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120:どう流れてもバインバインと振り回される

 のぞみの籠った甲羅を踏みつけ、魔神と女剣士たちへ砲撃を見舞い続ける鉄クズの巨人。


 主人とその縁者を人質に猛威を振るう錆の浮いた巨体を、魔神たちは忌々しげに睨み付けながら爆撃を凌ぎ続けている。


 かたや攻めあぐね。かたや決め手を持たず。

 そうして起こっていた膠着状態が、巨人放つ一撃によって破られる!


 地面を抉った砲撃。その衝撃が伝わったのか、周囲にうずたかく壁を為していたジャンク山からワイヤーが飛び出し、鉄巨人に絡みつく。

 しかし絡んだのは一本ばかりではない。四方八方から次々に、何十、何百、何千と食い付いていくのだ。

 程なくワイヤーたちはジャンク巨人を心材とした網となって雁字搦めに縛り上げる。


 そうして砲の角度すら変えられず、ジャンク山を撃つしか出来なくなった巨人を見上げて、ウケカッセとイロミダ、サンドラは足を止める。


「これが、マ……スターから思念で流れてきていた……」


「ピンときた良い考えって奴なのね」


「いや、こちらは聞いていないぞ? 聞かされていないぞ?」


「そのあたりは、サンドラ殿が独立を保った立場ゆえにござるからな。いやそれはともかく流石は主様。思念の連絡があってから秒単位で拘束用のトラップを整えてしまうとは」


 魔神たちやクノがつぶやく中、ジャンクゴーレムは絡んだワイヤーの数を減らそうと、腕や足などの一部を軸回転。逆に巻き取って引きちぎりにかかる。

 もしかすれば壁オブジェクトをやっているジャンク山を崩れて攻撃に使える。そういう目論見もあったのだろう。

 が、無駄!

 むしろ互いに巻き取り合ったことで、ジャンク巨人の巨体が地に足がつかなくなる状態に陥る。

 ならばと今度は逆回転。

 しかし、それはまた逆回りに絡んでいたワイヤーを巻き取ることになり、結局釣り上げられたままになる。


 そんな宙ぶらりんな鉄巨人の足元で、ヒヒイロカネの装甲を中心にしたバリアが解除される。


「ヘヒィイ……焦った、焦ったぁ……ヘヒヒッ」


 そうして現れたのぞみは、冷や汗を拭き拭き巨人の真下を出て仲間たちの元へ。

 ひとりでに浮かぶ庇護欲の装甲を背中に回した、のたのたと歩むその姿は、甲羅から出たと言うのに亀のような印象を受ける。

 甲羅そのものは浮かんでいるので、トレーニングウエイトとしての効果などないが。


「焦ったと言いながら罠の出来はいつものように冴えているではありませんか。もがけばもがくほどに絡まるバインドトラップ。脱出を許可しない前提で作ればこうもなりますか」


「ヘヒヒッ……いや、それほど、でも……ヘヒヒヒヒッ」


「謙遜することはねえぞ。知った顔が人質にされて頭真っ白な状態から、俺の一言だけでよくあんな相手の構造まで見抜いたトラップを仕込むんだからよ」


「ヘヒィイ!? そこのところは、な、内密に……」


 おだてられて照れていたところで真実を暴露されて、のぞみは慌てて隠しておくように懇願する。


「お? んなこと言われたって、繋がりがあるヤツら、魔神衆やアガシオンズなんかにはとっくに流しちまったぜ、思念で」


「それも今回ばかりではなく、今までにも何度も」


「ベルシエル殿のデータベースには、これまでの主様の活躍だけでなく、そんな動転したりしている場面を集めたものが存在する、とか」


「ヘヒィイッ!?」


 しかし悪びれもせずに白状された事実と、それに続いて明かされた秘密に、のぞみは衝撃のあまりに目を見開く。


「か、活躍も……だけど、動転してるとこ、とかそんな、私の珍プレー好プレー集なんか……誰得!? 誰得、なの……!?」


「それはもちろん集めているベルシエルは元より、私ども魔神衆にとっては大変に面白いものですとも!」


「今度みんなの集まりで見せてもらいましょうよ。コツコツ集めてたのはベルシエルだっていっても、独り占めはあんまりだもの」


「それはいいですね。実現したらベルシエルと、公開に踏みきらせた者たちには謝礼をいくらか渡さなくてはッ!」


「ヘヒィイ……私をよそに、着々と話が組み立てられていくぅう……!」


 拳を握るほどに盛り上がる魔神たちに、のぞみは頭を抱えて嘆く。

 同時に自分を無視しての盛り上がりにもの申すモノがある。


 それはワイヤーに絡めとられたまま、宙吊りに軋み音を大きくするジャンク巨人であった。


「おおっと、盛り上がってるとこ悪いがお前ら、ダンジョンボス君がご機嫌斜めだぜ?」


 このボーゾの警告を受けて、スリリングディザイアチームは、魔神たちを皮切りに敵へ向けて構え直す。


「おや、そういえばまだ仕留めてはいませんでしたね」


「いけませんね。勝負がついたも同然になるとついつい欲望があちらこちらに向いてしまって」


「それでいていざ状況が変われば、即座に勝利と生存のために欲が絞られるのだからたまらないな」


「その切り替えが、欲望のコントロールというものです……よ!」


 ウケカッセが強めた語尾を掛け声に手をかざす。

 するとジャンク鉄巨人の首と一体化した頭が、すなわち将希を閉じ込めていたガラスドームが銭になって散る。


「ンッンー! やはりそのままでまあまあにお金になりそうなのはそこのところだけでしたね」


 唯一のきれいなパーツ、将希を閉じ込めていたガラスの牢獄の変わった硬貨に紙幣。ウケカッセはかざした手に集まってきたそれらを掴み、指さし勘定していく。


「ヘヒッ! 慎重に範囲や対象を指定……それさえできたら、将希ごとお金に換えずに助けるのは、簡単……ッ!」


「モチロンですとも! ちょいと足止めさえしていただければ、これくらいはお手のものですよ」


 できると見立てて任せてくれたのぞみに、ウケカッセは得意気に親指を立てて見せる。

 その間にのぞみは鉄巨人の下にクッションを召喚。


 睡眠欲スムネムの眷属でもあるこのクラウドクッションは、その名のごとくに自ずと浮かび、落ちる将希を迎えに行く。


 そして将希の体が宙へ投げ出されたその瞬間、ワイヤーに縛られていたジャンクの巨人がバラバラになる。

 強靭な糸が締め付ける圧力に負けたかのように。


「ヘヒィッ!? 切断しちゃうようなことは起きないようにしてた……はずッ!?」


 だが鉄巨人の切断はのぞみにとっては計算外に予定外。

 このアクシデントを起こした者。つまりは自らワイヤーに切断、あるいはパーツの噛み合いを解いたジャンク巨人は、渡すまいとばかりに将希を引っかけて、ワイヤーの発射点であるジャンク山へ巻き取られるに任せて飛んでいく。


「させるものかよッ!!」


 だが控えていたサンドラの剣が将希を掴んだジャンク塊を切り裂き、イロミダの鞭が投げ出された人質を取り返す。


「な、ナイス! ナイスッ! ヘヒヒッ」


 のぞみは奇襲に見事対応して見せた二人に喝采を送り、クラウドクッションに落ち着いた実弟を迎える。

 しかし喜んだのもつかの間。

 今度は一行を地震が襲う!


「おいおい、のぞみのがバインバインしやがるが、なんの揺れだッ!?」


「私のバインバインは、関係、ないぃい……!」


「周りの鉄クズからですよッ!?」


 ウケカッセが叫んだとおり、地震はこのエリアを取り囲むジャンク山が起こしたもの。

 ジャンク山が揺れ動くのが地面に伝わり、一行の足元を揺るがしているのだ。


 やがて揺らぐジャンクの山は自らそのバランスを失って崩壊を始める。


「な、雪崩かッ!? 鉄クズのぉおッ!?」


 このサンドラの悲鳴をスターターに、一行は一斉に踵を返す。

 そして押し寄せる鉄クズの津波から逃れようと出口を目指して走る!


「ヘヒィ!?」


 しかし案の定、のぞみは足をもつれさせて転ぶ。が、倒れる小柄な体を素早くイロミダとサンドラが掬い上げ、ウケカッセと共に姉弟一組をまとめて担ぐ。


「ヘヒィイッ!? これじゃそんな、まるきりお神輿ぃいッ!?」


「わっしょいわっしょい!」


 恥ずかしがるのぞみの例えに乗っかる余裕を見せつつ、担ぎ手になった魔神と女剣士は鉄クズ雪崩を先導する形で出口を抜ける。


 そう、先導して通り抜けてしまったのだ。

 のぞ神輿とその担ぎ手たちを追いかけてエリアを脱したジャンク雪崩は、その勢いを失うこと無く流れ続けている。


 それはやがて開け放たれたままのゲートを、流水が砂の山を崩すように巻き込み取り込んで。

 そればかりか、さらに周りで通路を作っている鉄クズを取り込んで、さらに勢い強く大きな鉄クズの濁流へと成長していくのだ。


「おいおいマジかよ」


 その様子をのぞみの胸に乗っかったボーゾが眺めて呆然とつぶやく。

 今のところはのぞみとクノの導きによる迷いない走りで、担ぎ手たちの速さの方が勝っている。が、この調子で勢いを増していけばやがて一行も流れる鉄クズの中だ。


 うねり、大口を開けるように高波を作るジャンク雪崩。

 これに対して、のぞみは威力を想像して顔をひきつらせる。が、ふとよぎった閃きに目を瞬かせる。

 ボーゾはそんなパートナーの変化にめざとく気づく。


「おい、どうするつもりだ? なにか思い付いたのか?」


「ヘヒッ……ちょいと、試したいことが……できた、から……ヘヒヒッ」


 尋ねる相棒にのぞみはいつもの不気味スマイルを返しながら、手のひらの光の板に指を弾ませ、滑らせる。


 するとたちまちにジャンクの濁流は勢いを失い、ほどなく重々しい音を重ねて制止する。


「……おい、いったいなにやったんだ?」


 それまでの威力がウソだったかのような力の無くし方に、ボーゾはのぞみを見やる。

 タネ明かしを求めるその目に、のぞみはマジックコンソールを張り付けた手のひらを差し出す。


「いやー……雪崩れて巻き込まれてるのって、もう全部……一度制圧した後のだった……ってことを思い出した、もんで……ヘヒヒッ」


 そんなのぞみの手のひらのは、味方色一色。その中に点々と飛び込んだ敵色を塗り潰す事など訳がないというわけだ。


「おお、やるものだなオーナー殿!?」


「さすがはマ……スター、と言うべきですね」


「さすのぞ! さすのぞね!」


「わっしょい! わっしょーいッ!」


「ヘヒィェエエエエッ!?!」


 そして担ぎ手組による惜しみない賞賛から始まる胴上げに、のぞみは甲高い悲鳴を上げながら宙を上下するのであった。

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