現実の大和と真智
八月十一日、僕が意識を取り戻してから五日が経った。やっと、事故前と同じようにきちんと朝起きて、夜寝る生活ができるようになった。しかし、未だに夢と現実の区別がつかずに変なことを言ってしまい、小秋や桜や冬彦を困らせてしまう。三人はもうすでに僕の不思議な言動に慣れたようで、もはや驚くことはない。どうやら、事故の後遺症だと思われているようだ。僕が意識を取り戻すまで小秋がよく泊まり込みで看病していたとのこと。医者から聞いた。桜や冬彦も
「母さん、父さんのために頑張っていたよ」
と言っていた。他にも、僕の父・勇務や小秋の両親である大和や真智も遠方から見舞いに来て、看病を手伝っていたようである。
突然、ドアをノックする音が聞こえた。小秋が
「どうぞ」
と言うと、大和と真智が病室に入って来た。僕はびっくりして青ざめてしまった。夢の中で恐ろしい顔をして、金属バットを振り回す大和を思い出す。思わず…
「すみません…。もう、しませんから…。バットを振り回さないで下さい」
と口走ってしまった。大和と真智は辰雄の変な反応に訳が分からずに、言葉を失っているようである。
「意識が戻ってから、ずっとこんな感じなの…。多分、事故の後遺症だと思う。お医者さんは頭には問題ないって言っているんだけどね…」
小秋が淡々と僕の状態を説明した。二人の子どもも母の説明にウンウン頷いていた。
「おやおや、せっかく意識が戻ったと言うのに…。やっぱり、事故の後遺症かしらね…」
「母さん、仕方ないよ。六週間も意識不明の状態が続いたほどの重体だったんだ。意識が戻っただけでもよしとしないと…。なあ、辰雄君」
大和は少しでも、僕を安心させようとしていた。しかし、それが僕を一層不安にさせた。やっとのことでこの現実を受け入れて、今まで見てきたものや、経験したものが夢であると、自らに言い聞かせているところである。ところが現実の世界があまりにも早く、めまぐるしく現実を突きつけるので、僕はそれについて行けずにいた。ただ、途方に暮れている…。
「そうは言っても、もう歩けないんでしょう? 一生、車いすの生活になるのよ。そんな気休めみたいなことを言っても、辰雄さんが戸惑うだけでしょう…」
「そんなこと、今言わなくてもいいだろう! それに、これからのことは僕らで面倒見ていけばいいだろう。勇務さんだって、そのつもりでいるんだから、それでいいんじゃないか?」
大和と真智とのやり取りを見て、何であんなあべこべな夢を六週間も見続けたのか…。ただ、不思議に思った。夢の世界の大和は、僕が浮気したことをこれでもか…と言うぐらい激しく責めていた。そして、小秋と二人の子どものために多額の慰謝料を要求し、一日でも早く離婚して親権を手放すように説得していた。
それなのに、現実の世界では交通事故にあった僕のために援助を申し出るのだがから、これで混乱しない方がおかしい。




