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146:封殺はする。するがしかし抹殺するとは一言も言っていない

「そいやぁあッ!!」


「ヘヒィイイッ!?」


 豪快な掛け声と情けない悲鳴。

 それに合わせて回る舵輪に合わせてモニターの景色が揺らぐ。


 その中では無骨な機械巨人が、胸に灯した炎を滾らせ、甲板の傾きに体を合わせる。

 見た目とは裏腹に、反射行動さえ取って見せる機敏な鉄巨人。

 そのまま振り落とそうと傾く甲板の上で器用にバランスを取りながら、ブリッジへ向けて三本指の手を向ける。


「二番、四番、砲塔回せーッ!!」


 対してアーシュラは慌てず舵輪を切り返しながら指示を。

 これに生駒が応え、錆びの浮いた砲塔をぶん回し、乗り掛かった鉄巨人をぶん殴る!

 崩れたバランスを取り戻そうとした瞬間を狙った一撃。

 いかに重かろうが足の浮いたところを叩かれては踏ん張りが利くはずもない。そのまま鋼の巨体はホームランコースで沖へ。


「お、お美事……お美事……ッ!!」


「生駒とアタイで神機一体って感じに繋がってるからねえ。これくらいの曲芸は軽いもんさ」


 鮮やかな艦さばきにのぞみが拍手を贈るのに、アーシュラは得意気に胸を張って応じる。


「が、本番はこっからさね!」


 改めて舵輪を握っての警告。

 直後、ブリッジ内部にけたたましい警報が響く。


「ヘヒッ!? なに? 何事!? なんぞッ!?」


 これにのぞみは、冷や水でも首筋に当てられたかのように猫背を跳ね上げる。その一方でその手は周りに呼び出したコンソールを走り回り、ダンジョンを操作する。

 そうして生駒のマップを正面の窓を模したモニターの一枚に呼び出す。するとマップ上の、丁度船倉に当たるポイントに、エネミーカラーがくっきりはっきりと輝いている。


「侵入者ッ!?」


「予想してた通りさね!」


 何者が入り込んだのかとのぞみが映像を求めれば、アガシオンズの魔法と予めに配置したトラップを跳びかわす毒々しい髪の少女の姿が届けられる。


「そうだろうさねえ。そう来るだろうさね」


 ゲッコー忍軍がその目を通して伝えてくる映像に、アーシュラは筋書きそのままだとほくそ笑む。

 そしてそれは、のぞみの胸元に収まったボーゾも同じく。


「よっし、のぞみ! 始まるまではどうなるかってハラハラしてたが、打ち合わせどおりだ!」


「ヘヒッ……お、オッケー……任せて」


 分かってるなと見上げる相棒に、のぞみはホラーなスマイルでうなづき返してコンソールを操作する。

 その動きに従ってドロテアが足をやった先にスイッチが発生。鎖が四方八方から襲いかかる!

 これには暗殺者も避けようがなく、よく油の利いた鎖がしなやかな体に絡んで、すかさず鎖に絡んだ油が広がり掴む。


「つ、捕まえた……ヘヒヒッ」


 これにぎょっとしたのはドロテアだ。

 驚き身震いする彼女の目の前で、鎖を伝わってきた油が溜まり、盛り上がっていく。

 そうしてオイルの塊はドロテアをつかんだ人型になる。

 それも一体だけではない。

 ドロテアに絡んだ鎖一本につき十体という勢いで、オイルマンは標的に向かって迫るのだ。


 無数の油モンスターにドロテアは動く限りに体を振り回し、払い除けようとする。


 しかし鎖もろともに暴れたところで、いくらか飛沫が飛び散るばかり。

 一滴二滴失った程度ではどうということもないとばかりに、オイルマンは次々と嫌がるドロテアに抱きついていく。


「まだ、まだ……終わらない、よ?」


 そんなのぞみの呟きを受けて、画面中のオイルマンはドロテアの目の前に握り拳大のものを差し出す。


 褐色の皮に包まれたそれは玉ねぎだ。

 しかしただの玉ねぎではない。あるはずがない。

 ドロテアの目と鼻の先で、玉ねぎはその薄皮に横一文字の裂け目を作ると、そこからけたたましい笑い声を上げ、ひとりでに弾ける。


 玉ねぎが、目と鼻の先で、弾けて飛び散ったのだ。


 これをまともに粘膜に浴びたドロテアは悶絶。

 精一杯にもがいていただろう先ほど以上の勢いで、鎖をけたたましく鳴らす。

 この爆発玉ねぎもまた、スリリングディザイアのモンスター、その名もボニオンだ。


 このボニオン、ネタ枠扱いのモンスターであるが、ひやむぎ・うどんと厄介枠も同じくしている。

 亜人モンスターの食糧庫や、薬草など採取植物に紛れて潜み、探索者の接近を感知するなり爆発し、刺激成分をまき散らすのだ。

 その強さは、通常の玉ねぎのおよそ八百倍!

 これがモンスターたるゆえんであり、ドロテアの悶絶ぶりも無理もないというもの。

 ちなみに旨味成分も濃厚で、充分に加熱するか、こまめに水を取り替えながら水に晒せばおいしく食べられる。そのため食材としての需要も持つ、稼ぎ的にもおいしいモンスターなのだ。


 それはともかく、濃縮玉ねぎ汁に悶絶するドロテアをモニター越しに眺めて、のぞみはその効果にほくそ笑む。


「ヘヒヒッ……こういうのは、鍛えても耐性がつきにくい……ヘヒヒッ」


「でもよぉ? あんまやりすぎるとベルノの奴が突っ込んでこねえか? 食い物で遊ぶなー! 遊ぶくらいなら食わせろ、食わさせろー! ……ってな具合によ?」


「……そ、その辺は、ぬかりなし……ヘヒヒッ」


 のぞみが言いながら指さす先、そこではオイルマンの一体が自爆したボニオンの残骸を拾い集めている。

 一際透き通った上質な油の塊であるそれは、集めたボニオンを別の野菜モンスターの細切れや、小エビや練り物のきざみと一塊にして衣につけていく。

 そんなオイルマンに、アガシオンズの一人が石を投げ入れる。


 胸にあたる場所に浮かんだその石は一気に赤熱化。火属性の魔法石をヒヒイロカネコーティングで強化したアイテムによってオイルマンの体が煮え、湯気を放つ。


 するとオイルマンは衣をつけた塊を煮え立つその手でわしづかみに。すると塊は激しく弾けながら腕を通じて肩へと上っていく。

 そうしてオイルマンは動いていくのをいいことに次から次へとボニオンらの寄せ集めを掌から取り込む。


 そうして充分に火が通ったものを近くに控えたアガシオンズが取り出せば、揚げたてアッツアツのかき揚げが出来上がりというわけだ。


 そのかき揚げは小さなゲートを通じてフードコートへ瞬時に転送。出来立ての味を現場からお届けする。

 そのうち一部を、男悪魔シオンのひとりが運び出して、ドロテアへ弾けボニオン量産のお礼におすそわけ。

 しかし猫舌だったのか、口に入れた途端に悶えてしまった。なのでかき揚げを食べさせるシオンに、のぞみはフーフーして差し上げるように指示を出す。


 そうして上質なかき揚げに、さりげなく出現していたうどんを合わせて馳走する一方、鎖を解くこともなく、目と鼻に刺激物を浴びせるのも止めない。


「ヘヒヒッ……身動きが取れないまま……痛みと旨味の板挟みに、混乱……ヘヒヒッ」


 爆散するボニオンと、それを材料に作られるかき揚げ。

 この無限ループにとらわれたドロテアの姿に、のぞみはホラーなスマイルを満面に。


 これがのぞみの考えた対侵入者用のプラン。「封殺はする。するがしかし抹殺するとは一言も言っていない」である。


「捕まえたままでいるか、いっそ逃げ帰る理由を立てて、帰ってくれる……その方が、気が楽……ヘヒヒッ」


「まったく。わざわざ敵を生かしておこうなんて、余裕綽々だねえ……」


「まあギリギリまで重たいもんから逃げたいって欲望の現れだがな。だがある面では、そんな欲望を叶えられるだけの余裕の現れには違いねえな」


「ヘヒッ……それもこれも、頼もしい身内の、おかげ……ヘヒヒッ」


 のぞみはこの場にいない者たちへの分も含めて、日ごろから好き放題をやらせてくれていることへ感謝を捧げる。

 その姿にアーシュラは笑みを深くする。


「余裕があるのも、その功労者も認識してるなら構いやしないが、捕まえ続ける負担が倍々なのはちゃんと覚えておきなよ?」


 そう言ってアーシュラがモニターにある場所の様子を呼び出す。

 呼び出されたのは海中の映像だ。

 小さな枠で区切られたその中では、錨と鎖で船底に縛り付けられ、管から流し込まれる海水にもがく鉄巨人の姿があった。

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