114:でっかいものとでっかいもののぶつかり合い……たぎる!
「何をヘラヘラとッ!? 不愉快ですわッ!?」
のぞみがワクワクヘヒヘヒしているのを見とがめて、カタリナは傍らに浮かばせた両手に束ねた光を浴びせかける。
「ヘラヘラなんかしてねえ! ヘヒヘヒだッ!」
壁を、地面を砕く破壊光線の雨。
これをボーゾの放った巨大な手のひらが傘となって受け止める。
「笑い方など……そんなことはどうでもいいのですわッ!!」
攻撃を防いで見せたボーゾの盾を打ち砕いてやろうと、カタリナは球体関節の手を拳に固めて振りかぶる。
だがその拳に横合いからぶち当たるものがある。
のぞみたちを積極的に防御支援したそれは、カタリナの操る物と比べて随分と小さいもの。だが一方的に殴り飛ばせるほどに重く硬い拳だ。
「チィッ!? 欲望まみれの鉄人形ですわねッ!?」
天空大聖堂と化したカタリナの手を殴り飛ばし、ロケット噴射に戻っていく鉄拳を迎えたのは庇護欲のヒヒイロカネ巨神バウモールだ。
虚空に浮かんだ彼は、立て続けに口から渦巻く吹雪のブレスを発射。立て直す暇を奪いにかかる。
「お! アレを見るなりに呼び出してたってワケか!?」
「ヘヒッ! デカいもの、には……デカいものを……ヘヒヒッ!」
「デカいって、アイツのは撫でるくらいにしかならないサイズだぞ? のぞみのと違ってな」
「ヘヒィ!? そ、そっちの話じゃない、から……ヘヒッヒヒヒッ」
「……こンのッ! どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのですのッ!?」
増援手配の手際を称えながら脱線する欲望の魔神とそのパートナーに、カタリナは湧き上がる苛立ちに煽られるままに叫ぶ。
が、この怒りの声を砲撃とそれに続く爆発が遮る。
「また邪魔者ですわねッ!?」
今度は何者か。
砲撃そのものをプロテクションで弾いて、新手へと目を向けるカタリナ。
その視線の先には一隻の艦が。
スラスターなどをつけて宇宙仕様への改造を施された空母「生駒」の姿があった。
『オーナー! ご希望どおりに、庇護欲巨兵軍団を連れてやってきましたですな!』
コントロールしているベルシエルの声に引き続いて、生駒の甲板からは次々とバウモール配下の鉄巨人軍団が飛び立っていく。
「き、希望どおりってことは……もちろん、アレも? ヘヒヒッ」
『当然ですな! さあ、グリードン出番ですな!!』
『承知!』
のぞみのギラギラとした期待のまなざしに応じて、甲板に上ってくるものがある。
それは紫色を基調とした四対の翼を持つ飛行機だ。
だが、もちろんただの飛行機ではない。出番と言われ応えた声のとおり、パークのマスコットドラゴンであるグリードンがヒヒイロカネを纏い変化したものだ。
このグリードンウイングは飛び立つや、味方であるバウモールへまっしぐら。そして背後に回りこんでドッキング。
そしてバウモールは借り受けた鋼の翼を振るって大聖堂カタリナへ突撃!
「させないですわ!」
来るなとばかりに放たれる牽制の光線。
グリードンの翼はその合間を巧みに潜り抜け、避けきれぬものをバウモールの分厚い装甲が弾き飛ばす。
そして重みと速度を乗せた鉄拳が聖堂の外壁を打ち砕き、立て続けのロケット噴射でぶち抜く!
「おのれぇえッ!?」
怒りに慇懃な口ぶりも忘れて、カタリナが翼を振り回す。
これにバウモールは突き入れた拳を発射していたために、支えもなにもなく弾き飛ばされる。
しかしそこはバウモールも今は翼の持ち主である。
グリードンウイングを振るって姿勢を整え、ロケットパンチを迎えながら胸部熱線砲を放つ。
「ヘヒッ……仲間の使う強化ユニットと、合体……こ、こうでなくっちゃあ……へヒヒッ!」
聖堂を支える翼を熱線で焼き焦がすバウモールたち。
その姿をのぞみは前のめりに見守りながらよだれをこぼさんばかりの笑みを浮かべている。
「うんうん。満足出来てるようで結構だ。でっかいもん同士のぶつかり合いは大迫力だもんな」
「で、でしょう? これがたまらんのよ……おっと、よだれズビッ……へヒヒッ」
「おう。俺に垂れる前に抑えてくれな? それで、このままバウモールとベルシエルにお任せ……で、おしまいじゃあないよな?」
のぞみから流れ込んでくる満ち足りる欲望のエネルギー。
それはそれで良しとしつつ、まだなにかやろうとしてる。やりたいことがあるのを察して、ボーゾはパートナーを見やる。
「ヘヒッ……分かる?」
「そりゃあそうだともよ。俺を誰だと思ってやがる。欲望の魔神のボーゾ様だぜ? 相棒の抱えた欲望なんざ丸見えだっての!」
お見通しだとのドヤ顔に、のぞみは後ろ頭をかきながら照れ笑いを浮かべる。
「そ、それじゃ……計画通りに進めちゃおう、かな……ヘヒヒッ」
ばれていたんじゃあしょうがない。
のぞみはそう言わんばかりにいつものスマイルを深くして、自分を取り囲むように種々のマジックコンソールを展開する。
こののぞみの動きを、カタリナは鉄拳や砲撃の妨害を受けながらも見逃さない。
「おのれッ! 好きにはさせるものか……ですわッ!!」
思い出したように語尾を取り繕いながら、カタリナは自分の扉を大開きに。そこから天使風味のモンスターを絶え間なく吐き出し始める。
「なーるほど。要塞らしく兵隊を存分に抱えてるってーワケかよ」
ボーゾがつぶやく間にも、カタリナ聖堂から放たれたモノたちはまっすぐにのぞみたちのいるエリアを、のぞみ目掛けて飛んでくる。
当然そうはさせじと、鉄巨兵団の一部が天使風味の迎撃に向かう。
が、カタリナが援護に放つ無数の光線に阻まれて進路妨害もままならない。
そうして光輪と翼を備えた人形たちは、光線やミサイルの作る破壊の網を潜り抜け、いまだ閉じていないのぞみエリアの裂け目を目指して殺到する。
しかしその先頭を進んでいたモノが、割れた外壁にとりつくよりもずっと前に白い粘液と弾ける。
それに続いて、矢玉や投げ槍が次々と飛び込みに向かってくるものを突き刺し、取りついた手を外壁に縫い止める。
「それじゃ、こっちは任せてもらっちゃおう・か・し・ら?」
「あれも食べれなくはない……ってーくらいだからーいまいち燃えないんだけどねー」
迎撃に回った者たちの代表として、ザリシャーレとベルノがこっちは任せろと手を振る。
その悠々とした態度の一方で、指に挟んだ針やサンドラからもらった銛で正確に打ち落としていくあたりは流石と言う他ない。
「そう言うならベルノ、勝負しましょうか? どっちがたくさん落とせるか、で」
「いいけど勝ったら何かあるのー? 私の食べ歩きの代金持ってくれるとかー?」
「それはいや。そっちじゃなくて、マスターに付き合ってもらう時間の優先権よ。ベルノが勝ったら、一回アタシと服選びに使う時間に食べ歩きにでも連れてけばいい。アタシが勝ったらその逆で、どうかしら?」
「のらいでかぁーッ!! そーゆーワケだからサンゾー! 銛、もっと銛を出してッ!」
「しょ、承知した……が、こちらは手当されているとは言え負傷者なんだぞ……?」
「えー!? こっちも勝負がかかってるのにーッ!? でもしょーがないかー。獲ったからには食べなきゃだけど、銛にこだわらないでなんでも投げて撃ち落としてく感じで、やっちゃうぞー!!」
そうしてベルノは道具の好き嫌いは止めて、手当たり次第に投擲武器になるものを用意しては投げ放つ。
「フフフ……いい感じじゃないかしら。競争相手が燃えてくれないと張り合いが無いもの。フフ、相手の全力を引き出したうえで勝つ。これが最高に華々しい勝ち方だもの、ね!!」
対するザリシャーレも、本調子を取り戻した様子のベルノの姿に笑みを深めて、五指に挟んだ針を次々と天使風味へ打ち込んでいく。
ターンとステップに合わせての連射は、彼女の信条の通りに華麗なものだ。
「なにを! 負けるかーッ!!」
対するベルノの手当たり次第の投擲はただ勢い任せで。しかしその勢い故に、物量にものを言わせた操り人形にさえ接近を躊躇わせる弾幕を作り上げるのであった。