雑用係とゴーレムとホブゴブリン
昼。それは戦争。少なくとも俺にとってはそういうものだ。
朝からずっと身に纏っていた軍服を脱いで、コックコートを着込む。手もきちんと洗って包丁やフライパンといった武器を手にとったら、戦争の始まりだ。
「B定食一丁追加!」
「あいよー!」
週替わりのB定食は大体米と合う料理がメインになる。今週は揚げ鶏に酢を使ったちょっと酸っぱいソースをかけたものだ。それにサラダとスープ(いつも二種類から選べて、今日はコーンスープか味噌というちょっと珍しい調味料を使ったスープだ)、それからおかわり自由の白飯がつく。肉体労働の軍人には持ってこいのボリュームだ。
カラッと揚げて油を切った鶏肉を食べやすいように切り分けて皿に盛る。それをトレイに乗せると、食堂のおばちゃんたちがサラダやらおまけの小鉢やらも乗せて注文した人のところへ持っていってくれる。だけど、食欲旺盛な若者も多い軍人を相手にしている料理人の仕事はこれでは終わらない。
「ひよこ豆の辛味煮込み追加!」
「はいはーい!」
そうやって次から次へと追加される注文を捌きながら小一時間くらい鍋やら熱い油やらと格闘していると、ピークは過ぎて、食堂にやってくる人もいくらか少なくなる。忙しいのは嫌いじゃない。それだけ多くの人のお腹を満たせたという事実が俺に充実感を与えてくれる。だけど、そろそろ俺の腹も限界だ。
サッと目に見える範囲のものを洗って片付けて、食堂の中を見渡す。みんな各々好きなものをテーブルで食べていて、注文を待っている人はいない。俺は水に濡れた手を備え付けのタオルで拭いて、表情にも動きにも余裕が出てきたおばちゃんたちに声をかける。
「お昼いただきまーす」
「はいよー。お疲れさん!」
おばちゃんのひとりがあらかじめ用意しておいてくれた賄いを受け取って厨房から出ると、食堂の隅にあるいつもの席を陣取る。遠い昔にこの国へ移住してきた、そのおばちゃんのご先祖さまから伝わったという握り飯は、食べやすくて忙しい時にも重宝している。
冷たい水を飲んでから握り飯を頬張る。白米の素朴な甘みと塩のしょっぱさにホッとする。普段はパンを食べているけど、好き嫌いは特にないから米も美味しく食える。
食べ進めていくうちに具として小さな揚げ鶏が入っていることに気付いて思わずウキウキしたりしていると、食堂によく知っている顔が入ってきたのが見えた。
「むぐっ……ペっさん、こっちこっち!」
「食いながらしゃべるんじゃねぇよ」
呆れながらも俺の前の席までやってきてくれたペっさんこと、情報部の期待の新鋭ペキ・シーはドカッと雑な動作で椅子に座った。その肩からは彼の友魔であるグレムリンのパオが顔を覗かせて、にーっと笑っている。
「よっ! パオ」
「んぎゃ!」
手を上げて挨拶すると、おんぶされているパオも嬉しそうに片手を上げて挨拶を返してくれた。パオは本当に人懐っこい。無愛想なペっさんの友魔とは思えないくらいだ。
本人にはとても言えないようなことを考えながら、俺は水で握り飯を流し込んだ。ペっさんが来たことでまた仕事に戻るから、早く食べないといけない。
「ペっさん、ちょっと待ってて。今これ食っちゃうからさ」
「別に急がなくていい。急ぐ仕事もねぇ」
「でも腹減ってるだろ?」
「我慢できないほどじゃない」
「まぁすぐ食べ終わるものだし、俺のことはお構いなく」
そう言うとペっさんは微妙な顔をしたけど、俺は気にすることなく最後のひとくちを口に放り込むと、十分足らずの昼飯が終わらせた。
それからすぐに俺は厨房に戻ってまた手を洗うと、ペっさんの昼飯作りに取り掛かった。事前に食べやすい大きさに揃えて切っておいた野菜を塩と油を加えた湯でサッと湯がく。それから油を引いて熱した片手鍋で薄切りの豚肉を炒めて、一旦取り出す。今度は同じ鍋でニンニクとショウガのみじん切りを香りが立つまで炒めて、茹でた野菜を加えて油がまわったら豚肉ももう一度、合流させる。最後に事前に合わせておいた調味料たちを絡めて、完成。出来上がったものを丼によそった白飯にかけて、サラダと味噌スープ、それから空の小皿と一緒にトレイに乗せてペっさんのところへ持っていく。
「今日は新作。タイトルはそうだな……五目うま煮ってとこかな。冷めないうちに食ってみて」
「ん」
頷きながらも、ペっさんはまず小皿に料理を取り分けて自分のトレイの横に並べた。すると、それまでペっさんの背中にしがみついていたパオがそれはもう嬉しそうにペっさんの隣の席に降りてきて、自分用に用意されていた小さなスプーンを握りしめた。
「熱いから気をつけろよ」
「ぎゃっ!?」
「……遅かったか」
ペっさんの言葉を聞くよりも早く、熱々の米を頬張ったパオが小さく悲鳴をあげた。ペっさんはそんな友魔のドジにも嫌な顔ひとつせず、冷たい水を渡したりスプーンで米をかき混ぜて冷ましてやったり世話を焼いてやる。本当はせっかくの食事中なんだから、俺が代わりに面倒を見てもいいんだけど、ペっさんに世話を焼かれるパオが嬉しそうだからそんな野暮なことはしない。
そうしてようやくパオの世話が終わると、ペっさんも自分の食事を始める。レンゲでちょっと冷めちゃった五目うま煮をすくって何のためらいもなく口に入れた。
「どうかな? 今回のはうまくできてると思うんだけど」
「まあまあ」
ペっさんはもとから口数が少ないこともあってか、あまり言葉で褒めることはない。でも、悪いと思ったらちゃんと伝えてくれるから「まあまあ」っていうのは合格って意味だということを俺は知っている。無言で食べ進めるペっさんとニコニコと笑顔で口周りを汚しながら食べるパオを見て、俺はちょっとした達成感に浸る。
ペっさんの昼飯はいつも俺が担当することになっている。彼は長い歴史の中で多くの移住者を受け入れてきたこの国でもちょっと珍しい、移住者一世だ。いくら移民が築いた国と言っても、広大な森と深い霧によって外界を遮断しているケーストースでは滅多によそ者はやってこられない。国民の多くは何代も前の先祖の代からこの地で暮らしていて、ペっさんのように本人が外の国からやってきたという人は少数派だ。現に今この国に存在している正真正銘の移民は五人もいない。まぁ俺も赤ん坊の頃に森へ捨てられてケーストースに受け入れられた、その内のひとりなんだけど。
そんな珍しい移民の中でも、ペっさんは特に珍しい存在だ。その理由は彼の出身にある。ペっさんが生まれたのは遥か東にある大国らしいのだけど、この国にはその大国から続く血筋がないらしい。近くの島国から流れてきたというご先祖を持つ人は少ないながらいるけど、ペっさんは正真正銘オンリーワンな存在なのだそうだ。
だから、俺は五年前に移住したペっさんの話を聞きながら、遥か東の大国の味を再現するために日々試行錯誤を繰り返している。この前はたまごと米を炒めたもの、その前は肉餡を小麦粉で練った皮に包んで蒸した饅頭だった。酢と唐辛子を使ったスープは不評だったから、辛いものと酸っぱいものはできるだけ避けている。
今回はお気に召したみたいで、ペっさんは黙々と食べ進めている。そんなペっさんに俺はいつものようにとりとめのない話を振る。
「今日は特に遅かったな。何かあったの?」
「…………食ってる途中に話しかけるなよ」
「えーいいじゃん。飯は楽しく食べたほうがいいらしいし」
「……備品の片づけ。別部署の手伝いに行ってた」
「そんな仕事は俺にやらせとけばいいのに」
「お前がそれを言うのかよ」
文句を言いながらも諦めて俺との会話に付き合うことにしたらしいペっさんは、また呆れたような顔をしながらお椀に口をつけて味噌スープをすすった。そうは言われても俺が雑用係なのは事実だし、便利屋扱いされたところで特に嫌な気持ちになることはない。いや、俺だって最初は軍人として軍に所属したはずだったんだけど、生来の器用さであれこれと手伝っているうちに自然と雑用係に落ち着いていたんだ。
食堂で腕を振るうのも雑用の一貫。料理はそれなりに得意だから評判はけっこういい。一応まだ基礎訓練は受けているし、戦うことが嫌ってわけでもないけど、こうして食堂で鍋を振るっているほうが性に合っているようにも思う。それに、前線で戦うのを少し躊躇う理由もある。
「ん、おい。戻ってきてるぞ」
「へ? あっ本当だ」
ペっさんに示された方向を見て、俺はすぐに席を立った。厨房の中にある、外と繋がる裏口の隙間から見慣れた姿がチラチラと見えている。速足で駆け寄って俺は扉を開いた。
「おかえり、ゴーくん。お疲れさん」
そう声をかけると、軍の中でも背が高いほうの俺よりもずっと上の位置で、丸い頭がぐるりと回転してそのてっぺんで勝手に咲いている可愛らしい花が揺れた。
ゴーくんは名前の通りゴーレムだ。特殊な鉱物で構成されているらしい、縦にも横にも大きな体をしているけど、丸っこいフォルムのおかげか、そこまで威圧感は感じない。随分昔から生きているようで、体のあちこちに苔が生えているし、頭に咲くピンク色の花も何処からか飛んできた種が勝手に芽吹いて居座っているのだ。
何十年も昔から軍の敷地に住み着いていたゴーくんは縁あって俺の友魔ってことになっていて、俺の仕事をいつも手伝ってくれる。力持ちだけど心優しい彼は率先して力仕事をやってくれるから、本当に助かる。今日も食堂の仕入れ先である農家さんの卸しに使っているリヤカーが壊れてしまったということで、急きょゴーくんが農家さんに直接食材を取りに行ってくれたんだ。
「ありがとなー。そしたら貯蔵庫まで運んでもらってもいい? 俺もすぐ行くからさ」
俺の言葉にゴーくんはもう一度、360度まわる頭を回転させて大量の芋やら玉ねぎやらが詰まった麻袋を担いで貯蔵庫のほうへ、のしのしと歩いていった。俺も言ったことが嘘にならないように、まだ食事を終えていない友達にひと言断ろうと声をかける。
「ペっさーん」
「わかってる。俺もこれ食ったら仕事に戻るから」
構わないからさっさと行けと言わんばかりにシッシッと手を払うペっさんにちょっと笑って、ふたりに手を振ってから俺は裏口から外に出た。こうして午後の仕事が始まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お疲れさまでしたー」
「はーい、ご苦労さまー」
明日の仕込みを終えて、俺の業務は終了。食堂から直接ゴーくんと一緒に家に帰る。少し前まではもうちょっと軍人らしい雑用係だったはずなのに、毎年入ってくる新人と仕事を分かち合っていたら、いつの間にか一日のほとんどを食堂で過ごすようになってしまった。おかげで顔馴染みの同僚たちに来週の週替わり定食のメニューをリクエストされることもしばしば。周囲にはすっかり料理人だと思われている。まぁ俺も料理は好きだし、美味しいって言ってもらえたりするのは嬉しいから、それでもいいんだけどね。
そんな俺ではあるけど、家ではほとんど料理はしない。仕事の延長でメニュー開発のためにキッチンに立つことはあるけど、自分の食事を作ることは滅多にない。家で温かい食事を作って待ってくれている恋人や母親っていう存在とも、残念ながら無縁だ。でも、軍の基地から徒歩二十分くらいのところにある家からは、毎日いい匂いが熱い湯気と一緒に漂ってくる。
捨て子だった俺を森で拾って育ててくれた、当時現役の軍人だった生涯独身のじっちゃんは齢七十を越えて俺にそれまで住んでいた一軒家を受け渡すと、とっとと国営の老人ホームに隠居しちまった。だから、今あの家で暮らしている人間は俺だけだ。だけど、俺には他にもふたりの家族がいる。ひとりは隣にいるゴーくん。そして、もうひとりは……
「ただいまー!」
「おせーぞ、クソガキ! もう外は真っ暗じゃねーか!」
帰宅早々、自分の背丈とそう変わらない長さのおたまを振りかざして怒鳴りつけてくる、ひげもじゃの小人。彼こそが俺のもうひとりの家族、ホブゴブリンのホブさんだ。
気難しいホブさんは不機嫌そうにおたまを振りまわしているけど、彼がプリプリと何かに怒っているのはいつものことだから気にしない。俺は玄関に用意してあった、固く絞った濡れタオルで一日外を歩きまわっていたゴーくんの体を拭きながら、ヘラヘラと笑った。
「ごめーん。仕事で時間かかっちゃってさー。でも、俺ももう十八だし、暗くても平気だよ」
「うるせぇクソガキ。とっとと手を洗って席に着きやがれ!」
「はーい」
おそらくまったく話を聞いていないだろうホブさんに返事をして、言われた通りに手を洗う。それからもう既に夕飯の支度がされている食卓についた。この家で台所仕事を始め、あらゆる家事を取り仕切っているのはホブさんだ。今日もテーブルには牛肉の煮込みや温野菜のサラダ、それからホブさん特製の焼きたてパンが並んでいて、食欲を刺激するいい匂いを放っていた。
「冷めないうちに食いやがれ!」
「はーい。いただきまーす」
せっかちなホブさんに追い立てられるようにして、夕飯が始まった。まずはパンを手にとって、ひとくち大にちぎって口に放り込んだ。もっちりとした食感のパンはこうばしくて大好きだ。ホブさんもそれをよく知っているから、面倒だろうに週に何度か焼きたてを食べさせてくれる。口では絶対に言わないけど。
「ホブさん、美味しいよ」
「当ったり前だろうが。誰が作ったと思ってやがる」
ホブさんはそう言うとフンと鼻を鳴らして踏ん反り返るけど、赤いとんがり帽子の下にあるふさふさの眉毛がピクリと動いたのを俺は気付いていた。口がすさまじく乱暴なホブさんは嬉しくなると、無意識に眉毛を動かす癖がある。本人に言うとへそを曲げて二日は夕飯抜きにされるから言わないけど。
それ以上、余計なことは言わずに、今度は牛肉の煮込みに手を付け始めると、ホブさんはクルリと背を向けてそばに控えさせていたジョウロを手に取ってゴーくんのもとに行ってしまった。ホブさんはそのまま器用に自分の何十倍もありそうなゴーくんの体をよじ登る(ゴーくんもさりげなく手伝っていたけど)と、頭のてっぺんに咲いている花へジョウロで水を与え始めた。ゴーくんもそれを嬉しげに受け入れて、ジッとしている。本人は認めたがらないけど世話好きのホブさんは、俺だけじゃなくてゴーくんの面倒もよく見てくれる。
言葉はないけど仲睦まじい様子のふたりを眺めていると、ふとこのふたりとはもう随分と長い付き合いなんだなぁと年寄りじみた考えが浮かんだ。
俺がじっちゃんに引き取られた時、ホブさんはもう既にこの家に住み着いていたらしいけど、シャイなホブさんが(本人は絶対に認めないけど)人前に姿を現すことはなかったらしい。だけど、ホブさん曰くクソガキの極みだった、小さい頃の俺があまりに危なっかしくて見ていられないってことで、いつの間にか隣にいた。それからは俺の身の周りの世話はホブさんが全部見てくれていたから、俺にとっては母親みたいなものかもしれない。見た目は小さなおっさんだけど。
それからゴーくん。軍人だったじっちゃんを基地まで迎えに行っていた子どもの頃の俺が、ひとりで寂しくじっちゃんの仕事が終わるのを待っていると、何処からともなく現れていつも一緒に遊んでくれた。そうしているうちに俺はゴーくんのことが大好きになって、ある日、ゴーくんと一緒じゃないと帰らない!って駄々をこねたらそのまま家までついてきてくれて、ゴーくんは晴れて俺の友魔になったんだった。
俺はふたりに支えられて此処まで生きてこられた。だから、いつか恩返しができたらなと思うのは当然のことだと思う。
今、俺は軍人として基地に勤めている。だけど、もうほとんど裏方になりつつある。その理由のひとつはゴーくんにある。この国の軍人は友魔とチームを組んで戦闘をおこなうことが多い。でも、気の優しいゴーくんは戦うことが好きじゃないみたいで、俺としても嫌なことを無理やりやらせるようなことはしたくないから自然と俺たちは雑用係に落ち着いていった。俺は赤ん坊の頃からケーストースで育ったから、この国を守れるのなら戦うことも嫌とは思わないし、今や形だけ所属しているだけになってしまった部署の先輩と友魔のグリフォンが自在に森を駆け巡って敵を撃退した話なんかを聞くと、カッコいいなって思う。もちろん備品の管理や仲間たちの身体を支えるために武器じゃなくて鍋を振るうのも、間接的にみんなを守ることに繋がっていると思っている。
今の仕事は好きだ。軍人と料理人の間で宙ぶらりんになっている自覚もあるけど、いずれ片方だけを選ぶことになったとしても、両方とも好きな仕事だから、どっちを選んでも後悔はしないだろう。
だけど、家の中でのんびりとしているゴーくんと忙しなく俺たちの世話を焼くホブさんを見ていると、思うことがある。俺と一緒に家へ帰るようになるまで、ずっと軍の敷地の片隅にひっそりと生きていたゴーくん。誰かの面倒を見ている時が一番イキイキとしている、シャイで寂しがり屋(これも本人は絶対に認めない)のホブさん。俺を支えてくれるふたりもまた、俺を拠り所にしているんだ。
ケーストースは友魔がいなければ辿りつくことはできない秘境だ。外の者は深い森と霧に阻まれて国に近付くことはできない。でも、小競り合い程度の争いは何年も昔からずっと存在する。
その争いで死者が出ることはほとんどないけど、もしも俺の身に何かあったとしたら。そしたら、この家で待っているゴーくんとホブさんはどうなってしまうのだろう。
頭の中に二年前に敵と交戦して、その時に負った怪我のせいで軍人の道を閉ざされたとある大先輩の姿が浮かんだ。軍の中でも抜きん出た実力を誇っていた、みんなの憧れの先輩は一生治ることのない傷を抱えて軍を去った。あんなに強い先輩でもそんな傷を負うことがあるのだから、先輩より格段に弱い俺なんかは死んだっておかしくない。
もしも、そんな未来がやってきたとしたら。俺という背骨を失ったふたりは、きちんと立っていることができるのだろうか……。
「おい、クソガキ。何ボンヤリしてやがる。具合でも悪いのか」
ホブさんの言葉にハッとして、意識が現実に帰ってきた。どうやら考え事にかまけて食事をする手がすっかり止まっていたらしい。普段はあまり難しいことを考えない俺の異様な様子に、心配になったらしいホブさんとゴーくんがジッとこっちを見つめてくる。
俺はすぐに首を横に振って、いつも通りの笑顔をふたりに向けた。
「ううん。何でもないよ。それより肉のおかわりしてもいい?」
「勝手にしやがれ! そんだけ食欲があるなら心配するだけ損だったわい!」
プリプリと怒ったホブさんはゴーくんの肩から飛び降りると、今度は調理台の上へよじ登っていく。勝手にしろと言いながらもおかわりをよそってくれるらしい。
俺は短気なホブさんを待たせないために、すぐに皿を持って席を立った。それから、ゴーくんにこっそり「怒らせちゃった」と目配せして肩を竦めてみせると、ゴーくんは茶目っ気たっぷりに頭をグルグルまわして応えてくれた。
仕事も好きだけど、俺はやっぱりこのふたりとの暮らしが一番好きだ。何気ない日常の風景の中で、俺は改めてそう思った。種族も体の大きさもバラバラだけど、俺たちみたいな関係を家族って言うのかもしれない。
もう少し将来のこととかちゃんと考えて、仕事とももっと真面目に向き合ってみようかな。ホブさんに牛肉の煮込みをよそってもらいながら、そんなことを考えた。
俺の望みは、ゴーくんとホブさんと一緒に暮らすことだから。そのために何かを選択するのも悪くない。
このちぐはぐだけど、居心地のいい場所を、俺はこれからもずっと守っていく。暖かい家の中で、大切な友魔たちに囲まれて、俺はそう決意したのだった。