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無関心の災厄  作者: 早村友裕
シラネアオイ
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06 : 道化師による幕間モノローグ

 揺らめいて、煌めいて、銀色で、ふわふわと、最後に笑って。

 それでも、オレには何も出来なかった。

 なあ、夙夜。

 オマエに見える世界がオレにも見えていたら、アイツを救えたかな――?



 真っ暗な部屋の中でベッドに横たわり、オレは暗闇を見つめていた。

 先輩にもらったイベリスの花が、じんわりと発光しているかのように闇に浮かび上がっている。

 今でも目の前に投影されているのは血に濡れたクラスメイトの姿だった。眠れば忘れるものではないし、それ以前に……眠れない。

 けれども、多くの事が一日のうちに在り過ぎたせいか、意識が分散して、萩原の死で抉られた傷がほんの少しだけ薄れていた。

 代わりに、多すぎる出来事がオレの脳内を支配して……眠れない。

 水晶の爪で、喉を裂かれて死んだ『才女』萩原加奈子。

 再び街に現れた珪素生命体シリカ

 転校生、白根葵の探し人。

 オレにはまだ分からない。

 いや、普通なら簡単だ。珪素生命体シリカが萩原を殺した――証明終了キュー・イー・ディー

 しかし、他の珪素生命体シリカを知るオレにはどうしても信じられない。彼らが人を傷つけるとは思えないのだ。

 これは感情的な問題。そして、理論的な問題。

 珪素生命体シリカには、人を傷つける理由がない。


 解決しないシーソー論理、もう一個なにか証拠があればどちらかに傾くと言うのに、オレの中にはもう一つのピースが足りない。

 足りない。

 足りない。

 教えてくれと誰かに頼む事は簡単だが、難解だ。

 誰に聞く? 何と聞く?

 何よりオレは、夙夜以外の人間に何かを問う事を嫌悪している。

 最期の笑顔と絶対的切断面が、目の前をちらついて離れない。

 闇に目を凝らす。


 幻影は消えない。

 笑顔が消えない。

 惨劇が消えない。

 疑問が消えない。


――ああ、気持ち悪い。



 何もかもを無に帰すマイクロヴァース。

 珪素生命体シリカを最初に創った博士の意図は知れない。何しろ、世間一般的に彼らの存在が明らかになったとき、すでに博士は故人だったから。一人で数万体のイキモノを作り上げた博士は、誰にも胸中を語る事無くこの世を去った。

 『異属』を見つけたら消せ、というたった一つの命令を彼らに与え、他には何の制約もなく、何百年も朽ちる事無いカラダと人間を模した思考を持ったイキモノとして形作った。

 彼らはただ存在し、『異属』を見つけては排除し、緩やかな時の中で淘汰していく。

 なぜ排除の命令を与えたのか。

 博士はマイクロヴァースというプログラムにどんな願いを込めたのか。

 その先に在るのが永遠なのか、それとも消滅なのか。


――オレも、死ぬ時は何も残さずに消えたいよ。


 もうダメだ。こんな気分で寝られるわけがねえ。

 オレは、とうとうベッドから起き上がり、寝巻用のスウェットにフードパーカーをはおると、夜中のコンビニまで散歩する事にした。


 隣の部屋で寝ている大学生の姉も、下の階で寝ている両親も――疲労困憊で家に辿り着いたオレに対して、察して何も言わなかった家族。

 誰一人起こさないようにしながら、そっと家を出た。




 何もかもを、忘れたかった。


 それでもモノガタリはオレの周囲を巻き込んで――いや、正確に言うならば、オレは最初から関わってない。うまいことオレを巻き込まず、周囲だけで起きていた。オレの周囲の日常は、常日頃から非日常の体現なのだ。

 事件の中心にいながらにして完全なる部外者であったオレは、裏腹に、現実に一番近かった。

 行きつく先は、終焉、奈落、流浪に流転、変幻自在とご都合主義と、自我のカタマリアツマリで。

 一気に収束していく結末に、オレなんかが、一介の『口先道化師』が入り込む隙なんてどこにもなかった。

 オレは傍観者で、名前だけ主人公の部外者。

 何故かオレの周囲に集まる、人並み外れた有機生命体タンソのニンゲンを見守るだけ。

 『絶対的切断面』

 『水晶の爪』

 『無表情美人』

 『名付け親』

 『無関心の災厄』

 これだけ役者がそろえば十分だろう。

 幕間劇は終了で、ここから本番、見逃すなかれ。


 リストにオレの名前は入れないでくれよ。

 何しろオレは口先道化師、見守ることしかできないのさ。

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