父に相談…
辰雄はそれからどうやって家に戻ったのか、全く覚えていなかった。朝、目を覚ますとそこは家のベッドだった。
日曜日の朝はとてものんびりとしていて穏やかだった。台所から妻と子ども二人の声が聞こえる。今起きていけば、あの中に入っていけるというのに、体が動かなかった。
もし、それが自然にできるなら、こんなつまらないことで悩まなくてよかったし、そもそも浮気なんかしなかった。少しでも昔の生き生きとしていた頃の自分を取り戻したくて、あれこれやった結末が浮気して相手を妊娠させると言うなら、あまりにも情けない。情けなさ過ぎて、涙が出てきそうなほどである。
それから何とか気を取り直して、起きてから台所へ向かった。すると、三人は片付けを始めた。そうやって三人はいつもさりげなく辰雄を避けていた。
彼は一人で寂しく朝食を取った後、外に自転車で出かけた。天気がよかったので、自転車を気持ちよくこぎ進めることができた。体はこんなにも清々しいのに、心は不安定でどうしようもなかった。
家から五キロほど離れたところに大きな公園がある。そこまで行くと辰雄は自転車から降りて、目の前のベンチに腰をかけた。そして、おもむろに携帯電話を取り出して、父・勇務に電話をかけた。
辰雄は父なら何か分かってくれるのではないかと思った。子どもの頃は父のやったことがすごく許せなかったが、今の辰雄には許すとか許さないとか言う資格はもうなかった。
ただ、父に相談したかった。こんな形で父と分かり合う日が来るとは思いもよらなかった。こんな形で分かり合いたくなかった。できるなら、もっと違う形で分かり合いたかった…。そうは言っても、状況は緊迫している。辰雄に選択の余地はない。
やがて、電話がつながった。辰雄は父に全てを洗いざらい話した。勇務は電話口で息子の話を聞きながら、とうとう来るべき時が来たかと思った。
梅子の葬儀の時から薄々気付いていたが、実際に辰雄の話を聞いたところ、思った以上に状況が悪いことに驚かされた。浮気相手を妊娠させているだって! 勇務は自分の時よりも状況が酷いので、思わず言葉を失った…。
「そうだな…。ただ、一つだけ言えることがある。こうなったら、岡川さんを説得して何としても子どもをおろしてもらって家族を守るか、それとも家族に全てを話して家族をバラバラにするのと引き換えに岡川さんと一緒になるかどっちかを選ぶしかないな…。場合によっては、両方失うかもしれないぞ! かつての俺のように…」
辰雄は父の話を聞きながら、ただ黙って頷いた。そうか、もう全てを失うかもしれないのか…。そうならないとしても、何かを失うのは確実なのだ。
どうなろうとも桜と冬彦の二人にも迷惑をかけるだろう。彼らには何の罪がないというのに…。かつて、自分が味わった苦しみを自分の子どもにも味わわせようといる。本当に酷い人間だと辰雄は思った。
「そうか…。こんな電話をして悪かったな。多分、これから親父にも迷惑をかけると思う」
「俺のことは気にするな。それよりも家族や岡川さんの心配をしろ」
「そうだな。ありがとう…」
そう言って、電話を切るとほんの少しだけ楽になれたと辰雄は思った。しかし、いばらの道はこれからだった。身から出たサビとは言え、辰雄にのしかかったものはあまりにも重過ぎて、今にも押しつぶされそうだ…。
それにしても、何でこんなことになったのだろう。辰雄はただ息苦しい毎日からちょっと逃げ出したかっただけなのに…。その結末がこれなら、あまりにも理不尽である。




