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親子二代の離婚  作者: あまやま 想
何があっても日常は終わらない
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晩夏の夕暮れ(2)

「その高僧から、いろいろなことを教えてもらったよ。人間なんて、そんなものだと…。こんな自分でも生きていてもいいんだと…。いつの間にか、仏門を叩いて、高僧の元で修業に励むようになった。それはお前も知っているだろう。修業をすればするほど、心が洗われていくんだ。春子にはその歳になってから、何を考えているんだと言われたし、他の人にもご老体に鞭を打つような真似はしなくてもいいのに…と言われた。でも、それ以外に心の拠り所がなかった。気がつけば、得度までしていた。在家出家だけど、その気になれば、頭を丸めて寺の住職になれるらしい。まあ、他人を正しく導くなんて、とてもじゃないけどできるとは思えないから、やらないけどね…」


 勇務はようやく全てを言い終えて、グラスに残ったビールを一気に飲み干した。今度は辰雄が勇務のグラスにビールを注いだ。いつしか夕日は沈み、外はどんどん暗くなっていった。まさか、ビールを飲みながら親父の説教を受ける日が来ようとは…。心にも思っていなかった。一人ぐらい、こんなお坊さんがいてもいいんじゃないかとさえ思った。


「ビールを片手に説教するお坊さんも悪くないんじゃない? 経験談だから、説得力もあるし…」


 辰雄は笑いながら言った。いい具合に酒が回っていて、とても気持ちいい。こんなに気持ちよく酔ったのは何年ぶりだろうか? 気がつくと、もう酒もつまみも切れていた。


「とてもじゃないが、俺は瀬戸内寂聴先生にはなれんぞ。文才もないし、何より口下手だ」


 辰雄は盛大に吹き出した。そんな冗談を勇務が言うとは思ってもいなかった。勇務は自分が言ったことがよほど面白かったのか、自分で言ったことに自分で笑っていた。二人はお腹の底から笑った。こんなに大笑いしたのは何年ぶりだろうか…。


「ああ、笑った。笑った。さて、もうすっかり外も暗くなったことだし、中に入るかの」


 勇務がそう言うと、二人は縁側に広げた皿やパックやグラスを片付けし出した。外ではせみが相変わらず鳴いていた。


「せみが必死になって鳴いているね。もうすぐ夏も終わりか…」


「短い一生の間で必死なんだよ。人も二週間の一生なら、もっと必死かつ真剣に人生と向き合えるかもしれんな…」


 そうつぶやきながら、勇務は重ねた皿とグラスを持って台所へ向かう。辰雄も空ビンや空パックを持って、勇務の後を付いて行った。せみは二人にかまうことなく、ひたすら鳴き続けていた。


辰雄には蝉の鳴き声がなぜか遠く聞こえる。祖母の四十九日の法要の前日から、右耳がつまったような感じがして、いつもの半分しか聞こえない…。もしかして、突発性難聴になったのかもしれない。これは天罰だろうか? もし治らないようなら、耳鼻科へ行かないといけない。

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