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106:重要な話をしてたはずだというのに

「……今回の襲撃で手に入れた残骸に残留していたものから割り出したのですがな」


 幹部勢が集まったスリリングディザイアの会議室。

 ベルシエルの一言に続いて、大モニターに探索者用のメタルカードとその持ち主である女性の顔写真が写し出される。


「巻島マキ……それがオルフェリアとコンビで出てきた人形を操っていた人物ですな」


「この女はたしか……」


「そうですな。他の探索者を捨て駒に利用していて、その様子をこちらが注意喚起に拡散したあの女ですな」


 その一言に続いて、顔写真の部分が件の臨時で組んだ探索者を釣り餌にしようとしている問題行動の動画に切り替わる。


「今さら逆恨みの報復に出た……ということか・し・ら?」


「だとしたら随分としゅーとーだよねー。おまけに粘っこいしー」


「ワタシたちの立場からすると、欲望の強さは称えるべきなのかしらね?」


 そんなザリシャーレとベルノのコメントに、ベルシエルは苦笑混じりに肩をすくめる。


「それだけなら単純な話であるな。我々はしぶとく、恨み深い敵を相手どって戦うだけだしな」


「そうね。なにせ、オルフェリアが……英雄の取り巻きがボスと呼んでた相手だもの」


 このイロミダのコメントに、ベルシエルは然りと首を縦に振る。

 そして手元の装置を使ってモニターを操作する。


「イロミダが言う通り。これは巻島マキの認証カードに記録された個人データなのですが、調べてみたら改ざんされた後があったのですな。で、カモフラージュを引っぺがしてみたところ……」


 その言葉に従って、モニター上のメタルカードに重なり表示されていたデータがスクラッチを削り剥がすようにして変化していく。

 そうして現れた本来のマキのデータ。その一部位に魔神たちの間にどよめきが走る。


「なんと……ダンジョンマスターッ!?」


 そう。彼女のジョブの欄にはダンジョンマスターの文字がはっきりと記されていたのだ。


「まさかママ以外にダンジョンマスタージョブの持ち主が現れるとは……」


「でも、ありえない話じゃあないわよね」


 ダンジョンマスタージョブを持つ人間というものは非常に珍しい。

 事実、大量の来客を得て、数多くの人間の探索者適性を調査してきたスリリングディザイアにあっても、ダンジョンマスタージョブの持ち主はオーナーであるのぞみと、議題に上がっている敵・巻島マキの二名しか確認できていないのである。


 しかし人間としては珍しい存在であるとはいえ、同じ時代に一名しか存在できない、というものではない。


 驚くべきことではあるが、絶対にありえないことではないのだ。


「しかし、しかしですよ? まさかあれは最初からダンジョンマスターであって、今の今まで誤魔化し続けていた、とでも?」


「それこそまさかな。いつかになにかきっかけがあって、目覚めたと見るべきだな。そうした事例はあることであるしな」


 ダンジョンアタックを繰り返し、経験と異界の力を積み重ねることで、最初の適正とは別方向の力に目覚める事例は確認されている。

 巻島マキのダンジョンマスタージョブも、そうした事例の一種である。と言うのがベルシエルの考えであった。


「しかし、そのきっかけが何時、なんであったのか、そこまでは調べがつかなかったのであるがな……悔しいことにな!」


 分からぬままの事がある。

 その事にベルシエルが苛立ちを見せるのを、魔神たちは苦笑交じりにスルーする。

 魔神たちの中では最も理知的なベルシエルである。が、それでも知識欲の権化である。満たされぬ欲望がどれほどに心を乱すのか。それは同じ欲望の魔神たちが最もよく分っていることである。

 言葉通りに触らぬ神に祟りなし、というやつだ。


「いや……! ちょっと待て!? ということは何か!? オルフェリアも、カタリナも……こちらも! 全員があの女の下僕だというのかッ!?」


 そんな空気をかき乱して声を上げたのは、黒髪の女戦士サンドラだ。

 スリリングディザイアに騒乱を招き入れることはしたものの、助けにと呼び寄せた者たちに裏切られ、彼女らとは手を切ると誓ったがために、会議室への出入りを許されている。

 もっとも、けじめとしてその両手足にはスリリングディザイアのマークが入った呪印リングをはめて、であるが。


そんなサンドラの発言に、ベルノは軽食をかじりつつうなづく。


「そー言うことになるのかなー。じゃあ、その前に襲ってきた砂漠のお姫さんもコミでってことになるよねー?」


 そしてこてりと首を捻る食欲に、知識欲は咳ばらいを一つ置いてその疑問にうなづく。


「どこからが、どれがそうだとまだ断言はできないのであるが、流れからするとそう見るべきであるな。地球に現れた、かつて英雄殿が囲っていた女たちは、全てあの女がダンジョンモンスターとして再生させたものである。のだとな」


「……そんな、こちらが……皆もダンジョン生まれのモンスター……だと?」


 このベルシエルの言葉にダメ押しされて、サンドラはその場にがく然と膝をつく。

 無理もない。

 純粋な復活、蘇生であったと思っていたら怪物として。それもある人物の手駒として作り出されたものだと知らされて、何の動揺もないわけがない。


「……だったとしても、向こうの目的は何なのかしらね? 英雄さんのお手付きばっかりを揃えて」


 ショックに沈むサンドラは置いといて、とでも言うのか、あるいは強引に空気を切り換えようとしてか、ザリシャーレが話題を本筋に向けて舵を切る。


「サンドラの状況や別口の情報から見るに、好き放題やらせてるみたいなんだから、目的は共通してるってこと、になるわね」


「そうですね。英雄殿の地球での復活。それが巻島マキの目的でもある……のでしょうが……」


「地球人のはずの巻島マキが、どうして英雄殿の復活を望んでいるのか。その辺りは皆目……よね」


「だよねー。私たちの故郷のことなんて、地球にいて知ってるわけないんだからー」


 ああでもないこうでもないと、敵の動機について魔神たちの議論が続く。

 そんな中、不意にこれまで静かだった方向から声が上がる。


「……こっちにいた頃の知り合いだった……とか? へヒヒッ」


 その発言に会議室中の注目が集まる。

 すると視線の集中砲火を受けたのぞみは慌てて気まずそうに目を伏せる。


「ママ!? ようやく私たちと話してくれるつもりになったのですねッ!?」


「よかったー! のぞみちゃんが許してくれたーッ!?」


 しかし怒濤のごとくすがり寄る喜色満面な魔神たちに、たまらずひきつり笑いを浮かべて目を白黒とさせることになる。


「やーれやれ。へそを曲げるのもここらで打ち切ってくれてよかったぜのぞみ。さすがの俺もコイツらの許して欲しいって気持ちを直浴びし続けて、ちと胃もたれ気味だったからよ」


 魔神たちが騒いだ理由は、元締めの片割れであるボーゾが語った通り。

 パークの危機をのぞみに知らせず、のけ者にして解決を図ろうとしたこと。

 このことにのぞみが腹を立てて、だんまりを決め込んでいたためだ。


 のぞみとしても寝かせたままでおかれたのは、しっかり休ませようという魔神たちの気遣いであったのは理解している。

 しかし、それでもパークの一大事から遠ざけられたことは納得できなかったのだ。


「……あーうー……ご、ゴメン、ね……へヒ、ヒヒッ」


 そんなこんなを理由に当たり散らして、皆を嫌な気持ちにさせたことに、のぞみがひきつり笑いを添えて詫びる。

 すると魔神たちはただ胸を撫で下ろしながら、のぞみの言葉を受け入れる。


「それで、オーナー? 我々の敵は英雄殿の地球での知人だった、というのは?」


「ヘヒッ!? い、いや……私もただの予想、なんだけどね……へヒヒッ」


 そう笑いながら前置きして、のぞみは自分の推測をたどたどしくも語り出す。


 滅びた世界の英雄。その意識は元々地球の日本人であったこと。

 地球で生きていた時期に親しくしていた人間が何人かいてもおかしくはないこと。

 そういう人たちが英雄が生まれ変わり散った世界がダンジョンの基になっていると知ったら、そこから復活させて取り戻そうとしてもおかしくはないんじゃないかということ。


「……全部、もしかしてー……とか、こんなんかもーって、そんなんばっか、だけども……へヒヒッ」


 のぞみはこんな逃げ道を残すような一言を締めにして推測を語り終える。


「うーむ……なるほど、どうやって知ったかがはっきり説明できないのはムズムズですな。しかし今考えられるのはその辺り、ですな」


 これがのぞみの推測に対するベルシエルの評価であった。

 知った理由についても、要とジェニといった波長の合う人物同士が肉体を同じくする例もある。

 むしろ巻島マキがそれを実体験して生まれた前例で、それを知っているからこそ要たちに用いたということも考えられることである。


「……皆はどう思うかな?」


 そうしてベルシエルは残る魔神衆の意見も聞こうと、話を振る。

 が、話と一緒に目を向けたベルシエルは目の前の景色に唖然となる。


「何を、ママの、考えで、ドンピシャに、決まって、ます、でしょうが!」


「フヒャヘヒィイイ……や、やめ……! おろし、てぇえ……」


 スタッカートを入れながら答えるウケカッセを筆頭に、暴れがちな魔神たちがのぞみを胴上げしていたからだ。


「ちょ、止め! 止めなッ!? オーナーが怖がってるし、これはまだ、だろう話で、確定情報じゃないな!?」


 のぞみの感情。まだ推論でしかないこと。ベルシエルはこれらを前に出して、魔神衆の浮かれ頭を冷やしにかかる。


 だがそんなことは関係ない。


 そう言わんばかりに魔神たちはベルシエルが止めるのも聞かずに胴上げを続ける。


「な、何故な!?」


「いーからいーから! とにかく今はのぞみちゃんの機嫌が直ったことのほーが大事だからー!」


「そういう、事です、よ!」


「ヘヒィイイ!? ちか、て、天井……天井が、近いぃい……ッ!? ほぼ、ゼロ距離……バリアの張れない距離ぃいい……ッ!?」


 主人の悲鳴もお構いなしに。いやむしろもっと聞かせてくれとばかりに胴上げし続ける魔神たちに、ベルシエルは肩を落とす。


 そこへ実体が他所にあるために胴上げに加わらなかったバウモールとサンドラが、気の毒そうに寄り添うのであった。

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