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117:謂れなく追い立てられたらば逆襲をせざるを得ない

「うひょおぁ!?」


 突然の浮遊感にのぞみは珍妙な悲鳴を上げる。

 目前に迫った壁にたまらず目を瞑るとその鼻先に障壁が展開。

 しかし衝突は免れたものの勢いは殺しきれず、結局転がる羽目になる。


「おぉう……なんか私こんなんばっか……」


 受け身もなにもなく二転三転してようやく地面に大の字に止まったのぞみは、頭に残った揺れを追い出すように頭をフリフリ身を起こす。

 そんなのぞみの豊かな胸の間から、ボーゾは落下の衝撃で深々に埋まった体を出すと、できなかった分の息を取り戻そうとするように慌ただしく呼吸を繰り返す。


「ふぃー……いーやいや。とっさのことにもちゃんと障壁が張れてたじゃねえかよ。命の危険でない限りは念じないと使えないモンがよ」


「ヘヒッ……そ、そう? ただ、目の前に迫ってた、から……出来ただけ、かも? ヘヒヒッ」


 人心地つくなり進歩が見えたと誉めるボーゾに、のぞみは照れ笑いを浮かべながら謙遜する。


「もっと自信を持てよ。俺が認めるお前を信じろ……ってな!」


「ヘヒッ……ありがとうね……それにしても、あのタイミングで、またダンジョン化……っていうかダンジョンが発生する、とはまさか……このダンジョンマスターの目をもってしても……」


 そうしてようやく着地の衝撃から立ち直ったのぞみは、辺りを見回し始める。

 するとのぞみと違って、きちんと受け身をとって体勢を立て直していたサンドラが、抜き身の剣を手に辺りを警戒している姿を見つけることに。


「……よ、よかった……はぐれてないで……ヘヒヒッ」


 共に攻略し、直後に再発生したダンジョンに取り込まれたサンドラが側にいたことに、のぞみは胸に手を乗せてホッと息をつく。

 するとサンドラも周囲へ警戒の目は向けつつ、その合間にのぞみと目を合わせて笑みを交わす。


「うん。合流する手間が省けたのはなによりだ」


「魔神たちにガミガミと責任追求されることもとりあえず無くなったしな?」


「……それもないではないが」


 ボーゾのくすぐるような揶揄に、サンドラは目を逸らしながらも素直に認める。


「それにしてもこのダンジョンだ。先程と雰囲気は似ている。が、やはり違うな」


 そして咳払いをしながら辺りを見回しながらの言葉に、のぞみもうなづく。


 駐車してあった重機をスクラップに、その残骸を積み上げて作った壁。

 今にも鉄の雪崩が起きそうな、まさにジャンクヤードといった風情である。

 そこまでは先程と変わらない。最深部でクレーンアームが竜の首のごとく食らいつこうとしてきたダンジョンと。


 異なるのは、実際にジャンク品が山から崩れ落ちた時。それが転じたモンスターの形である。

 ただ歪な機械部品が勝手バラバラに暴れだすのではなく、複数のパーツが寄り集まって、別の形を成すのだ。

 それは二本、三本、四つに六つと、足の数こそ様々ながら、腕一対を備えた歪な人型。

 それはまるで、酷使された果てに打ち捨てられた機械が、同じくこき使われて亡くなった者の怨念の器となったかのようで。


「逃げろッ!?」


「ヘヒィイッ!?」


 一斉に躍りかかってくる怨霊じみた機械人形の群れに、のぞみはサンドラに押し出されるようにして逃げ出す。


 背を押したサンドラはのぞみを追わせまいと、先頭きって飛びかかったモノを一太刀に切り捨てる。

 そのまま殿しんがりとして数を減らしにサンドラは踏みとどまろうと。しかし機械人形どもはそんなサンドラを無視して、見るからに弱々しく逃げるのぞみへ追撃をかける!


「まるで鉄クズで出来たゴブリンだな!?」


 近くをすり抜けようとしたモノを二、三切り捨てたサンドラは、徹底して弱者狙いのそのスタイルに舌打ち。食い止めるのではなく、すぐ近くで直接に護るために追いかける。


「ヘヒィイ……つ、使い捨ての恨みつらみってぇ……た、確かに私、経営者、というか代表やってるだけどもぉ……ッ!?」


 一方ののぞみは、喘ぐ息と泣き言をまぜこぜに吐き出しながら追跡者から逃れようと懸命に足を動かしている。

 しかしいくらか身体能力が上がっているとはいえ、いかんせんのぞみの体の使い方は下の下。

 すでに錆びた金属片を構えた鉄クズゴブリンの一体が、もさもさの黒髪を掴める距離に迫っている。


「いやいや、だからってお前を狙うのはお門違いってもんだろ」


 しかし、いざ錆と泥水に汚れたものがのぞみの髪にのびようというところで、平静な突っ込みの声が上がり、鉄クズの手が弾き返される。


 ツッコミも、魔の手を弾いたのも、そのどちらもボーゾのもの。

 さりげなくのぞみの肩に回っていたボーゾは、懲りずに迫る鉄クズ人形たちへ向けてデコピンを空撃ち。

 するとまるで銃で撃たれたかのように、追撃をかけてきていたジャンクたちが吹き飛んでいく。

 そして吹き飛んだ先で追い付いてきたサンドラが縦横に両断。止めを刺していく。


 こうして撃退されていく追跡者を振り返り見たのぞみは、安堵にヘヒッと口の端を歪める。


「あ、ありがとう、ボーゾ……そうだよねぇ……う、ウチは超過労働する必要のない……ホワイト企業、だし……ヘヒヒッ」


「まぁな。ブラック体制なのは自分一人だけ追い込んでるオーナーちゃんだけで、それをああでもないこうでもないって引き留めようとしてるくらいだしな」


「ヘヒィッ!? ヤブヘビしたッ!?」


 余裕の出たところで容赦なく痛いところを突いてくる相棒に、のぞみは悲鳴じみた声を上げる。


「言われるのがイヤなら、休みたいって体が出す欲望をもっと素直に聞くこったな」


「ヘヒィ……で、でも、作業を始めると、ついつい色んなところに手を出したくなっちゃうから……ヘヒヒッ」


 こののぞみの言い訳に、ボーゾは飛ぶデコピンを撃ち続けながら満足げにうなづく。


「おう。ソイツもまた素直な欲望の現れってヤツだからな」


「そちらはオーナー殿を休ませたいのか無理をさせたいのかどちらなのだ?」


 そこへ追い付いたサンドラが、追いすがってくる鉄クズゴブリンを切り捨てながら呆れ混じりに一言。

 しかしボーゾはこれに、空いた左手にサムアップを作って見せる。


「当然、俺はいつだって強い欲望の味方さ!」


 いつも通りの堂々としたぶれない返し。

 清々しいまでのこれに、サンドラは気を削がれたのか、「それはいい」と、ため息混じりに諦め受け入れる。


「……気になるのは、このダンジョンが何ゆえに発生したのか、だ。この場所、この機に……!」


 そして頭を振りつつ示した疑問に、のぞみだけでなくボーゾも真剣な顔でうなづく。


「まあ仕込みはほぼほぼ確実にあいつの……巻島マキのだろうな」


 ボーゾが挙げた容疑者の名前を、のぞみもサンドラも異論無しとばかりに認める。

 のぞみたちがダンジョンを取り除いた直後。自然発生にはまずあり得ない状況とタイミング。これを仕込めて、かつ得をする人間。

 ここまで並べれば、巻島マキ以外に誰がいるのか、というものだ。


「ヘヒッ……ということは……まだ近くで、見てる?」


「ここのボス部屋かその辺か、まあ近くだろうぜ。反応、探れないか?」


「ヘヒヒッ……似てる、けど別ダンジョン……だからさっきまでの攻略情報は、リセット……! 最初から……ッ! ニューゲーム……ッ!!」


「そうかい」


 一から確保し直しになったマップを示して言うのぞみに、ボーゾは苦笑混じりに肩をすくめてみせる。


「そっちは、ベルシエルにお願いしてく……として、ね」


 知識欲しりたがりへ丸投げ宣言をしつつ、のぞみはパートナーへ見せていたマップをポチッとな。

 すると後ろで集団を作っていたジャンクゴブリンたちの両脇の壁が崩壊!

 鉄クズの雪崩で鉄クズをサンドイッチに押し潰す。


「いまのもボチボチ……侵食できてきたから、逆襲開始……ッ! へヒヒヒヒッ!」


 そんな完全に決まったトラップを見ながら、のぞみはマジックコンソールに指を走らせるのであった。

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