表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親子二代の離婚  作者: あまやま 想
長い眠りから覚めた時に
63/70

今まで見て来たものは、一体何だ?

 次に僕が目覚めた時、僕はやっぱり…病室にいた。やっぱり…全く足は動かなかった。手は前よりか動くようになった。いつの間にか、腕に刺されていた点滴がなくなっている。それから鼻に入れられていた管もなくなっている。試しに声を出してみた。


「あー、あー。あっ、声が出るようになっている」


「あっ、辰雄さん。声が出せるようになったのね。よかった…」


 ベッドの隣には小秋がいた。でも、今回は桜と冬彦はいなかった。病室には小秋と僕の二人しかいないらしい。彼女はまたしても僕にしがみついた。僕の記憶が正しければ、確か小秋は家を出て行ったはずである。


 僕のふがいない浮気のせいで…。何が何だかよく分からない。よし! ここはどっちが現実で、どっちが夢なのかを、はっきりさせよう。さっきは勝手に意識が遠のいたけど、今度は大丈夫みたいだ。


「どうして、小秋がここにいるんだ?」


「何を言っているの? 夫が怪我して入院しているのに、そばにいない妻がどこにいるのよ」


「あれっ? 僕らは離婚したんじゃなかったかな…。確か…」


「はあ? やっと、話せるようになったと思ったのに…。やっぱり、事故の後遺症かな…。先生は頭には問題ないとおっしゃっていたけど…。やっぱり、あれだけ酷い交通事故にあったんだから仕方ないか…。まあ、とりあえず、お昼を食べましょう」


 小秋はそう言って、看護士と一緒に僕の状態を起こしてくれた。その時、体の至る所からズキズキと鈍い痛みがした。その後、小秋がドロドロになったおかゆを食べさせてくれた。


 どうして、自ら上体を起こせなかったのだろう…。どうして、自分でおかゆを食べることもできないのだろう…。やっぱり、僕は交通事故にあったせいで、体を思うように動かせないらしい。


 しかも、僕の言ったことを事故のせいで頭がおかしくなったと、小秋は全く取り合ってくれない。何一つ疑うことなく、ひたすらスプーンを使って、僕の口にスプーンを運んでくれる。


 お腹が空いていたから、つい全部食べてしまったけど…。僕は至って正常なのだ! こんなことは止めてくれ!


「僕が浮気して、浮気相手を妊娠させてしまったから、それに愛想を尽かして、君は家を出て行ったじゃないか! 桜と冬彦を連れて…」


 とうとう、言ってやったぞ。これで僕はこの世界から抜け出せるはずだ。小秋は突然いなくなって、病室もなくなって、僕は夢から覚めるはずだ。そして、岡川遥と暮らすアパートの一室で気持ちよく目覚めるに違いない。そうだ。この世界こそが夢…。これも今までみて来た悪夢の一つのはず…。


 ところがそうはならなかった。小秋は突然、僕に強く抱きつき泣き出した。この温もり…。この感触…。生暖かい涙…。ここ二ヶ月ほど、こんなにはっきりと感じることはなかった物…。ここ最近で感じた物、触れた物、見てきた物、経験してきたことが、全ておぼろげに見えてくる。なぜだろう…。


「事故で生死の境をさまよっていた人を置いて、離婚なんかするはずないじゃないの…。辰雄さんが事故で意識不明の重体になってから、どれだけ心配したと思っているの? 桜も冬彦も。あなたの父さんも、姉さんも、私の父も母も、あなたの会社の人も、ずっとこの日を待っていたんだから…」


 小秋は僕に抱きついたまま、嗚咽を堪えながら、とんでもないことを言い出した。そんな馬鹿なことってあるのか? さらに小秋は続ける。


「あなたが事故にあったから、梅子ばあちゃんだって、真っすぐ天国へ行けなかったんじゃないかな? そうよ…。今は意識が戻ったばかりで、まだ混乱しているのかも…。きっと悪い夢でも見ていたのね…」


 これがあの小秋なのか? ここにいる小秋は偽物ではないだろうか? 私の妻はこんなことを言う人ではなかったはずだが…。もし、彼女が紛れも無く高松小秋というのなら、何が彼女を変えたと言うのか?


 僕の知っている妻はもっと冷たくて、夫の事をATMとしか思っていない人だったはずだ。家にいると、とにかく息苦しくて肩身が狭かったのに…。それなのに…。


 そして、これこそが現実の世界で、今まで僕が見て来た世界が夢だと言うのなら、僕が今まで見て来たものは、一体何だ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ