突然の引っ越し
「園長先生、それに他の先生も、何から何まで、本当にありがとうございます」
「いいんですよ。どうせ、夏休み中はそんなに仕事なんてないんですから…。さっ、トラックに荷物を積めてしまいましょう」
そう園長が言うと、他の先生も一斉に小秋の部屋から荷物を運び出した。前日、園長室で独身宿舎を無料で貸してもらえる話をもらってから、話がトントン拍子で進んだ。
それを聞いた他の先生達が、幼稚園にある軽トラックを使えば、引っ越し代もかからないし、みんなで手伝うことだってできると申し出てくれたのだ。だったら、翌日にみんなで引っ越しを手伝いに行こうと園長が話をまとめたのである。
多分、園長先生も他五名の先生も、小秋の気分が変わってしまわないうちに引っ越しをさせた方がいいと思ったに違いない。もし、小秋が辞めてしまえば、他の先生にしわ寄せがいくからだ。
例え、そうであったとしても、小秋にとっては嬉しかった。翌年の三月までと言わずに、ずっとここで働きたいと決心しそうになったほどである。園長先生のおっしゃった事もまんざらではなさそうである。
やがて、荷積みが終わり、軽トラックと一台の軽自動車で幼稚園横にある独身宿舎に戻って来た。それから、みんなで一斉に荷下ろしをした。みんなでやると、あっという間に終わる。
一通り終わった後、小秋はみんなのために出前のそばを振る舞った。さすがにこれくらいはしないと申し訳が立たないと思ったからだ。
「何か悪いですね。そばを振る舞ってもらって…」
「何をおっしゃいますか? 園長先生。家のことから、引っ越しまでお世話になっているのに…。これくらいさせてもらわないと、私、バチが当たりますよ!」
小秋がそう言うと、その場にいたみんなが笑った。ここは本当にいい職場である。こんなにいい職場に巡り会えて、本当によかったと彼女は思った。おかげで小秋はすっかり元気を取り戻していた。
他の職員が職員室に戻った後、園長先生から独身宿舎の鍵を渡された。そして、
「今日から、ここの管理をお願いしますね」
と、一言だけ残して、園長室へと戻っていった。小秋はみんなが食べたそばの器を洗ってから、独身宿舎を後にした。もう、あの家には戻りたくなかったけど…。
桜と冬彦をここに連れて来るために、再び家に戻ることにしたのである。辰雄はあの家を私達のために使わせてくれるようだけど、とんでもない話だ。もう、あの家で暮らす事なんかできる訳がない…。あの家で暮らすにはあまりにも思い出が多過ぎる。




