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親子二代の離婚  作者: あまやま 想
長い眠りから覚めた時に
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夢と現実の奇妙な交差点

「あ、ごめん。ごめん。楓が花を持っていきたいと言うから、買いに行ったら、すっかり遅くなっちゃった。やっぱり、知らない土地をむやみにぶらつくもんじゃないね。すっかり、迷ったよ」


「遅くなってすみません…」


 そう言いながら、ドアをノックもせずに翔次と楓の二人が入って来た。僕はまたしても驚いた。どうして、この二人がここに来ているのか? 翔次はまだ分かるけど、どうして楓がいるのか?


「義兄さん、意識が戻ってよかったですね。あっ、彼女を紹介しますね…」


「翔次君、菊池さん、二人とも結婚おめでとう!」


 翔次と楓は驚きのあまり、すっかり固まっている…。二人だけじゃない。大和も、真智も、小秋も、桜も、冬彦も、病室に見舞いに来たみんなが首をかしげている。どうして、六週間も意識不明の重体だった人が、翔次と楓の結婚のことを知っているのだろう…。それ以前に、辰雄が菊池楓と会うのはこの日が初めてである。


「姉貴、義兄さんに結婚のこと、話したの?」


「……」


 小秋は無言で首をふった。そして、何か不気味なモノを見るかのように、目を見開いて僕を見た。桜と冬彦は互いに見合わせて、ひたすら首をひねっていたし、大和と真智は口をポカーンと開けたまま、ただ周りの様子を伺っていた。


「あの…。どこかでお会いしましたか…?」


「夢の中でお会いしたじゃないですか…」


 言ってから、僕はしまったと思ったが、もうすでに遅かった。楓は青ざめていたし、他のみんなは何が何だかさっぱり分からず、完全に固まっている。


「あっ、楓さん、気にしないで…。うちの主人、意識が戻ってから、ずっとこんな感じなの…。これ…、交通事故の後遺症だから…。気にしないで…。適当なことを言ったのが、偶然当たっただけ…。なんか、ごめんなさいね。花まで持って来てもらったのに…」


 小秋は必死になって、取り繕っていた。真智は楓が持って来た花を花瓶に移し替えている。大和は持って来たお土産『伊達小巻』を開けた。


 桜と冬彦はそれを取って食べ出した。あまりにも不思議なモノを見たものだから、それを受け入れられずになかったことにしようとしていた。


「事故の後遺症? そんなのおかしいじゃないですか? だって、私、今日、初めてお会いしたんですよ。それなのに、この方は私の名前も知っていたし、今度、翔次と結婚することも知っていた…。誰も教えていないのに、どうして、彼は知っているんですか? そんなの事故の後遺症ではありませんから…」


「おい、楓、何を言っているんだよ…」


「だって…、そうでしょう。おかしいじゃない。説明がつかないよ…」


「父さんは、楓姉さんと夢で会ったと言ってから、それでいいんじゃないの?」


 冬彦がそう言うと桜は頷く。ただ、子どもはそれで納得できたとしても、常識で凝り固まった大人達はそうもいかない。しかし、それ以外に説明がつかないと言う事実を、ただ不気味がるだけである。


「楓さん、気を悪くさせてしまって、本当にごめんなさい…。この人、意識が戻ってからずっとおかしいの…。私には『離婚したのにどうしてここにいるのか?』って言うし、子ども達には『福岡へ家出してこわくなかったか?』って言うの。とにかく、ずっと変なのよ。だから、気にしないで…」


「姉貴もああ言っている訳だし、楓、もう気にするなよ…」


「何かよく分からないけど、こんなこと誰も説明できないから、なんか怖くて…。私こそ、変に取り乱して、申し訳ありません…」


「楓さん、怖いのはみんな一緒よ…。交通事故って、後遺症が怖いのね…」


 義母の真智がうまいこと、楓の気持ちを汲み取ったからか、楓はようやく安心したらしい…。


「辰雄さん、明後日の十三日は梅子ばあちゃんの四十九日の法事があるから、明日はみんなで長野に行ってくるからね。あなたの父さんが、八月に入ってから見舞いに来られずに、ごめんって言っていたよ。法事の準備で忙しいみたい。じゃあ、みんな、家に戻りましょうか…」


 小秋がそう言うと、みんな一斉に立ち上がった。何か不思議で不気味な夢を見たかのように大人達はうつろな顔をしている。大きな謎は全く解決されることなく、それぞれ病室を後にした。


 僕は意識を失っていた間に見た夢が夢か、現実かよく分からないものの正体が分からずに、ただおびえていた。このことを全て話せたら、どんなに楽だろうか…。でも、それは無理だと思った。


 ほんの少し、夢のことを口走っただけで、こんなに不気味がられるんだ。夢のことをきちんと話したところで、事故の後遺症で頭がおかしくなったと、思われるだけだろう…。

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