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最強チートのヒトバシラ  作者: 独郎
第一章
3/25

第二話 「転生のダイイチワ」

「二週間後と言ったな……アレは嘘だ。」


プロローグ及び第一話を読んで頂いた方どうも、作者の独郎です。


この作品、投稿した頃は「一人でも読まれればいい」と思っていただけに

想定外の閲覧者数でご感想まで貰ったものですから筆の進むこと、進むこと。


全く行き詰まることなく、この第二話は完成しました。


第一話を投稿した直後「なろうで受ける小説」で検索してみたところ……

この小説、ほとんど当てはまる部分が無いことに気づきました。


ですが、今回はちゃんと「なろう」らしく「異世界」に行きます。

おっと、これ以上は読者様のお楽しみが削がれてしまうので言いません。


また、今回から前回のあらすじをつけてみました。

ご安心下さい、決して文字数稼ぎ目的ではございません。


では「最強チートのヒトバシラ」第二話、「転生のダイイチワ」をどうぞ。





前回までのあらすじ


世界の最下層、一元素世界で四元素世界の住民である神、「ヨン」に出会った俺は自分の生まれてきた意味を知った。


どうやら俺は邪神の暇潰しのため、最強の才能の材料にするための才能…

「徒労の才能」を与えられて生まれたらしい。


その才能せいで周囲の人々に迷惑を掛けっぱなしのクズみたいな人生を歩んできた俺はその贖罪と邪心への復讐のためヨンと手を組み、二元素世界でその準備をすることに。


遂に俺の才能がヨンによって分離されて生まれた二元素世界の案内役、

「エクスパ・ゲージ」とともに遂に異世界に足を踏み入れることとなる……。


_____________________________________


「準備は出来たか?」


「準備もなにもここはなにも無いところでしょう?」


「そうであったな、いや私が言いたかったのは心の準備だ。」


「大丈夫ですよ、ちょっと楽しみですらあります。」


これから俺は二元素世界へと旅立つ、

仲間を集め、努力して力を付け、運命に抗うのだ。


頼れる案内役もいる、きっと大丈夫だ。


「そうか、では二元素世界への扉を開くとしよう。」


ヨンが指を指した所に穴が開く、

指をさながら鍵を開けるように捻ると大きな穴になった。


「最後に言っておく事がある。」


「何でしょうか?」


「そなたは私が体を与えて世界に送り込むことになるが、元々その世界にいなかったものが突然青年の姿で現れるのは色々と邪神に見つかるリスクがある。」


「故にそなたは赤子の状態でどこかに生まれるという形で世界に行くことになる」


「別の世界に行くごとに人生やり直しというわけですか……」


「まあ、今回の目的の為には時間が多いほど良いだろう

 子供のうちしか出来ぬこともあるやもしれぬ。」


「言っておくが、肉体を生み出すのには結構な力を使う、無駄にはするな。」


「分かりました、なるべく気をつけます。」


なんだか結構条件付きなようだ。


神がついているのだからサポート万全なのかと思ったが、

そういえば彼は今、力の大部分を失っているんだったな。


「案ずるな、エクスパも付いておる。」


エクスパは俺の隣で時折くるくると回っている。

不安が無いわけじゃないが、俺は何よりもこの旅立ちに期待している。


俺は死してようやく味わうチャンスを得たのだ。

ちゃんと実る可能性のある努力ができるまともな人生ってやつのチャンスをだ。


俺が穴に向かおうとすると、ヨンは俺の頭を掴んだ。

記憶が流れ込んで来る、どうやら前世の記憶のようだ。


「餞別だ、お前が生前に手に入れた知識の中でここに来てから思い出せたものはできる限り魂に定着させておいた。」


「無知過ぎてあまり役に立たなくても困るのでな。」


ヨンはそう告げてニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。

俺としては最高に嬉しい餞別だ、感謝感謝。


「じゃあ、行ってきます!」


「うむ、朗報を期待しておるぞ」


旅立ちの挨拶を終えると、俺は二元素世界へ続く穴へと入っていった。


_____________________________________



気付くとどうやら俺は水中にいるようだった。

今の状況はヤバイ。


本能的に感じ取った、波もあるようで恐らく海中だ。

体の自由がきかない、どうやら本当に乳幼児のレベルからやり直しになるようだ。

耳元でエクスパがパニックに陥っている。


(どうしましょう! いきなり失敗なんて案内役の面目丸潰れですよぉ!)


ああ、もう頼れる案内役のキャラが崩壊しかけている……。


俺はと言えばほとんど呼吸が出来なかった、

たまに波で水面に浮かぶ時だけしか空気に触れられない。


どうして普通に生まれられなかったのか。


意識が遠のいていく…

転生第一回目で冒頭から溺死か、傑作だな。



次に意識が戻ったとき、そこは見慣れた一元素世界の景色ではなかった。


目が見えないということはまだ俺は生きていて、

しかも赤ん坊のままだということだ。


どうやら転生第一回目で失敗するのは免れたらしい、我ながら悪運の強いことだ。


「船長! この赤子なんとか生きてます! どうしやしょう?」


なにやら頬に触れるやつがいる、

何を言ってるかはよくわからないがこの世界の言葉だろうか。


しかし元気で声が大きいな、耳が割れそうだ。


「そいつの近くにはサファイアサーペントの群れがいたんだ。

 縁起がいいし、しばらくは俺たちが預かることにしよう。」


「了解しやしたぁ! 」


俺の体ががっしりとした腕に持ち上げられた。

ちょっと首!、首いたい! まだ据わってないんだから優しく頼むよ…。

抗議の鳴き声は波の音と男達の大きな歌声にかき消された。



少し経ってまた体が動かされた。

どうやら俺は中々上等な毛皮のような物の上に寝かされたようだ。


しかし目が見えないのはとても不便だな、

景色が見えないとそれだけ入る情報が少なくなる。


エクスパは一緒に助かったのだろうか……彼女なら今の状況が分かるかもしれない。

近くにいるのだろうか、心のなかで呼んでみたりして、おーいエクスパー。


(ご無事ですかっ! マスター。)


おっ、近くにいたようだ。

魂の状態で話していたのだからもしかしてと思ったが、

やっぱり心で会話出来るのか。


俺なら無事だ、心配するな。

ところで今はどんな状況だ? お前の知ってる範囲でいいから教えてくれ。


(はい、現在マスターは船の上に居ます。

恐らく通りかかった漁師にでも拾われたのかと…)


漁師に拾われたのか…幸運だった。

あのまま海の中を漂っていたら、

恐らく溺れ死ぬか魚介類の餌にでもなっていただろう。


さて、命は助かったのだから俺の使命を果たさなきゃな。


(それにつきましてはまず、この世界の言葉を覚えるのが宜しいかと存じます。)


言葉は生きるには大切な事だからな、

なんだかんだで邪神も俺の言語能力は奪わなかったし。


とにかく、物を買うにも人と話すのにも言語は大事だ。

よし、まずはこの世界の言葉を覚えよう。


それから約1年ほど経ったろうか、ようやく視界がはっきりしてきた。

俺は現在小さな部屋の中でモフモフした白い毛皮に包まれている。


1日2回、当番のらしき人が俺に何かの母乳のようなものを飲ませに来る。


もちろん、男が母乳を出せる訳ではない。

大きめのスプーンのようなもので器から与えられる。

目が見えない頃はは毒かと疑ったりもしたが、

エクスパが大丈夫だと言ってくれたので安心だ。


味は中々に濃い甘さで旨く、腹持ちも良かったので食生活に不満は無かった。


言葉を発せないのは非常に面倒だったが、

子供というのは意思表示がシンプルにできていい。


YESなら笑い、NOなら泣けばいいのだ。


やがてもう少したった頃、遂に自力での移動が可能になった。

自力で歩けるようになると行動範囲が大きく広がり、色々な事が分かる。


まず、俺を育ててくれているコイツらは恐らく漁師なんかではない。


コイツらは恐らく海賊というやつだろう、

船内を探検していて武器庫のような所を見つけた。


銛や網なんかは分かるが、剣や銃、チェーンメイルのようなものまであった。


あるいはそれらを運ぶ商船団というのも考えつくが、

明らかに使われた痕跡があり血の匂いもした。


歩けるようになってからは凄い速さで出来ることが増えていった、

全く子供の成長スピードには驚かされる。


二年が経った頃には少しは言葉も理解出来るようになり、

まだ単語だけだが喋れるようにもなった。


周りの人物の名前も少しは覚えた。


まず俺の食事を運んで来てくれる二十歳位の茶髪の大柄な男、

こいつの名前はファーガスというらしい。

声がとても大きく、明るくて陽気な男だ。


いつもは船の柱の上で望遠鏡を使って遠くを見ている、

確かに彼の大声は偵察の報告に向いている。


最近は俺の歯が生え揃ってきたからか食事のバリエーションが増え始めた。


色々な魚介類と一緒に炊き込んだ黄色い米の炊き込みご飯や、

平たいマカロニのようなものをミートソースと和えたもの、

野菜たっぷりで素朴な味付けのスープ。


この人の料理の腕は素晴らしい、習いたいくらいだ。


後は俺を助けてくれた張本人にして、

この船の船長であるケヴィンという男がいる。


見た目は三十歳位のジョリジョリしそうな髭が目立つ筋肉質の男、

手下たちからはとても慕われていた。


いかつい見た目に似合わず子供好きで、

手下への威厳を保つために夜中になってから俺に会いに来ている。


そしてその度にそのジョリジョリした髭の生えた顎を容赦なく擦り付けてくる。


ちょっと気持ち悪いが俺を助けてくれた恩人には他ならない、

絶対にこの恩は返したいものだ。


そんな訳でこの船には二十数人余りの乗組員が乗船している、かなりの大所帯だ。

だからこの船は部屋がとても多く、船自体もかなりの大きさだ。


もう二年近くもここに暮らしているが、未だに港に停泊したのを見たことがない。


船内を探検していた時にとても寒い部屋があったから、

食料は冷蔵庫のような場所に保存しているのだろうか。


野菜やキノコのようなものを栽培しているような場所もあったので、

船の上で自給自足ができるようになっているのかも知れない。


生きている時には見なかったものが多く、飽きが来なかった。


三歳になるとこの世界の言葉がほとんど理解出来るようになった。

簡単なものだけだが字も読める、書けるようにはまだなっていないが。


二割しか努力が報われないせいなのか、俺の頑張りが足りなかったのか。

かなり遅くなってしまったがこれでようやく彼らと話が出来る。


今まで俺は全く乗組員達と会話をしていなかったので知らないことも多い。

取り敢えず日頃のお礼を兼ねて今日は挨拶をしに行くとしよう。


そう思っているとちょうど朝食の時間の時間がやって来たようだ、

ファーガスさんが来る。


「おーい飯の時間だぞ、ボウズ。」


「おはようございます、ファーガスさん!」


ファーガスはビックリした顔でこっちを見つめている。


もしかして伝わらなかったか?


(いえ、マスターの言葉は完璧なはずですが……)


エクスパのフォローが入るが、相変わらずファーガスは硬直したままだ。


「お…お前、喋れるようになったのか!?」


「は、はい! ついこの間…うわっと」


次の瞬間、ファーガスに抱き締められた。太い二の腕が苦しい、首が絞まる。


「よかった……喋るのが遅かったから

 助ける前に頭でも打ったのかとみんな心配してたんだぞ。」


「すみません……俺、できが悪いみたいで。」


「良いってことよ! それにここの奴等はみんなでき損ないみたいなもんだぜ?」


「よし! 船長に伝えてくる。今夜は宴だぁ!」


そう言うとファーガスは物凄いスピードで走り去って行ってしまった。


「ファーガスさん、朝飯持ったまま走って行っちゃったな…」


腹は空いたが、久しぶりに感じた人の暖かさに胸が一杯になった。


その日はファーガスの言っていた通りに宴になった。

乗組員が一同に会し、酒を飲み、飯を食い、歌を歌う。

船の上はいわゆる、「お祭りムード」だった。


俺はというと、船長であるケヴィンの前にいた。


宴だというのに表情は固く、

いつも夜中にやって来る時の父性本能丸出しな顔とは真逆の雰囲気だった。


宴の時とはいえ、

部下たちに威厳のない行動を見られる訳にはいかないと頑張っているのだ。


だが明らかに口元がニヤけている。

部下たちもケヴィンが俺に飛び付きたいのを我慢しているのに気付いて、

笑いを堪えているようだ。


見てるこっちが微笑ましい、

こんなリーダーだから乗組員達にも信頼されているのだろう。


「おい、坊主。」


「なんでしょう? えっと……船長。」


「本当に喋れるんだな……よかった。」


まず彼の口から出たのは安堵の言葉だった。

そこにはもう威厳もなにもなかったが、

代わりにいつもの穏やかで暖かな表情を見れた。


やっぱりアンタは子供と接してるときが一番いい顔してるよ。


「ええ、コホン。

 せっかく話せるようになったんだ、お前を拾った時の話をしよう。」


「良いですね、気になります。」


そんな訳でケヴィンが俺を見つけた時の話をすることになった。


「お前を拾ったのはちょうど三年前か…

 あの時俺たちはジェネラルホエールを狩りに来ていた。」


「無事にジェネラルホエールを狩って帰ろうとした時だ…」


「サファイアサーペントの群れの中心で流されている赤ん坊を見つけたのは。」


俺が流されていた時ってそんな状況だったのか、

生き物の群れのど真ん中とか危険すぎる。


「サファイアサーペントってのは富の象徴でなぁ、これが滅茶苦茶強ぇんだが……

牙は最高の剣の素材に、肉は滋養強壮に、骨と鱗は価値の高い工芸品の材料に、油は食材と良質な燃料に、ってなもんで体の全てが金に変わる一攫千金の海の財宝と言われる生き物なんだ。」


「昔から生まれた時にサファイアサーペントが近くにいた子供ってのは大成する事が多くてその子の家族は末代まで繁栄するって言われててな、これは助けねぇとなって思ったわけよ。」


「え…でもサファイアサーペントって滅茶苦茶強いんですよね?」


俺がそう言うとケヴィンはバツの悪そうな顔をして、黙ってしまった。

そのあと近くにいた乗組員が

なかなか出来上がった様子で上機嫌に口を挟んで来た。


「あんときはなぁ、船長ってば俺達がサファイアサーペントはヤバイって止めようとしたら「お前ら子供を見捨てるのか!」って怒鳴ってよう、結局一人で狩っちまったんだぜ。」


「おい、止めろ! 恥ずかしいからそういうことを言うな!」


別に恥ずかしがらなくてもあんたが優しい人間だってのは俺も含めてここの全員が分かっていると思うが…言葉に出すとこのままケヴィンが真っ赤になって海に飛び込みそうなので言わないことにした。


「まあ……つまりはお前はそうやってここにいるってことだ。」


「助けて頂いてどうもありがとうございました。」


満面の笑みでそう答える。

笑顔を作ったつもりはない、

この人の人柄に救われた事を心のそこから喜びたい気分だった。


「やめろい……そう改まって礼をされるとなんだかこそばゆいぜ……」


「あ、そうだ。お前に渡すもんがあったな……おい! アレを。」


そういってケヴィンが隣にいた部下に声をかけると、

部下はしばらくして布に包まれた長い物を持って戻ってきた。


「俺達から喋れるようになったお前への贈り物だ、受け取れ。」


ケヴィンから布の外されたそれを受けとる。

それは三歳の体にはあまりにも大きく、引きずることの出来ないほど重かった。


「三歳にはちょっと過ぎたもんだったか? 

それはお前を助けた時狩ったサファイアサーペントの牙を

うちの鍛冶士に加工して作ってもらった一級品だ、大事にしろよ?」


俺が貰ったもの、それは恐らく片手用であろう剣だった。


船員に手伝って貰いながらゆっくりと剣を鞘から抜くと、

透き通るような白銀の刀身が姿を表した。


よく見てみると、

刀身には海の波の様な装飾となにやら文字のようなものがあった。


「ウルフ……バート?」


「それがその剣の名だそして…」


「それはこれからお前の名前だ。」


衝撃的だった。

俺は今、名前を貰ったのだ。


こんなに嬉しいことはない、

俺は助けて貰った上にこの世界で自分を示すための証まで貰ったのだ。


もちろん、前世で親から貰った名前も大事にしたいが

少なくともこの世界では俺はこの名を名乗ろう。


嬉しくて、嬉しくて、終いには感極まって泣いてしまった。


本当に、子供は感情を制御しきれなくて不便だ。

だが、子供は感情が素直に出てきていい。


その日は俺のこの世界に転生して初めての忘れられない出来事になった。


部屋に戻ってもう一度ウルフバートを見てみると

柄の付け根の所になにかをはめる場所があった。


気になったので後日鍛冶士達の作業場へ聞きに行ってみた。


その質問に答えてくれたのは新米鍛冶士のゴバンという男だった。


彼はこの船の中では俺の次に若い、

歳は12、髪は茶髪で頭にバンダナを巻いていた。


「それは界石をはめる部分だな。」


「界石?」


「界石はこの世界に流れる力が地中で結晶化したものらしいぜ、

 道具に混ぜ込んだり、一緒に使うことで特殊な力を得られる。」


「その界石はうちにはないんですか?」


「食料保管庫にある氷の界石だけかなぁ……あれは使っちゃダメだぞ。」


そうか、無いのならしょうがない。

せっかく世界に一つだけの俺の剣なのだから、

もっとオリジナリティを持たせたいと思ったが。


「まあまあ、そう落ち込むなって。お前の剣は水深12000メートルの深海にある鉱石を主食とするサファイアサーペントの牙から作られているんだからそこらの界石頼りの剣より強いんだぞ。」


それは頼もしいことだ。


それにしても、

サファイアサーペントって鉱物が好ぶ…いや、寒いギャグはやめとこう。

肉である俺が群れの中心にいても食われなかったことに合点がいった。


部屋に戻った後、俺はさっきの会話で少し気になった事について考えていた。


この世界では距離の単位にメートル法を使うのだろうか、

俺のいた世界と同じメートル法を。


もしかしたらエクスパがこのことについてなにか知ってるかも知れないな。

おーい、エクスパ。


(了解しました、ご質問にお答えしましょう。)


(そもそもこの世界は二元素世界であり、三元素世界の人間の手によって生み出されているものです。言葉こそ違えど、独自の単位を使うより三元素世界で一般的に使われているメートル法を使うほうが楽だったのでしょう。)


(特に深い意味などございません、ご安心ください。)


そうか、それもそうだな。

実際に俺がもといた世界のラノベなんかでは

異世界でもメートル法は普通に使われている場合があった。


あっちでは何故異世界でメートル法が使われているのかと指摘されるものもあったが、結局の所はそっちのほうが楽だからだし、確かに深い意味なんてない。


それに、異世界でメートル法が使われるルーツまで物語の中で書いていたら作者も読み手も面白くない。


各自で勝手に脳内補完すればよいのだ。

異世界だけど主人公は現実世界の住人だからだとか、本当は違う単位だが小説のなかで分かりやすくするために翻訳されているとか、言葉も同様だ。


それはそれでいいとして、

俺はこの剣のくぼみに取り付けるものに目星をつけていた。


そう、エクスパだ。


(えっ……私ですか? 確かにピッタリになるでしょうが、良いのでしょうか……)


ああ、この剣は俺の名前の付けられた言わば半身だ。

だからこそ、この世界で今最も信用の置けるお前に守っていて貰いたい。


(了解しました、

エクスパ・ゲージの名に懸けて全身全霊でこの剣を御守りしましょう。)


こうして俺の剣に対二元素世界用石型案内人エクスパが搭載された。



早いものでもう二年が経つらしい。

五歳の誕生日、正確に言えば俺がこの船に拾われた日に俺はケヴィンに船長室に呼ばれていた。


「今日でもうウルフも五歳になるのか…」


「そうですね、あの時救っていただいたご恩は今も忘れていません。」


俺がそう言うと、ケヴィンは少し笑ってから話の本題に入り始めた。


「お前ももう五歳だ、俺達の国では五歳から親の手伝いを始める。一家の労働力として立派に家計を支えることで責任感を持たせ、早いうちから家族の連帯感を強めるためだ。」


「そこで、今日からお前には雑用係をやってもらいたい。できるか?」


「はい! 喜んで!」


二つ返事で了承した。

とにかくこれで少しは助けてもらった恩返しができるだろう。


それにこの世界で生きていくためにはいろんな知識が必要になる。


まだヨンからはこの世界で何をすべきかなどの連絡は受けていないが、

この世界で使命を果たすためには一人でやれることを増やさなければならない。


まだ協力者はいない、この世界で何かの運命を変えるようなことをするために何が必要かは分からないが、一通りのことは自分一人で出来るようにしなければならないだろう。


今の期間とこの船での経験は後に大きく生かせることになるだろう。

幸運なことにこの船に乗っている人達にはその道のスペシャリストが揃っている。


次の日から早速、俺の雑用係生活が幕を開けた。


雑用係というのは基本的に暇で、忙しい時に手伝いをする程度のものだった。

空き時間はこの船にいる色々な方面の熟練者たちに教えを請い、

技術を磨く生活を送る。


初日はなかなか忙しい日だったので疲れた。


朝起きてすぐ、この船の植物の栽培長であるワイネさんが俺のことを呼びに来た。


「おーい、起きろウルフ。今日は畑の仕事を教えるから。」


眠い目をこすり、ベットから起きる。


実は昨日、自分の語彙力を試すため

夜遅くまでエクスパとしりとりをしていたのだ。


結果はエクスパの圧勝、流石は案内人といった所だった。


俺はワイネさんに連れられて船の甲板にあるガラス張りの畑に来た。

ここでは環境に適応して海の上でも育つ野菜を数種類栽培している。


「まずこれがポタ、食べれる部分は土の中に埋まっていて根っこから直接生える。

 蒸しても旨いし、細長く切って揚げたり、スープに入れてもいい。」


そんな感じでこの畑にある全ての野菜を一つ一つ説明してくれた。


米のような小さく細長い粒が楕円形の固い殻に詰まっているシャリコ。


皮が紫のジャガイモのような野菜のポタ。


キャベツのように緑の葉が何枚も重なっている中心に、

紫のトウモロコシのようなものが実っているロロコ。


白黒のスイカのような見た目だが

中にはカボチャのような甘い身が詰まっているラスマ。


低い木にバナナのように実った赤い瓜のような野菜のハビ。


若干の違いはあれど、どれも俺のもといた世界と同じような味がした。

ちょっと違う所はみんな火を通さなくても生で食べられるという所と、

潮風の影響か全ての野菜ほんのり塩味が付いている所か。


実が地中に実るものは特にその傾向が強く、しょっぱさがすぐ分かった。


なかでも特に驚いた所はその野菜たちの成長スピードだ。

一番実が実るのが早いハビは種を蒔いてから実が実るまで二日ほど、最も実が実るのが遅いポタですら一週間とちょっとあれば種から実が実るまで成長する。


代わりに実が落ちるのも物凄く早いため、

ちゃんと収穫しないといつの間にか畑が無法地帯になるので

毎朝の収穫は欠かせないのだとか。


聞いた話によると、野菜を狙う多くの鳥系モンスターが折角実った実を種が落ちる前に食べて強力な胃酸で種まで消化してしまうので、己の寿命を削ってこの成長スピードを獲得したらしい。


また、生存圏を広げるために塩水でも育つようになった。


これはいわゆる生存戦略という奴だ、

農業ラノベに書いてあったの読んだことがある。

それを人間が利用させて貰っているわけだ、ありがたいのやら申し訳ないやら……


野菜の説明を受けて、一通り収穫を終えると今度はそれを調理場に持って行くことになった。


調理場の指揮を取っているのは副船長兼料理長のファーガスさんだ、

毎日食欲旺盛な船員達の食事を一人で作っている彼の料理の腕は俺も知っている。


「ファーガスさーん、今朝採れた野菜を持って来ましたー」


「おう、ウルフか! そこにまとめて置いといてくれ。」


調理場の釜でなにかを煮ていたファーガスは、俺に気付くとそう言った。

調理場全体に食欲をそそる匂いが充満している。

この体はとても鼻が利く。


「ファーガスさん、なにをつくられているんですか?」


「朝飯のスープだ、ちょうどいいからお前が朝採ってきたポタとシャリコを使うとしよう。」


この世界では基本的には朝夕の一日二食で、たまに各自で間食を取る。

朝はお粥やリゾットのように野菜のスープに炊いたシャリコを入れて食べる。

夜は焼いた肉をゆで野菜やシャリコで作ったパンやマカロニと一緒に食べることが多い。


この船での主食はシャリコだ。

シャリコは三日に一度実をつけるが、実の熟し具合によって加工方法が変わる。

よく熟したシャリコはそのまま鍋で炊いて食べ、熟さないものは粉にして様々な用途に使う。


肉はどうしているかというと、主に狩りによって手に入れている。


代表的なのはジェネラルホエール、

味はちょっと生臭い牛肉を想像してもらえればいい。


体長は10~20メートルもある大鯨だ。

これを大砲で撃ち、船の錨で固定して海上で解体する。


そうすると流れた血や肉に小魚や肉食生物が寄ってくる。


強力な大砲を搭載したこの船は、

そいつらも同時に狩ることができるのでお得という訳だ。


ジェネラルホエールは大きいわりに個体数が多く、増えすぎると港に迷いこんで船を転覆させたりするので優先的に狩られているらしい。


この船でも一ヶ月ぐらいで肉を消費するので定期的に狩りをしている。


俺も何度か見させてもらったことがあるが、

あの巨体が海上でバラバラにされて運びこまれるのは圧巻だ。


「ウルフ、味見するか?」


そう言いながらファーガスが小皿にスープを入れて、俺にくれる。


「では、ちょっとだけ……」


野菜のスープのなかに深い肉の旨味が溶け込んでいる、

これはジェネラルホエールの骨の出汁だ。

始めから塩辛い野菜は臭みのあるジェネラルホエールと相性がいい。


「今日のスープはジェネラルホエールの骨の出汁を使っていますね? 」


「やっぱ分かったか? お前、いい舌を持ってるな。」


「毎日美味しい物を作ってもらってますから。きっと舌が肥えてるんですよ。」


「くーっ、嬉しいこといってくれるじゃねぇの!」


喜んだファーガスの手によってその日の朝食はちょっぴり豪華になった。


朝食が終わると、今度は鍛冶場に呼ばれた。

武器の手入れを手伝って欲しいとのことだ。


「来たかウルフ、それじゃあ頼んだぜ。」


呼んだのは新米鍛冶士のゴバンだった。

早速、20本位の剣やら斧やら槍やらの山を渡された。


「まず、やり方を教えてやらねぇとな。こっち来い。」


「最初は武器の錆をジェネラルホエールの皮で落とす、

 その後に砥石で研いで、刃に油を塗った後、布で丁寧に拭くんだ。」


「普通はただの砥石でいいけど、刃が大きい武器なんかはあれで研ぐ。」


ゴバンが指差した先には2つの車輪のようなものが取り付けられた器具があった。


「あれは足踏み式回転研磨器、通称グラインダーってやつだ。」


「その名の通り、足で下に付いてる板の部分を踏むと2つの車輪が回って武器が研げる仕組みだ。火花が出るからマスクをつけて使った方がいい。」


そう言ってゴバンが差し出してきたマスクは、マスクというか鉄仮面だった。


夕方までかかって、やっと全ての武器の手入れが終わった。

手入れというのも案外疲れるものだ。


ゴバンの方を見ると、こっちはへとへとだというのに彼ははいたって元気だった。


「お、終わったな。よし、ついでにお前の剣も手入れしちまおう。」


そう言われて、

重いからだを引きずりながら部屋からウルフバートを取って来たのだが。


なにやら心の中に聞こえてくるものがあった。

恐らくエクスパの寝息だ、石でも寝るのか。

まあ、なるべく彼女を起こさないようにさっさと済ませてしまおう。

ウルフバートは片手用だが長剣だ、ゴバンの言った通りにグラインダーにかける。


(ひやっ!……くすぐったい、何!? )


ウルフバートをグラインダーにかけているとエクスパを起こしてしまったようだ。

すまん、ウルフバートを手入れしてたんだ。


(い……いえ、それは別に構わないのですが……何かがこ、こすれてっ! )


それは研磨機の刃だ、何か様子が変だが大丈夫なのか?


(も、問題ありませ……んっ! 

ちょっとこの剣と感覚が一体化してしまっていたようで……くふっ! )


そうか、問題ないならいいんだ。

でもなんだか苦しそうだからスピードを上げてさっさと終わらせるからな。


(ま、待ってください、これ以上はっ! くすぐったくて笑っちゃうからぁ! )


エクスパの狂ったような笑い声が響く中、ウルフバートの手入れは無事終わった。


(ハァ……ハァ……やっと終わっ……た。)


急に起こしてしまってすまなかったなエクスパ。


それにしても石でも動機が荒くなったり、呼吸の音が聞こえたり、感覚があったりするのか。この先ウルフバートを戦闘で使う時、痛かったりしないのだろうかと心配になる。


(ご心配なく、さっきは寝起きで制御が出来ませんでしたが、ある程度は自分の意思で制御出来るようですから。)


しかし、その先もウルフバートの手入れをしていると

度々小さくエクスパの声が聞こえるのだった。







どうだったでしょうか、第二話。


この小説、ヒロインが今のところ石のみだということにお気づきでしょうか。

ええ、おかしいですともラノベといったら普通は美少女のハーレムですよ。


このヒロイン「エクスパ・ゲージ」は

私がありふれていないヒロインを追求した結果です。


皆様は九十九神というものをご存知でしょうか。

日本のアニミズム(自然物崇拝)の象徴みたいなものだと私は思っています。


現代で言えば擬人化でしょうか、人でないものを人の形で描くものです。

そこにインスピレーションを得て生まれたのが「擬人化前提の石ヒロイン」です。


皆様の中でそれぞれのヒロインを想像して頂きたく彼女は生まれました。

どうぞ彼女の姿を想像してあげて下さいそうするともっと小説が楽しくなります。


もう少しの間、ウルフバートの周りは男だけです。

「もっと美少女出せよ。」とお思いの方、もうしばらくお待ち下さい。


そんなことを語りまして、今回のあとがきを終了とさせて頂きます。

では……また次の物語でお会いしましょう。



ここからは投稿ペースについてのお話になります。


実を言いますと、この作品には十話程のストックがあります。

小説投稿を一定周期でスムーズに行うために書いたものです。


前回のあとがきで最低二週間に一つ投稿すると書きましたが。

私自身よく考えてみたところ、勝手ながら次のようにすることになりました。


・ストック用の最新話が完成すれば次の話を投稿する。


・ストック最新話が完成しなくても前回投稿時から二週間経過で投稿する。


しばらくはこのルールの下で投稿させて頂きますのでご了承下さい。

また、投稿が不定期ですのでブックマークの登録をオススメします。


これにて業務連絡は終了です、これからもどうぞよろしくお願いします。















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