表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/154

118:掘らぬジャンクの資材算用

「それで……ここまで、影や形どころか反応もなにも無かったわけだが」


 のぞみの豊かな胸の間。そこに納まったボーゾが眺めるのは分厚い壁だ。


 大きなジャンクを噛み合わせ、積み上げ、つなぎとめて、モザイクに作られた壮大な壁。

 それはまるで中のものを逃がさぬように。そして同時に外からの手引きを許さぬバリケードのよう。


「さっきのダンジョンのと似た風情だから、ここがボスエリアの入り口、なんだよな?」


「そ、そのはず……じゃ、なくて、そう……ヘヒヒッ!」


 ボーゾの確認の問いに、のぞみは慌てて口走りかけたあやふやな回答を訂正する。


「この層にも、他のにも、もう行ってないルートは、どこにもない……から」


 言いながらのぞみは手のひらサイズのコンソールからつまみ出したデータを空へ。

 すると投げられたデータが広がって巨大な地図を為す。

 その色は一面の味方色ほぼ一色。

 敵勢を示す色を保っているのは、バリケードとその奥の一点だけを残すのみである。


「ふぅむ……しらみつぶしに当たってったからな。取りこぼしはまずありえないか」


「そりゃあ、もう! クノのゲッコーチームの力も借りて、隅から隅まで探してもらったし……ヘヒヒッ!」


 ただ一点のみを残してスリリングディザイアの色に染まったマップを見てうなづくボーゾに、のぞみも鼻息荒く乗っかる。


 その肩には偵察部隊を率いるヤモリくノ一のクノの姿がある。

 彼女が指揮する、小さくどこにでも入れるゲッコー忍軍による人海戦術によって、ジャンクヤードダンジョンは裸同然に仕掛けを暴かれてのぞみの制圧下に置かれる結果になった。


 もちろんのぞみのダンジョン制圧を助けたのはゲッコー忍軍ばかりではない。


 クノを肩に、ボーゾを谷間に乗せたのぞみの背後には、ウケカッセやイロミダという魔神たちの姿がある。

 足掛かりとなる陣地を得たことで、サンドラだけでなく魔神たちも加わって戦力が大幅充実。

 彼らの助けも重なって、現在のボスエリアのみを残しての完全制圧という状況はある。


「だがよ? 最後の一部屋まで丁寧に制圧して回ってる間に、仕掛け人には……巻島マキには逃げられちまってるんじゃねえか?」


 そう。ボーゾの言うとおりに、いくらスムーズに制圧し尽くせたとはいえ、隠し通路などの有無を入念に調べていてはそれなりに時間は必要になる。

 それこそ、この場に刺客を残して、主犯は撤退出来てしまう程度には。


「ヘヒッ……それは、ある……かも、抵抗も手応え無かったし……そんなには、だけど……ヘヒヒッ」


 そしてダンジョンの攻略を阻む抵抗も、急なモンスター発生によるゲッコーへの奇襲や、トラップの追加設置といった程度。

 小規模ダンジョンではあり得ないが、大規模か、ボスが人間的な知能を有していた場合にはままある反応である。

 そんなありきたりなダンジョンにある程度の抵抗だけで、制圧済みエリア奪還の逆侵食も何もない。

 これでは、のぞみたちにとってはたいした脅威にならない。


 そしてそれらから窺えるダンジョンを預けられたボスのレベルも、たかが知れているというものだ。

 言ってしまえば、大ボスをやってるような奴がわざわざ居残って支援しているとは考えられない。その程度だろうとしか思えないものだ。


「だが、見立てのままに軽んじて、足元を留守にするのはまずいと思うがな」


「ヘヒッ……だ、だよね……! 油断は良くない……油断は、執念の……逆ッ! 生きる執念……欲望の、邪魔者……ッ!!」


「お、そうだな。欲望を弱らせるものは良くねえよ。良くねえよな」


 緩んだところをつつくサンドラの苦言に、のぞみは飛び跳ねるようにしてうなづき、激しく同意する。

 そしてその言葉を胸元のボーゾもしみじみと肯定する。


「そうね。それじゃあ改めて気を引き締めたところで、片付けに乗り込むことにしましょうか」


「ですね……ここにあるものはこのままでは二束三文にしかなりませんし」


 イロミダが音頭を取るのに続いて、ウケカッセもまた決着を急ぐのに同意する。


「言ってみればゴミの山、ですからね。ダンジョンとしての面白みはともかく、獲得資材にうま味は少ないでしょうね」


 そしてスリリングディザイアに受け入れ、エリアとして現れて得られるだろうところをシミュレーション。

 だがその試算にのぞみが飛びつく。


「ヘヒッ……や、決着は良いけど、ちょっと待ってウケカッセ! ここの価値に見切りをつけるのは……まだ、早い! ダンジョンパワーが染み込んだ、色んなの、それをゴチャゴチャに溶かし合わせた不純物いっぱいの、特殊合金……ッ! それは少し不思議な、レジェンド合金……つまりは、ロマンッ!!」


「ほほう? オーナー殿それは、強いのか?」


 ウケカッセの見立てに待ったをかけ、熱く語るのぞみ。その言葉にサンドラが食いつく。


「か、確実に作れるかどうか……それは、作ってみないことには、分からない……でも、私がイメージしてる物、それは素晴らしく粘り強く、鋭い刃を作る素材……になるのは、間違いない……ヘヒヒッ!」


「ほうほうほう! それは、楽しみだ! 実に夢が広がる話じゃないか!」


「じ、実際ウチは……伝説金属加工研究のチームにも出資してる、し……実用化できる目は、高い……! そうなると、自然に……ウチで採掘できるヒヒイロカネも混ぜこむことにもなる……そうしたなら!?」


「素晴らしいな!? それは素晴らしいなッ!! いったいどれほどの武具が仕上がることになるのか、今から楽しみだ!」


 手に入るかもしれない素材。

 のぞみとサンドラはそれに夢を、欲望を熱く大きく膨らませ続ける。


 いざ突撃と言うところですっかり脇道にそれてしまった二人に、ボーゾはその引き金を引いた金銭欲へジトリと目を向ける。


「おい。お前が先走って獲らぬ狸のなんとやらを始めるから……」


「これは……申し訳ありませんでした」


 元締めたる魔神に責められて、ウケカッセは素直に頭を下げる。


 これに慌てたのはのぞみだ。

 きっかけを作ったとはいえ、自分が脱線して盛り上がってしまったせいで、頼もしい身内が責を負わされるなど、のぞみの小さな肝には重すぎる圧力になる。

 そんな腹の中が冷たく押し潰されるような感覚に、のぞみは頬をひきつらせながら取りなしにかかる。


「ご、ゴメンゴメン。私が言ってる素材、も……全部、研究成果が上がってから……だったし、それよりも、まずダンジョンコア……のゲットから、だよね? ヘヒヒッ」


「まあそうだな。そろばん弾くなり、素敵な素材で作れる品物を夢見るなり、その辺は全部無事に帰ってからってこったな。てか、鉄クズ山のエリアなら、ここの双子のお兄さんのコアゲット済みだしな」


「そ、そうね。とにかく、ここを誰も欠けないで完全、制覇……! お楽しみタイムはそれから……ゆっくり、じっくり欲望を膨らませて……ヘヒッ」


 再び立ち上がった欲望に、のぞみはニヤリと不気味スマイルを深くする。

 そんな緩んだ顔全体を拭うと、ギラリとした目を改めてジャンクのバリケードへと向ける。


「……そ、それじゃ、開ける、よ……? 準備は、いい……かな?」


 そうしておずおずと確認に問いかければ、スリリングディザイアの仲間たちはもちろんだとなづき返す。


 これを受けてのぞみはヘヒッと不気味スマイルをもうひとつ。

 手のひらに浮かべたマジックコンソールをタッチして、バリケードへの干渉を始める。


「これで……オープン、セサミ!」


 そして程なく、のぞみがひときわ勢いよくスイッチオン。

 一行の目の前を阻んでいた鉄クズの塊が、自らほどけていくようにバリケードを解除していく。


 そうして自ら組み替え、門を為したジャンクの壁。

 歪な物がかたまったおどろおどろしいこの造形に、のぞみは目を輝かせる。


「ではマ……スター。参りましょうか」


 ウケカッセがそんなのぞみを促して、門の奥へと先導する。

 そしてのぞみがジャンクゲートの内側へ踏み込んだ次の瞬間、正面奥で爆音が轟いた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ