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ぼくのカサ

作者: あずま人

第1章 ぼくのカサ



 ぼくの家は貧乏だ。

 お父さんはぼくが生まれてすぐにトラックとの交通事故で死んだらしい。

 今はぼくのお母さんが朝から夜までずっと働いて、そうしてぼくは学校へ行き生活している。

 お母さんは近くのコンビニで働いている。笑顔が素敵な、ぼくの自慢のお母さんだ。

 お母さんはやさしいし、寝るときに歌を歌ってくれるし、ぼくが学校に行くときはおでこにチュウをしてくれる。

 ぼくはそんなお母さんがとても大好きなのだ。


 昨日はぼくの8才の誕生日だった。

 ぼくには友達がいないので、アパートの部屋でお母さんと二人、仲良くお誕生会をした。

 ぼくのお誕生会はとても楽しかった。

 お母さんは、コンビニの店長さんに店のケーキをもらったと嬉しそうに語って、冷蔵庫から小さなショートケーキを出してきた。

 それからお母さんは、ちょっとまってて、とぼくに言って玄関の方へ行き、なにやらゴソゴソとしてから手に何か長いものを持って戻ってきた。

 「ママ、それなあに?」

 僕は聞いた。

 「みーくんのお誕生日プレゼントよ」

 そう言ってお母さんはそれを差し出してきた。

 あけていい?と聞いたら、うなずいてくれたので、さっそくぼくは包み紙を破いていった。


 -中から出てきたのは、透明に光輝く、新品のカサだった。


 「それはビニール傘と言うのよ」

 ビニールでできた傘、ビニール傘。

 それはぼくの中に、きれいな印象を残した。

 「ごめんね」

 お母さんはなぜか悲しげに微笑み、小さく言った。

 ぼくはなんでだろうと思いつつも、すぐにカサを手に取ってはしゃいでいた。


 次の日、ぼくは雨が降っていないのにプレゼントのカサを学校に持っていった。触れずにはいられなかったのだ。

 教室に入ると、真っ先にこちらに気づいたタカハシ君がやってきて、大声で話始めた-クラスのみんなに向かって。


 「おい、みつきのヤツ、ビンボーなくせに傘なんて持っていやがるぜ~!」

 すると、他のみんなもぼくを指差して、「なんでビンボー人が傘買ってんだよー」とか「どうせゴミ箱から漁ってきたんだろ!」とか「きったなーい」とか。そんなことを言ってきた。

 僕はたまらず

 「ちがうよ!これはぼくの誕生日プレゼントだもん!お母さんにちゃんともらったものだもん!」

 と叫んでしまい、みんなの口を白熱させてしまった。

 「なんなのよ、気持ち悪い服きてるくせに!」

 「おまえのカーチャンなんてぶよぶよのカエルだろ!」

 「くさいからどっか行ってよ~」

 みんなが口々にぼくの悪口を言っていると、みんなの中からぼくに近寄ってくる人がいた。悪ガキという名で有名な通称「とっくん」だった。

 とっくんはニヤニヤしながらぼくに近づくと

 「オメエ、それオレに渡せよ」

 いきなりぼくのカサをつかんできた。

 「や、やめてよ!」

 ぼくは慌ててとっくんの手を振りほどき、カサと共に廊下を逃げた。


 気づいたら、いつも隠れる時に使う階段の裏でうずくまっていた。

 その時、ぼくは決して泣いているわけではなく、ビニール傘とお話していたのだった。

 「きみ、なまえ何にしよっか」

 もちろんカサは何も言わない。

 「そうだ、ビニール傘だから、ビーちゃんでいいね!」

 その時からぼくはそのビニール傘を「ビーちゃん」と呼んで大切にした。


 雨の日は欠かさずビーちゃんを持っていった。

 外に遊びに行くときも、家で遊ぶときも。他の数少ないおもちゃと一緒に、ビーちゃんはそこにいた。

 終いには夜寝るときも枕元にビーちゃんを置く始末で、お母さんを呆れさせた。

 -ぼくとビーちゃんはいつも一緒だった。


 ある日、ふとビーちゃんを見ると、茶色いガサガサしたものがくっついていたので、慌ててお母さんに言うと

 「それはサビね」

 綺麗にしないと、と言ってお母さんは雑巾でビーちゃんを綺麗に磨いてくれた。

 それからというもの、ぼくは毎日ビーちゃんを雑巾で磨くようになった。


  「ずっと一緒だよ、ビーちゃん」



 ぼくが小学校4年生のとき、それは起こった。

 いつものように教室で悪口を言われたぼくは、ビーちゃんと一緒に学校を出た。 

 先生の目をくぐり抜けてくるのは大変なスリルがあった。

 「ハア、なんでぼくはみんなと仲良くできないのかなぁ」

 なんで友達ができないんだろうとぼくは嘆いた。

 ビーちゃんは何も答えなかった。

 ぼくはビーちゃんと共に歩いた。

 歩く歩く。

 信号機。

 もうアパートの目の前だ。

 お母さんはまだ仕事だけど、家で待ってればいいだろう。

 信号機が青になった。

  歩く。歩く。歩…


 キキィィィ!バサッ、ドンッ


 -世界が暗転した-


目が覚めると、そこは真っ白な部屋…病室のベッドの上だった。

 お母さんが言うには、ぼくの目覚めてからの第一声は

 「ビーちゃんどこー?」

 だったそうだ。

 ぼくは気になって仕方がなかった。

 だから言った。何度も言った。

 「ビーちゃんは?ビーちゃんは?」


 突然ドアが開いてお母さんが入ってきた。

 抱き締められた。

 「みーくん!ああ、よかった。本当によかった」

 大声で泣くお母さんにぼくはまた言う

 「お母さん、ビーちゃんは?」

 お母さんは泣き止まない。

 ぼくはそれならば自分で探そうと思い、体を動かそうと……動かなかった。

 よくみてみると、ぼくには足が無かった。



 「そんなことあったな~」

 僕はつぶやく。

 「パパ~本呼んで~」

 おお、我が愛しの娘を差し置いて、どうやら思索にふけってしまっていたようだ。この僕は。

 いけない。いけない。

 「ちょっとまっててね~今行きますよっ、と」

 義足をうまく持ち上げ、書斎の出口へ向かう。

 ふと、立ち止まる。

 そういえば、あのビニール傘、結局見つからなかったなあ。

 「早く早く!パパ!」

 おっといけない。

 そうして僕は歩み出す。


 子供部屋に着いたときには、僕はすっかりビニール傘のことを忘れていた。


-第1章 終わり

第2章 傘のオレ



 オレは傘だ。誰がなんと言おうとオレは傘だ。

 といっても、一番身分の低い使い捨てビニール傘だがな。

 そう、オレは目覚めたらここにいた。

 -人間は「コンビニ」と言うらしいが。

 オレには友達がいた。

 毎日毎日、オレはオレの周りにいる友達と話した。

 「今日も雨降んねぇな。今日もまた1日長く生きられる」

 だとか

 「右端のヤツつれてかれたで。ドンマイやな」

 だとか。

 そんな話を毎日していた。

 基本、オレたち使い捨てビニール傘は、人につれてかれると数日で死ぬという奇病を患っている。

 だから、今日、体が浮く感覚があったとき

 「今日で終わりだなぁ。オレの命」

 と直感的に悟ったものだった。

 でもまあ、そもそもなんでオレが傘になったのかもわからん訳だし、死んでも(?)別に構わん。そう思うのである。


-と、思っていたのだがなぁ~(笑)

「なんだこの女性、めっちゃ綺麗やん!」

 オレは綺麗な女性に買われたことに気づいて、こりゃ迂闊には死ねんな。と思ってしまった。


 -ホント、そう思っていた時期が僕にもありました。はい……

 その綺麗な女性の家に着いて、めちゃくちゃ心踊らせたオレであったが、今度はその家のなかにいた、気弱そうな男の子にオレは引き渡されてしまったのである。

 今度こそオレは

 「これ、一瞬で死ぬやつだ」

 と観念した。

 ホント、神様、勘弁してくださいよ。

 いるかも知れん神様にそう呟くのであった。


 翌日。なぜかオレは生きている。

 なぜか男の子はオレのことを丁寧に扱ってくれたのである。

 女性はオレのことを誕生日プレゼントとして男の子に渡したらしかった。

 誕生日プレゼントにビニール傘とはいかがと思ったが、今こうして生きているのもそのお陰であると思うので、何も言わない。

 いやしかし、子供のことだ。すぐに心変わりしてオレを乱雑に扱うのであろう。

 そう考えた。


 -名前を付けられた。


 彼はいじめられっ子らしく、教室に入ったとたんに罵声の雨あられだった。

 彼はオレを持って逃げ出した。

 そして今に至る。

 「ビーちゃん」

 だそうだ。

 ……ビーちゃん…………

 というかさ、なんでオレに構うのさ、もっと他に時間使いなよ、友達作るとかさ。


 本気でそう思った。


 数週間後。

 ああ、体がきしむわぁ。

 オレの体には錆が付着してきていた。

 まじで寿命来たかも。

 そう思った。

 

 ……ヤバイ、男の子まじで最高。

 そう思ったのも無理はない。

 オレの異変にいち早く気づいた男の子は、さっそく綺麗な女性に報告。今は彼女の手になかでぬくぬくと幸せに浸っているわけだ。

 まじで幸せ。

 生き返った。


 オレはそれから、約1年間生きることになった。

 ある夜、男の子の枕元で、オレは思索にふけった。

 傘になる前のオレ。

 なぜ傘になったのか。

 そうすると、頭に浮かんだのは

 「オレ、昔は人だった気がする」

 そういう考えだった。根拠はない。ただ浮かんだのだった。

 男の子の寝顔を見て浮かんだことだった。


 次の日、オレはいつものように男の子と学校へ行き、いつものように教室から飛び出し、なぜか男の子と共に学校を飛び出し、家への帰路に着いていた。

 「ハア、なんでぼくはみなと仲良くできないのかなぁ」

 いや、だからオレと一緒にいるからだよ。話しかけたりするからだよ。何回言わせるんだよ。

 こっちの声も聞こえないけども。

 なんでお前は毎日毎日毎日毎日!

 もううんざり…っ?!


 目の前にトラックが写った。


 同時に、記憶も、オレが傘になる前の記憶も、蘇った。


 「そうだ……オレは…………おっ、オ"レば…」

 涙が急にあふれでてきた。気がした。

 「オ"レは…ごいづの…みづぎ……三月の…どうじゃん(父ちゃん)じゃねーがよぉぉぉ!!」 

 そう、オレはこの男の子の。加藤三月の父親だったのだ。

 それを思い出したとたんに涙が止まらなくなったのだ。

 「苦じがったな…そうだよなぁ……んぐっ、えっ、えっ」

 こいつさぁ、オレが死んでからどんなに苦しんできたよ。

 どんだけいじめられてきたよ!

 オレが死んだから、妻にも!迷惑掛けちまってんじゃねえかよ……


 -トラックは迫る。キキィィィ


 「ぐぞっだれぇ"ぇぇぇ!!」

 オレは全身に力を込めて身体を開く。

 バサッ

 オレは今度こそ……三月を守る!


 ぼくはいきなり開いたビーちゃんに驚いた。立ち止まる。同時になにかが音をたてて迫ってくることに気づき、振り返る。


 「あ"あ"あ"ぁ"ぁぁぁ!!」

 全身に力を込め、衝突に備える。


  ドンッ!


 ………………。

 …………………………。

 ………………………………。


 -暗い。暗い。暗い。


 -怖い。怖い。怖い。


 ハッ!

 こ、ここはどこだ……そうだ、オレは三月を助け…

 「みっ、みつき!どこだ?!」

 慌ててオレは叫んだが、何も返答はない。

 どうしよう、どうしよう。

 そう思ってると、急に声が聞こえた。

 「大丈夫です。三月君は生きています。まだ。」

 「だ、誰だっ!」

 オレは声がした方へ向け、叫んだ。

 「名前はありません。ただひとつ言えることは、人間界で言う、神の使い、でしょうか」

 どうでもよかった。

 「三月は生きてるのか?本当に」

 「はい、生きてますよ。まだ、ですが」

 「まだ?何が言いたいんだ!死んじまうのか?!三月は!」

 「いいえ、ですからあなたの所へ来た次第です」

 「助かるのか?三月は」

 「はい、助かる方法がひとつだけあるのです。ですが……」

 「言えっ!今すぐっ!」

 「はい……あなたの命を永遠に消滅させれば、あなたの命の欠片によって三月君を生かすことができます……ですが…」

 「やれ。」

 「いいのですか?あなたは無くなるんですよ?三月君は死んでもまた新しい生を受けることも可能なのですよ?」

 「いいからやれっ!!オレはもう三月を2回も助けられなかった!人間関係も!交通事故もっ!……オレの命の欠片が入るならオレは……いや、三月は大丈夫だ!」

 「……わかりました。そうしましょう」

 では……そう言って神の使いの声は途切れた。


 それきりオレは意識を失った。



 かつて自分の子供のために永遠の命を失った者がいる。

 名は忘れたが、勇敢な男だった。

 遥か昔から「神」と呼ばれている者はそう語る。

 彼が永遠の命を失ってからどうなったのか……恐らくは私と同じ神の使いになったのだろう。

 

  名の無き使者は、こうとも語った。


-第2章 終わり。

 

いじめは受けていたんですが、ドラマで見るような酷いものではなかったのです。それこそ三月が受けたような言葉によるいじめが主でした。

高校2年生の今でこそそんなことはないにですが、この小説を書いている時にも、中学時代を振り返って、そんなこともあったなあと思っていました。

今回は初投稿で、僕が今書いているようなバリバリのフィクションでは無いのですが、良ければ評価をお願いいたします。

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