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104:身内のピンチにきっと来る

「じゃんじゃん作るよッ!!」


 暗黒の壁に取り囲まれた空間。

 その中でベルノは自分の回りに浮かべた調理器具を振るい、食材を次々に料理していく。


「こっちもいい感じのを選んじゃうんだ・か・ら!」


 一方で暗闇を退ける輝きの中心であるザリシャーレも、洒落たアクセサリーの数々を辺りに浮かべ、人間ならぬ魔神ショーケースといった有り様になっている。


「はいよ! 出来立てアッツアツのだ! たんと食いねえよ、悔いだけになッ!」


「ホレ、もってけもってけ!」


 そして魔神二柱が用意したものを、アガシオンズとサンドラが運んでいく。

 どこへ運ぶのか、といえばそれはもちろん暗黒の壁の中へ。牢獄となっている亡霊の元へ、だ。


 ベルノの料理やザリシャーレセレクトの宝飾品を取り込むや、壁を作る暗闇の中に光が生まれる。

 その光は濃密な闇の中に隙間を生み、薄くさせる。


「いやー欲望を満たすことで昇天させちゃおうだなんて、ちょっと思い付かなかったよー!」


「ここまで上手くハマる・と・も・ね!?」


 どんどんと薄くなっていく亡霊の壁に、食と飾の欲望魔神二柱はご機嫌な笑みを交わす。


 彼女らが言うとおり、ただいま牢獄内のスリリングディザイア組は、檻を作る亡霊の欲を満たそうとしている真っ最中なのである。


 肉体を失ってなお霊を現世に繋ぎ止める未練。

 それには様々な形はあれど、つまるところは欲望である。


 抱えた欲を、未練を満たしてやれば亡霊として留まる意味は無くなり、自然と天地に還るというものである。

 仮にオルフェリアの支配によって昇天まではできずとも、未練を満たされた亡霊にどれ程の力が残るものか、というものだ。


 というわけで、ベルノとザリシャーレは食と飾、あとは財に絡んだ未練を抱えた亡霊たちを片っぱしから満たし、浄霊しているのである。


「ホント、考えてみれば単純な話なのにね」


「だよねー!? どーして全然思い付かなかったんだろーね?」


 それは魔神たちをはじめ、この場にいる皆が強者だからである。

 自分の思いを邪魔をするものがあっても、正面から蹴散らしてしまえばよい。

 そうすることのできる力を備え、その方法に慣れきってしまっていたからである。


「さあって、ボチボチ行けるんじゃーないかなッ!?」


 隙間明かりが通るほどに薄らいだ亡霊壁に、ベルノは舌なめずり。


「そうね。外のネクロマンサーも異変に気づいて怨霊を継ぎ足して来てるみたいだし、ここが攻め時・か・し・ら!?」


 それを受けてザリシャーレが目配せ。

 するとお供え物を運んでいたサンドラとアガシオンズが、女戦士を先頭に隊列を組む。


「任せろッ!!」


 そして威勢の良い声とともに抜刀。

 万全の肉体で練った生命エネルギーを乗せた刃を振るう。


 振り抜いた勢いで刀身を離れた光は弧を描いた刃となって暗黒の壁を両断する。


「今ッ!!」


 そして切り開かれた出口に向けて、スリリングディザイアチームは一斉に走り出す。

 だが、オーラブレードに断たれた亡霊の壁からは、染み出すように人影が現れて一行の行く手を塞ぎにかかる。


「たった一発で終わりだといつから錯覚していたぁあッ!?」


 妨害にまわるシャドーゴーストに対して、サンドラは再びオーラをまとわせた剣を一閃!

 繋がり閉じようとしていた裂け目もろともに真っ向両断に切り捨てる。


「まぁだまだぁあッ!!」


 さらにサンドラは走る勢いを緩めずに縦横斜めにと刃を放ち、亡霊を凪ぎ払った上に壁の裂け目を増やしていく。


 裂け目が増えたことで中へ届く光が増え、壁を作る亡霊たちはたまらずに逃げ出しては、自ら裂け目を広げていく。


「それじゃここらで一気にいくよーッ!?」


 そこへベルノが上機嫌な声をあげつつ跳躍。最初に切り開いた裂け目の合間に飛び込む。

 同時に、飛び出してくるのを待ち構えていたらしい巨大な拳がハチミツ色のウェイトレスを殴り付ける。


「うーん、肉がついててもねー……」


 しかしベルノは片手で自分よりも巨大な拳を止めると、軽々とむしりとる。

 そしてそのまま無造作にかぶりつき、吸い込むように胃袋送りにする。


「うっぐぅう……やっぱり美味しくないー!」


 すかさず両腕を広げ、両脇に迫った黒い靄壁に味への不満をぶちまける!

 泣きべそ顔に反して、満たされぬ食欲をそのまま威力に転じたエネルギーの波は、怒涛の勢いで壁を真っ二つに割る。


「ほらほら、出口がつかえてるわ。不満は後でお口直しにお弁当でもかじって紛らわしたら?」


「言われなくたってー!」


 そこへダメ押しにとばかりに山吹色の光を纏ったザリシャーレがステップ踏みつつ並んで、せめてベルノを縛る鎖とする亡霊を退ける。


 そんな同胞に押されるようにしてベルノは、どこからともなく取り出したホットドッグをもぐもぐとアガシオンズ、サンドラと共に亡霊の作る囲いの中から抜け出していく。


 だが飛び出した端から彼らの足は鎖に絡め取られてしまう。


「もー邪魔ーッ!!」


「うっとおしいッ!!」


 象も捕らえられそうなほどに太く頑丈そうな鎖に、ベルノとサンドラは苛立ちも露に引き千切り、断ち切る。

 しかし力任せに易々と拘束を振りほどくのがいる一方で、アガシオンズは外すのが遅れたことで、続けて襲いかかる鎖にも絡め取られてしまう。


「しまったッ!?」


 二つ三つ、四つ五つと次々に飛び付く鎖に絡め取られ、鉄のミノムシになって転がされるアガシオンズ。


「ベルノ!?」


「まっかせてちょーだいよ! スタッフになんかあったらのぞみちゃんが美味しくご飯食べられないんだからー!」


 それをベルノが自分に絡む分も含めてむしり取るように剥がし、サンドラとザリシャーレが手にした刃で切断していく。


「それにしてもコレって、あのネクロマンサーのやり口? 違うよね!?」


「怨霊のうろついた監獄ってイメージも無くはないけど、そういうパワーとは違うわね。むしろシンプルなダンジョンの仕掛け、というか……」


「いいから今は手を動かしてくれッ!?」


 そうして味方を救うために鎖を引きちぎっていたベルノたち。だが、ふとそのうちに妙な手応えを感じて顔を見合わせる。


「今なんか……変に軽く引っ張れた?」


「そうね。言われてみればスイッチの入ったような音が……」


 奇妙な手応えからの不穏な気配に揃って冷や汗をタラリ。

 直後、欲望魔神のチームを清らかすぎるメロディと歌声が包む。


「この歌ッ!?」


「まずいッ!? 不味いよこの音楽はーッ!?」


 整いすぎて逆に歪な旋律。これに魔神たちは慌てて耳を塞ぐ。

 だが、もう遅い。


 欲望を否定する清らかにすぎる音色に、ベルノたちは力を奪われ、崩れ落ちるようにその場に膝を着いてしまう。


 そうして弱ったベルノとザリシャーレへ重々しい鎖がのし掛かり、絡まる。


 しかし二人のこれはまだマシな状態である。


 戦闘向けのチームとは言え、魔神たちよりも数段劣るアガシオンズはすでに萎れ、鎖の重さに潰されかかっている。


「グゥウ……お、おのれ……浄化の歌、だと!? カタリナの……ッ!?」


 その中でサンドラは、苦しみうめきながらも襲いかかる鉄鎖を切り払い続けている。

 魔神や使い魔たちと違って動ける状態であるのは、元が人間であるためか。

 しかし彼女を支える闘志も、ヒトが生きようとする思いも、根本的なところは欲望である。

 欲望を否定し、枯らす力に晒され続けては、ほどなく魔神たちと同じく膝を着くことになる。


 だがサンドラが力を失うのを待たずして、黒いモヤで出来た巨腕が女戦士を掴む。


「シシシ……牢獄を破られるのは予想済みだから。ボスにも出張ってもらってたのさ。まあ、このスピードは予想以上だったけれども?」


 その大腕の根本である黒雲の上、そこにオルフェリアは悠然と腰かけ、縛られたスリリングディザイア勢を見下ろしている。


「さて……サンドラだけじゃなく魔神たちまでゲット……これはなかなかに美味しい状況よね。シシシ……」


 自分の真下に広がる成果に、オルフェリアは満足げな笑みを浮かべる。

 そして笑みのまま背後へ振り返る。


「ねえ、ボス?」


「そうね。こいつらを捕まえて下僕に出来るとは、敵の力を削った上に心を責める、一度で二度おいしい良い手になるわね」


「……やはり、カタリナとは……違う……?」


 ボスと呼ばれたフード付きコートの人物。声特徴からおそらく女らしいボスとやらは、オルフェリアの目論見を良しとして認め、受け入れる。


「じゃあ、サンドラは予定通りにデュラハンにして私がもらうから、残りはボスが首輪つけちゃってよ。シシシ……」


「こっちに預けられても手駒の調節が面倒くさいんだけど……まあ、手放して惜しくない鉄砲玉にって考えればそれもアリか……」


 グイグイと話を進めるオルフェリアにため息を吐きながら、ボスと呼ばれた女はその提案を飲む。


 それでは、とオルフェリアとそのボスは捕獲した者たちに手を出そうと動き出す。


 しかしその瞬間、黒い腕が地面から空中からと無数に現れる!


「なんとッ!?」


 全方位から掴みかかる黒腕にオルフェリアとそのボスはとっさに離脱。

 空を握った黒い腕はしかし死霊術師が足場としていた亡霊を掴み、むしりはじめる。


 その他にも無数の手は無造作にスリリングディザイアスタッフたちを縛る鎖を握りつぶして、自由にしていく。


「嘘でしょ……生歌じゃないったってこの歌の中でも全然パワーが落ちないでアイツらの味方って……」


 ベルノやザリシャーレ達の援軍として暴れまわる腕のパワーにオルフェリアが唖然とする。

 そこへさらに現れた黒い腕が、床にほど近い空間に指をかけ、穴をこじ開ける。

 そうしてぽっかり開いた穴から這い出るようにして、黒髪をどっさりと垂らしたのぞみが姿を現すのであった。

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