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124:英雄の刃

「構うな! 呼べぇッ!」


 のぞみはもう一体の、男巨人の登場に虚を突かれていた。が、胸元からの叫びに我に返り、マジックコンソールを操作!


 だが男女の巨人はこのわずかな隙を逃さない。巨体に見合わぬ機敏さでグリードンを、彼が掴んだ車を叩き落とそうと飛びかかる。

 しかし巨大化したとはいえぼんやりと叩き落とされてやるグリードンではない。


 これまで通りに羽ばたき空中サイドステップで回避。そこからさらに炎を薙ぐように吹きかけて追撃を牽制する。

 しかし男の巨人は手持ちのバットを振るい、ファイアブレスを打ち払う。


「おのれ! これで怯まないというのかッ!?」


 距離を取りにかかっていたグリードンは想定していたほどに時間を稼げなかったことに舌打ち。

 羽ばたき身を翻しながら再び炎をより広い範囲へ。


 壁や家具への引火も狙ってのそれは、しかし家具や壁に届いても着火することなく消えてしまう。

 明らかに布や木材といった燃えやすそうな素材に見えるにもかかわらず、である。


「それならばそれでッ!!」


 自分たちを追いかけるどころではない災害を起こせないのならばと、グリードンは牽制のファイアブレスを連発しつつ距離を取ろうとしていく。


 だが巨人の男女は竜の炎を手足で真っ向から受け止めて前進。グリードンを逃がさない。

 そうして回り込み、とにかく二方向から挟む形で追い詰める巨人たちに、グリードンはとうとう部屋の角に追い詰められてしまう。


「おい、グリードン! どうするんだよ!?」


「心配無用! 逃走経路は考えてあるッ!」


 ボーゾの思念を受け、体躯に見合った渋い声で叫び返すや、紫の竜は羽毛に包まれた翼で空を打つ。

 天井すれすれにまで舞い上がったグリードンは高さをそのまま、女巨人の頭上を飛び越える。


「天井との差があり、武器も無し! 抜かせてもらうぞ!」


 男巨人と比較して、のぞみに通じる特徴を持つ女巨人は背が低い。

 跳躍力では埋められないだろうその空間は、飛び越えるに絶好のスカスカのコースである。

 そのはずであった。


「なんとッ!?」


 空を切るグリードンの目前に不意にかかる黒い壁。

 みっしりとした繊維の束であるこれは、衝突と同時にほどけたかと思いきや網のようにグリードンに絡み付き、その翼を縛り上げてしまう。


 火を吐く間もなく動きを封じられてしまったグリードンはコントロールを失い、黒い網の根本に引っ張られるまま地に落ちる。

 その網の根本とは、女巨人の頭。


「意外! これは髪の毛ッ!?」


 そう。グリードンを捕らえて縛るものの正体は、女巨人の豊かで長い黒髪であった。


「……も、もさもさで……ようやっと、親近感……ヘヒヒッ」


「言ってる場合かぁあッ!? 車にまで絡み付いてんだぞッ!?」


 のぞみの胸をぺちんぺちんと叩きながらボーゾが叫ぶ。

 叩き鳴らす手とは逆の手が指差したとおり、のぞみたちが乗る車の窓は黒い毛でびっしりと埋まっていた。

 ちょっとしたホラーである。

 だからこそ、一見にはホラー扱いされるのぞみには親近感を覚えるのかも知れないが。


「まあ、さすがに拘束系……だから、ここから瞬間移動……とはいかないよね……ヘヒヒッ」


 しかしのぞみはボーゾが鼻息荒く解決を急がせるのに対して、いつもどおりの構え。

 普段と真逆のこの状況に、ボーゾは吐き出したい言葉をグッと飲み込んで、パートナーの動きを見守る。


「ヘヒッ……お察し、感謝……それじゃあ、ただ振り回されてただけ……じゃないってトコを、見せないと……ヘヒヒッ」


 そんな信じて任せる姿勢のボーゾに、のぞみは精一杯の笑みを返して、手のひらのコンソールをポチッとな。

 すると重々しい衝撃が地面に走る。

 クノらからの偵察映像によれば、この衝撃の原因は、ヒヒイロカネの巨神が降り立ったことによるもの。

 ようやく出番となったバウモールは、地面を波立たせるかのような勢いで踏み込み、男の巨人へ鉄拳を叩き込む!


 同時にグリードンを縛る黒髪が瞬く間に断ち切られ、竜とのぞみたちとを自由にする。


「うーん。ナイスキューティクル! 手入れの行き届いた良い黒髪じゃない、気に入ったわ!」


 グリードンの背で切り落とした毛束を握っていたザリシャーレは、ピンクメッシュの入った金髪を揺らして、手にしていた武器を担ぐ。

 それはザリシャーレの身の丈ほどもあるハサミであった。

 彼女はそれを軽々と振り回し、切っ先を女巨人へ向ける。


「で・も! 手入れの良さと伸ばしっぱなし感がちぐはぐか・し・ら? 良い美容院につれてってあげちゃう。具体的にはアタシ!」


 そして鋭く輝く切っ先を翻すや、バウモールを絡め取ろうとする髪を切り揃えていく。


「なーるほど、デカブツ相手に加えて拘束対策にグッドなヤツを……ってぇわけか」


「ヘヒッ……そういう、こと……!」


 たった二人の救援で見事に巨人コンビを押さえ込んだこの一手に、のぞみとそのパートナーは指先と拳をぶつけ合う。


「オーナー! バウモールとザリシャーレに任せるのはいいとして、このままここにいては巻き込まれかねんぞ」


 そこへドラゴン形態のグリードンが顔を寄せて警告する。

 なるほど、いくらバウモールが気を付けていても敵はお構い無し。足元の虫を踏まないように戦わせ続けるのは酷なものがある。


「ヘヒッ……そうなると、ここはやっぱりバウモールの中……一択……ッ! 安全圏……絶対的、安全圏……ッ!! ヘヒヒッ」


「おっと、それをされる訳にはいかないよなあ。いかないよ?」


 のぞみがそれではと、自分の領域へのワープをしようとしたところで、男の声がさせないと宣言する。


「何者……グワッ!?」


 グリードンがこれに誰何の声と共に声の主を探す。が、しなり巡ったその首から鮮血が噴き出す。


「ヘヒィ!? グリードンッ!?」


 身内のいきなりの負傷に、のぞみは目を白黒とさせながら、とっさに治癒すべくマスター権限を発動させる。

 その甲斐あって、グリードンの傷は瞬く間に塞がり元通りに。


 蘇生ではなく、通常の治癒で済んだことに、のぞみは詰まらせていた息を吐き出す。


「へえ? ドラゴンは何体も打ち倒してきたから、今回もきっちり仕留めたつもりだったのにな。やっぱり鈍ってるのかな。鈍ってるよな」


 しかしそこで再びに響いた声に、のぞみは戦慄く。声を辿り振り向けば、車に寄りかかった青いプレートメイル姿の男がいる。


「こんな鈍ってるようじゃあ、あのスーパーロボットの中に逃げ込まれたりしたら、そりゃもう手を焼くだろうな。ああ、焼いちまうよ。だから逃がすわけには、いかないんだよな。いかないよ」


 お分かりかと窓越しに覗きこんでくる黒髪の鎧男。

 明らかに日本人風の顔であるが、しかしその瞳の色は左だけが青かった。


「その目に、そのしゃべり方、顔は違うがてめえは……ッ!?」


 正面から見た男の顔に、ボーゾは記憶にある人物の名を口に出そうとする。

 だが男は皆まで言わせぬとばかりに、グリードンを切り裂いた剣を突きの構えに。


「俺の見ている前でなぁッ!?」


 だが構えた男の頭上に、グリードンの足が落ちる。

 男はそれを見上げるや、竜の足下から消え去る。

 そしてグリードンの足首を断ち切ろうと刃を振るう。


「邪魔なんだよな」


「お前がなッ!!」


 だが切りかかった男を、ボーゾがドアもろともに放った衝撃波が直撃!


「今だのぞみッ!」


 そして間髪入れずの合図に、のぞみはヘヒッと返事をしてコンソールをタップ。鋼の巨神と繋がった自分の領域へと逃れる。


「なに、あれ……あの人、なにッ!?」


 座席に体を預けたのぞみは、強張った舌を強引に回してパートナーに問う。


『彼はケイン、私たちの英雄……シシシシシ!』


 しかし対する答えが返ってきたのは胸元のボーゾからではない。

 バウモールを通した聞き覚えのある声に、のぞみはバウモールの目とリンクしたモニターを見やる。


「お、オルフェリア……」


『はーい。どうもどうもお久しぶり。覚えていてくれて嬉しいわ。シシシッ』


 バウモールの目の前に浮かぶ銀髪のネクロマンサーは、掠れた笑い声を上げながら手を振って見せる。

 この視界を塞ぐ影に、バウモールはうっとおしいとばかりに目からビーム!

 オルフェリアを飲み込んだ光線はその奥の、バウモールと真っ向から組み合っていた男巨人の顔面を焼き穿つ。


『あーあ、やーっちゃった、やっちゃった。庇護欲のあんたがやっちゃった』


 しかし煽るように手拍子と節をつけての言葉が響く。

 顔を押さえてよろめく巨人を背景に、オルフェリアは何事もなかったかのように浮かんでいる。

 その姿はケガどころか服にも焼け焦げひとつなく、本当にビームに消える前と寸分違わず。


『ああっと、もう一発っていうなら、無駄なことはやめた方がいいよ? いやホントマジで』


 しかし無傷であるにも関わらず、オルフェリアはビームの第二射にストップをかける。

 シシシと嘲り笑うその顔からは、本気の余裕が見てとれる。


『そうそう。それが正解。私の忠告にあとで絶対感謝するから。じゃあそのまま自分が何を撃っちゃったのか改めてよーく見てみようか?』


 そうして嘲笑いながら促すオルフェリアに、バウモールは警戒を緩めることなく、彼女の指差す巨人の顔をズーム。


 バウモールのビームが貫いた巨人の顔面。その余波で剥がれ落ちた部位からはガラスの筒のようなものが覗いている。


「ヘヒィッ!? お、お父さんッ!?」


 そして埋もれたカプセルの中にはガッチリ体躯の中年男、手塚亮治の姿があったのだ。

 しかもカプセルに閉じ込められた亮治は、男巨人と同じように顔の半分を押さえて苦しんでいるのである。

 その様子にボーゾはのぞみの谷間から身を乗り出して、含み笑いをこぼすネクロマンサーを睨み付ける!


「オルフェリア!? てめえ、まさかおっさんの魂をッ!?」


『イエースイエスの大正解! あのでっかいお人形は、この家に住んでるおじさまおばさまと魂をリンクさせて動かしてるのよ! だからあれはおじさまの顔面を撃っちゃったも同然というわけ!? あら、そう言えばあの二人ってそっちのダンマスちゃんのパパさんママさんだったっけ? シシシッ』


 つまり、今までののぞみたちは、助けに来た相手と戦っていたことになる。


 それは先の将希の事もあり、予測――覚悟はしてきたことでもある。


 だが、実際にその過程で、自分たちの行いのために苦しんでいる姿を見せられたのは、のぞみに気持ちを切り替える時間を必要とさせた。


 そしてほんの僅かに揺らいだその間に、黒髪の英雄ケインがモニターに刃を閃かせる。


 横一線。


 そして爆発。バウモールの目とリンクしていた正面モニターが光を失う!


「ヘヒィッ!?」


「クノッ! ベルシエルッ! 見てるもんこっち寄越せッ!!」


 頑健無比。無敵のスーパーロボットであるはずのバウモールの大ダメージ。

 これに目を白黒とさせるのぞみに、ボーゾはとにかく視覚を取り戻そうと働きかける。


 言われるまでもないとばかりに光を取り戻したモニターでは、怯んだバウモールを両断しようと振りかぶるケインの姿が。


 しかし鋼の巨神を断ち切るためのその刃は不意に翻り、背後からの刃を受け止めることになる。

 奇襲の形で斬りかかったサンドラの剣を。

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