表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親子二代の離婚  作者: あまやま 想
祖母の葬儀
7/70

勇務の過去

 勇務は辰雄が同じ職場の岡川と浮気していると確信していた。梅子の葬儀に職場の同僚として来ていた岡川遥をみてすぐに分かった。


 その時の辰雄と岡川が三〇年ほど前の自分と重なって見えたからである。どうして、息子がかつての自分と同じ過ちを繰り返してしまうのかと思ったが、彼には息子を責める資格など全くない。


 しかし、だからと言って、かつての自分と同じように破滅の道へ向かうのを、ただ指を加えて黙って見ているだけではダメだろう…。ここは親として、辰雄にきちんと教えなくてはいけないのに…。


 かつて、つまらない毎日の繰り返しに嫌気がさしていた時に会社の同僚と浮気してしまった。


 その結果、妻の緑と別れることになったし、ゆりは緑に引き取られしまった。勇務は辰雄を引き取ったが、毎日辰雄から冷たい目でにらまれた。離婚の件が許されるようになったのは、辰雄が大人になってからである。ゆりと再会できるようになったのは、彼女が大人になってからだ。


 だか、決してかつての浮気や離婚が許された訳ではない。二人が大人になって、「大人でも道を踏み外すことがある」ことに気付いたから、まあ仕方ないと思っているに過ぎないと、勇務は考えている。


 それでも、辰雄が道を踏み外そうとしているのを、ただ黙っているだけで良いのだろうか? 父親として、息子が同じ過ちを繰り返さないように何かをするべきではないだろうか?


 でも、何をすればいい…。何をすればいいのか分かっていれば、もうすでに行動に移している。分からないから、何もできないでいる…。


 今から二八年前、勇務は浮気の末に妻と離婚した。離婚したら、浮気相手と一緒になるつもりでいたのに、離婚したとたんに彼女は全てを壊していなくなってしまった。


「私は妻子持ちの勇務さんに恋をしていたみたい…。全てを失った貴方には何の魅力も感じられない。さようなら…」と捨て台詞を残して…。


 全てを失った彼は、生きることがむなしくなり、一時は辰雄を残して死ぬことも考えた。


 その時、それまでの罪の意識から逃れるために、仏門の門を叩いて、修行するようになった。それから五年後に得度して、ようやく心の安定を手に入れた。罪を犯した過去は消せないからこそ、仏門修行で心を磨き続けることが必要だと悟った。


 今では近辺のお寺の住職代理を勤めている。また、田舎では僧侶が村の人々の相談役を任される事も多く、いろんな人々の相談に乗っている。これもかつての自分への贖罪と思って、村役場からのわずかな委託料のみで、ほぼボランティアで全て受け入れている。


 そして、ようやく気付いたことは誰かを犠牲にして、自分の欲望を満たそうとしても、後で必ず後悔すると言うことである。ありふれたささやかな幸せを守るために、人に尽くすことこそが心の平安につながる。それが自分の幸せになる。


 何としても、この思いを辰雄に伝えなくてはいけないと思った。浮気の先に何があるかなんて知っているのは自分だけで良い…。


 たとえ、家族内で大きな孤独を感じていたとしても、帰るべき家があるだけマシである。帰るべき家さえあれば、たとえ家族がバラバラでなっていたとしても、いつか再び一つになる望みがあるからだ。しかし、帰るべき家もなくなってしまえば、家族はバラバラになったきり、二度と戻ることはない。


 辰雄は本当にそのことを分かっているのか? 家族を壊した責任を一手に引き受け、それを一生背負い続けないといけない。そして、他の家族や親族からは一生冷たい視線を浴びせられることになる。許される日など絶対にやってこない。辰雄に全てを受け入れる覚悟が本当にあるのだろうか?


 仏門に守られながら、やっとの思いで生き長らえていることが、どんなに情けないことか、その時にならないと分からないのだろう…。相談ボランティアを受けていると、世の中には自分みたいな人間が思った以上に多いんだな…と思わずにいられない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ