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123:これは……挟み撃ちの形になっている

 壁から吐き出されるように飛び出す車。

 勢いよく宙に出た車は、中に乗るのぞみたちに浮遊感を与え、立て続けに打ち上げの衝撃を食らわせる。


 どうにかグリードンが歯を食いしばって制動をかける中、後部座席ののぞみたちは衝撃に振り回されるのをシートベルトで強引に抑え込まれ続ける。


「うおぉうぅ……」


 そうしてようやく車が制止すると、それまで受けていた圧力からの解放感に任せてうめき声をもらす。


「ぼ、ボーゾは?」


 そこでのぞみは同じく圧力を受けていたはずのパートナーたちを心配して胸の谷間に目をやる。


「うごごぉ……柔らかむっちりのサンドイッチだけじゃなく、ベルトと固いところにまでぎゅうぎゅうに締め付けられちまうなんてよぉ……!」


「だ、大丈夫……ッ!?」


「お、おう……すまんな。俺のことは心配いらねえさ、それより……ダンジョンだと?」


 豊かな胸に引っかかってぐったりとしていたボーゾはのぞみの労りにうなづきながら、窓の外へ目を向ける、


 それにつられて、のぞみもまた外の様子をうかがう。


 するとのぞみたちコンビの目に入ったのは一面の壁であった。


「ヘヒッ……なんの壁?」


 色合いも素材もふかふかとした見た目の壁に、のぞみは窓を開けて手を出してみる。


「主様、むやみやたらに触って大丈夫なのでござるか?」


「へ、平気平気……ちゃんと、トラップが無いのは確認済み、だから……ヘヒヒッ」


 心配するヤモリくノ一に安全圏にあるところマップで示しながら、のぞみは外へ手を出す。

 そのままのぞみの手がふかっと壁の中に沈む。


「む? ちょい固めの、クッション?」


 だが、それ以上は何も起こらない。

 そのまま押し引きを繰り返して、壁を探っていく。


「ふむ……こちらの壁は木製のようだぞ?」


 その一方で運転席のグリードンもまた窓を開けてすぐそばの壁に触れている。


「ヘヒッ? あ、うん。柱に挟まれてる……感じ、だね……ヘヒヒッ」


 グリードンのコメントを受けて、のぞみは改めて、自分たちの乗った車が酷く狭い場所に滑り込んでいた状況を確かめる。


「こ、こんなとこにぶつからないで入っちゃう……入れちゃう、なんて……さすが、グリードン……ヘヒヒッ」


「ふふ……正直ミラーか、下手すればドアが吹き飛ぶかぐらいに思ってヒヤヒヤしていたがね」


 讃えるのぞみにグリードンは含み笑いをこぼしつつ苦笑気味に内心を語る。


「まあ車も無事でよかったのはともかく、これじゃあ外に出られるのはクノばっかで、トンでもないのが来たら逃げる間もなく車ごとに吹っ飛ばされちまうぜ?」


「そうだな。そこの屋根の下の開けたところへ持っていくとするか」


 ボーゾに促されたグリードンは柱の間という今のポジションから移動させにかかる。


「あ、ちょ、ちょちょちょ……ちょ、待……クノッ!」


「承知にござる!」


 うなりを上げて動き出す車の中から、クノはのぞみの意思を受けて探りに飛び出す。

 窓からヒラリと躍り出たクノはクッションじみた壁に張り付いて走り出す。


 無事に斥候を送り出すことに成功し、のぞみはホッと息を吐く。

 しかしそれも束の間のこと。すぐにクノからの警報が、のぞみの手のひらから鳴り響く。


「ヘヒィ!? 何がッ!?」


 飛び跳ねたのぞみは慌てて思念とマップで何事かと情報を求める。

 が、それよりも早く、乗っている車を浮遊感が襲う。


「ヘヒィイ!?」


 上昇するエレベーターの何十倍か。そんな勢いでかかるGに、のぞみは悲鳴をあげる。


「くっそ、なんだってんだよさっきからよぉッ!?」


 そして急上昇が停止すると、ボーゾは自分達を振り回す元凶を探して窓の外を見、顔をひきつらせる。


「……こいつはッ!? おい、のぞみ! 外、外を見てみろッ!?」


「ひ、ひた噛んらぁ……いひゃひぃい……」


 しかしのぞみは口を抑え、悶えている。


「回復薬含んどけ! とにかく外だ!」


 のぞみは言われるままに回復薬を傷ついた口に含むと、見ろと言う外を見る。


 すると窓に張り付いた巨大な目玉と目が合う。


 一拍の間。


 そしてのぞみは舌を浸けていた回復薬を吹き出す。

 勢いよく飛んだ飛沫は、開けっ放しだった窓から中を覗き見る眼球を直撃する。


「みぎゃぁああああああッ!?」


「ヘヒィエェエエエエッ!?」


 その途端に車を襲う巨大な悲鳴と揺れ。

 これにのぞみは座席にしがみついて堪える。


「のぞみ! バリア、車ごとにだッ!!」


 このパートナーの声を受けて、のぞみは反射的にバリアを展開。

 間一髪に車を覆ったそれは、落下の衝撃を受け止め、打ち消す。


「いいぞ! グリードン次ィ!」


「分かっている!」


 呼びかけにグリードンはすかさずドアを開放。

 外へ転げ出るや紫羽毛に包まれた体を膨らませる。


 体の膨張が進むのに合わせ、その手足も長さと太さを増していく。

 逞しく巨大化するのは手足ばかりではない、尾も、翼も、首も。

 グリードンのすべてが、マスコット然としたものから力強い竜のそれへと変わっていくのだ!


 ほどなく変異を終えたグリードンは咆哮を一つ。

 のぞみの乗る車を巨大化した爪で鷲づかみに飛び立つ。


 その直後、巨大な何かがのぞみたちの着地点に落ちる。

 巻き起こる衝撃波にあおられ揺れる車の中、のぞみは座席にしがみつきながら、目を瞑ることなく窓の外を見続ける。

 やがてグリードンに運ばれて上昇を続ける車の正面に、巨大な顔が現れる。


「ヘヒィ!? きょ、巨人ッ!?」


 フロントガラス越しにのぞみと目があったその顔は、サイズを大幅に増した黒髪の日本人女性のものであった。


「……いや、巨人……人間って言うにはちょいとおかしくねえか? やけに作り物っぽいぜ」


「ヘヒッ!? 言われてみれば、人形……感ッ!」


 ボーゾの指摘した通り、一般的な地球人の二十倍程度の大きさの顔は、どこか肌の質感が固く、出来の良いマネキンめいた印象がある。


「でも、瞬きとか、ちゃんとやってて……これがいわゆる不気味の谷……へヒヒッ」


 しかし顔の動作などに生物的な作り込みもあり、そのちぐはぐさにのぞみとボーゾは揃って顔をしかめる。


 すると正面の女巨人は軋むような音を立てて眉を歪め、先ほど叩きつけていた腕を振り上げる!

 対するグリードンは一羽ばたき。空中サイドステップといった風情で、振り払いの軌道から逃れて見せる。


 それに女巨人は黒い長髪をうねらせながらグリードンを叩き落とそうと腕を振り回し続ける。

 そうしてむきになってドラゴンを追い回す巨人の姿に、ボーゾがしかめ面のまま首をひねる。

 これにのぞみは手のひらに滑らせていた指の動きを鈍らせる。


「ど、どうした、の?」


「いやな? あの女巨人、なんとなくのぞみに似てないか?」


 ボーゾが口に出した疑問に、尋ねたのぞみはヘヒッとすっとんきょうな声を上げる。


「そ、そう……かな? あんなにキレイな顔してないと、思う、けど……?」


「そりゃあな。お前があんな作り物でございな顔なんかしててたまるか。そうじゃなくて、パッと並べた特徴の話だ」


「えー……そ、そう、かな……?」


 指さすボーゾに、のぞみは首を傾げながらも改めて女巨人を観察する。


 顔にかかる長い黒髪。

 太陽から逃げ続けているかのような、不健康に白い肌。

 さらにクノ以下ゲッコードローンズの目で見た体格は、周囲の巨人用家具たちと対比すると、小柄ながら出る所はグンと出ているトランジスタグラマーであるように見える。

 なるほど、これだけ並べれば確かにのぞみそのままである。


「や、やっぱり……違う、よ? 私、あんなにしゃんとしてない、し……ヘヒヒッ」


 しかしのぞみがはっきりと否定するとおり、女巨人の方は背筋がきちんと伸びている。

 さらにその服ものぞみがプライベートで着るような地味な色合いでダボついたモノではなく、彩りさわやかで軽やかなロングスカートスタイルだ。


 のぞみならば魔人衆による整体と化粧が入ってどうにか着られていられるようなもの。

 それを自然体に身に着けているように見えるあたり、のぞみ自身にはとても自分と似ていると評せるものではない。


「まったく、相変わらずに卑下してばっかのボーボーかよ」


「や!? さすがにそっちのヒゲはないから、女だから、若いから……へヒヒッ!?」


 ため息混じりのボーゾの台詞に、のぞみは自分のあごをすりすりとツルツル感を主張する。

 この反応にボーゾは頬杖を突いて苦笑する。


「変なとこを拾って真に受けんなっての。まあ似てる似てないは別にして、デカブツには……」


「バウモールの……出番……! そう思って、もう呼び出しに必要な範囲は制圧済み……ヘヒヒッ!」


 庇護欲巨神の呼び出しどころに、のぞみはいつものスマイルを浮かべて拳を握る。


 しかし同時にけたたましい警告が水を差す。


「ヘヒィイ!?」


「なんだよオイ!?」


 何事かとマップを覗きこむのぞみとボーゾ。

 するとのぞみの手のひらにある2Dマップには、正面の女巨人とはまた別の敵性反応のアイコンが後方に。


 目で確かめようと、のぞみが背もたれをよじ登るようにして顔を出すと、そこにはもう一体の巨人が。バットらしきものを持っているのが見える。


「は、挟み撃ちの形に、なってる……ッ!?」

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