状況に、英雄はたまったフラストレーションを足場にぶつける。


 それを受けて足場が猛回転。

 英雄たちを狭い足場の下にも続いた奈落へ送り出す。


「ヘヒヒッ……ボスラッシュなんてさせられない……! じゃけぇ理不尽トラップのお相手、して……ヘヒヒッ」

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