翔次と楓
「本当に梅子ばあちゃんの四十九日の法要に行きたかったんじゃないの?」
楓が翔次に言った。九月二三日の結婚式を一ヶ月後に控え、二人は休みの日、ホテルでの打ち合わせなどに忙しかった。その日の打ち合わせを終えて、ようやく一段落した。翔次と楓はホテルのラウンジに移り、コーヒーを飲みながら休憩していた。
「そうは言っても、姉貴があんな形で離婚して、もう高松家との付き合いが無くなったから仕方ないよ。それに姉貴の離婚のせいでいろいろもめたじゃん。初めて、楓を実家に連れていった時、突然、姉貴が帰っていて、びっくりしたし…。あの後も姉貴、また帰って来て、部屋にこもって泣いていたし…。それを父ちゃんが不憫に思ったのか、例の二人がやって来た時に、金属バットを振り回したらしいからね。あんな状態からよく解決させたなあ…と思ってね。もし、あの状態が長引いていたら、結婚式どころじゃなかったかも…」
翔次はコーヒーを飲みながらつぶやいた。楓がレアチーズケーキを頬張りながら頷く。さすがに翔次には言えないが、義姉の離婚のとばっちりを受けるのだけは勘弁…と思っていたので、内心ホッとしていた。
「あっ、そう言えば、義姉さん、いつこっちに戻って来るの?」
「姉貴はしばらく戻って来ない…」
「えっ? だって、こっちに桜ちゃんと冬彦君を連れて戻ってくるって、言ってたじゃん…」
「なんか、姉貴の勤め先の幼稚園が、姉貴のために職員宿舎を無料で貸してくれたみたい。その代わり、途中で幼稚園を辞めたら困るから、来年の三月まで仕事を続けて…と勤め先の園長が言ったらしいよ。だから、姉貴、桜ちゃんと冬彦君と三人でそこに暮らしている。それを聞いて、親父もお袋も安心していたよ」
「それはよかった。じゃあ、来年の三月まで戻って来ないんだ」
「姉貴の話によると、勤め先の園長先生が辞めずにずっと働いて欲しいって言っているらしくて、もしかしたら、あと数年は職員宿舎で暮らしながら仕事を続けるかもしれないだってさ…。全く、もう…」
翔次はコーヒーをすすりながら頷いた。楓はケーキを頬張りながら話し続けた。
「でも、さすがに私達の結婚式には来るんでしょう?」
「もちろん、三人とも来るよ。あと、兄貴も駆けつけてくれる」
ふと、翔次はさっきから自分のことしか話していないことに気付き、楓にも話題をふらないといけないと感じた。でも、話題がなかなか思いつかない…。
「ところでさ、楓の所は親戚全員来るんだったよな?」
「そうよ。前も話したと思うけど、親兄弟はもちろんのこと、叔父一家も伯母一家も来てくれるって言っていたかな…。あとは会社の人や友達も結構来るね…」
「そうか…。そうなると、それぞれ合わせて百人ってところだな。あまり人が多くても落ち着かないから、それぐらいでちょうどいいと思う」
「そうよね、私もそう思っていたんだ。次の打ち合わせで人数が確定するから、次は席次表を作らないとだね」
楓は気が合うってこう言う状態のことを言うのだと思った。こんな相手と巡り会い、結婚できる自分は本当に幸せだ。そんなことはわざわざ確かめなくても分かる。
もちろん、翔次だって、そのように思っているに違いない。そう彼女は感じている。だてに高校時代から付き合っている訳じゃないのだ。




