紛れもない現実
「母さん、やっと学校が終わったよ」
冬彦がそう言いながら、桜と一緒に病室に入って来た。どうして、夏休みに学校へ行く必要があるのか? そうか、今日は八月九日の登校日だったのか…。
「父さん、今、起きているの?」
「起きているよ。桜、せっかくだから、今日、学校であったことを父さんに話してあげて」
小秋がそう言うと、桜は僕に向かって、学校での出来事を話し始めた。どうやら、長崎・原爆の日に合わせて、アニメ盤「はだしのゲン」を見て来たらしい。見た後に教室に戻って、教室で戦争はいけないと担任から指導があったらしい。
冬彦もそれに混じって、学校の出来事を話し出した。しばらくの間、僕は二人の子どもの話に耳を傾けた。とても、不思議な気分だった。
確か夢の中で、桜と冬彦は両親のイザコザに耐えかねて、福岡にいる戸島ゆり一家の所へ家出している。それが引き金となって、様々なことが劇的に動き出して、小秋と僕は離婚した。桜と冬彦は小秋に引き取られると言う結末を迎えているんだから…。
「桜、冬彦。初めての家出は怖くなかったか? 福岡までは遠かっただろう…」
分かっているけど、聞かずにはいられなかった。やはり、二人には僕の言ったことの意味が全然分からないらしい。桜も冬彦も、お互いに顔を見合わせながら、ただ首を何度もかしげているだけだった。
「父さん、意味が分からないんだけど…。僕たち、今まで一度も家出したことないし…」
「そうよ。何で、私たちがゆり伯母さんの所に家出しないといけないの?」
「父さん、交通事故にあってから、ずっと意識がなかったでしょう? その間に変な夢を見ていたみたい…。それで久々に目を覚ましてから、夢と現実の区別がつかずに混乱しているみたいよ。私なんか、夢の中で勝手に離婚させられていたのよ…。全く…」
桜と冬彦が不思議そうにしていたので、小秋が母らしく説明している。そうすると、桜は渋々納得したみたいで、もう何も言わなくなった。
「僕、父さんがどんな夢を見ていたのか、聞いてみたいな…」
「こらっ、冬彦。変なことを言わないの!」
「だって、面白そうじゃん…」
「じゃあ、冬彦は父さんみたいに事故にあって、体中ケガだらけで痛い思いしたいと言うことかな?」
「それは嫌だ!」
それに引き換え、冬彦の反応はとても正直である。やっぱり、僕が今まで見て来たものは夢だったらしい。どうせだったら、子どもに語っても問題ない夢を見たかったな…。とてもじゃないけど、語ることはできないだろう。
残念ながら、この病室こそが紛れも無い現実であることを、嫌でも受け入れざるを得なかった。あれが全て夢だなんて…。僕はショックのあまり、意識を失いそうだった。
もし、あれが夢だと言うなら、岡川遥とその子ども・中はどうなったと言うのか? まさか、あれも夢だと言うのか? では、遥との間に子どもができたと言うのも? 辰雄はまたしても気を失ってしまった…。




