一章、二幕
「クレイ」
銀軍の制服を着た女がクレイに声をかけた。
「ウィングか。どうしたの」
彼女の制服の下に着ているローブのフードが窓から射す月明かりにぼんやりと浮かび上がっている。
「なぜ、ナディアの有名なPK兄弟をここにいれたの」
「そうだね、特に意味はないかな。あの二人は使えるから」
ヒカルとケイは、ナディアでPK兄弟として名を馳せた。
二人が通れば街が壊滅すると言われるほどだった。中でも兄のヒカルは影から音をさせず、悲鳴すらも上げられないまま殺されると言われ、初心者に限らず、トッププレイヤーからも恐れられている。
ウィングはそんな二人を間近で見てきた。だからその恐ろしさもよくわかっている。
「ウィング。あの二人について。ケイの方はまだいいけど、ヒカルはいつ暴走するかわからない」
ウィングはフードの下から面倒臭そうな表情を覗かせながらも頷いた。
クレイはウィングを自室から追い出すと、小さく溜息をつく。
あの二人がPK兄弟だというのは風の噂で聞いていた。しかし、ナディアで同じギルドだったウィングから話を聞き、それがよくわかった。
「楽しみにしてるよ、ヒカル、ケイ」
扉の外でそれを聞いたウィングは小さく笑う。
PKプレイヤーは二人だけではない。同じギルドだった、ウィングも同じだ。それを忘れて貰っては困る。
「ねえ、ヒカル、ケイ。あの時みたいに楽しい宴を開きましょう? 血塗れた、残酷な夜と共にね……」
ニヤリと笑ったその顔は、ローブと共に夜闇に消えた。