辰雄の土下座(2)
辰雄はひたすら頭を床にこすりつけて、何度も謝り続けた。三人はただ辰雄を見ている。それから小秋と桜と冬彦の三人はお互いに目配せをして、これをどう捉えるべきか考えあぐねていた。二人の子どもにはどうすることもできないので、目線で小秋にどうにかするように訴えている。
「いつまでも、そんな所にいないで、とりあえず、いすに座ったら?」
この重々しい空気を変えたくて、小秋はさりげなく言った。別に辰雄を許した訳ではないけど、いつまでも土下座をされても困る。今さら、そんなことをしても何も変わらない。もう遅い…。あまりにも遅過ぎる…。
そんなことをしても、過去は変えられないのに…。だが、彼が必死に謝る姿を見て、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。
「もう、遅いのよ…。遅過ぎる! もし、あなたがもっと早く気付いていたなら、どうにかできたかもしれない。でも、もう引き返せないのよ! あなたが、勝手に引き返せない所へ行ってしまったのだから…」
そう言うと、小秋はテーブルに両肘をついて頭をかかえた。桜と冬彦はすっかり泣き止んでいる。辰雄は不自然にキョロキョロと三人を見つめていた。突然、ガタッと音を立てて桜が立ち上がる。
「ちょっと、トイレに行ってくる!」
とボソッと恥ずかしそうにつぶやいて、リビングから駆け足で出て行った。それにつられて、
「あっ、僕も!」
と言って、冬彦もリビングから駆け足で出て行く。
そのせいで緊張の糸がぷっつり切れてしまい、小秋は急に大声で笑い出した。
「ここでトイレって…。これだから、子どもは…」
とつぶやいて、大声で笑い続ける。それにつられて辰雄も小さく笑った。
「ねえ、最後に四人でディズニーシーへ行こうか?」
小秋はやけくそ気味に言い放った。もう、どうでもいいや…。今度は辰雄が驚く番だった。えっ、このタイミングで…。それもさることながら、あれほど、こんなことは無意味だ…とか、こんな馬鹿なことを言わないで…と言っていた人が急に豹変したのだ。
「よし、ぜひ行こう! 桜と冬彦がトイレから戻って来たら、それを伝えよう! きっと、二人とも喜ぶぞ!」
辰雄はホッと胸を撫で下ろした。しばらくすると、トイレから二人が戻って来た。家族全員でディズニーシーへ行くことを告げると、桜と冬彦は二人で手を叩き合って喜んでいた。
小秋は家族解散旅行でも行かないと、子ども達がまたテーブルで泣き出して、てこでも動かなくなってしまうのではないかと思った。それなら、最後に思い切って家族旅行に行った方がマシと言うものである。
しかし、家族がもうすぐバラバラになるというのに、最後に旅行だなんて…。卒業旅行じゃあるまいし…。そう思ったが、これで四人が前に進めるならそれでいい。




