園長先生の英断(2)
そこまで言ってくれるなら、何一つ断る理由はない。こちらとしても大助かりである。実を言うと、小秋もずっと面倒を見て来た園児を投げ出して実家に帰るのは忍びないと思っていた。
ただ、事情が事情なだけに、それもやむを得ないと考えた。しかし、園長先生がそこまで面倒を見て下さると言うなら、こちらもそれに応えないといけない。小秋は腹をくくる。とりあえず、来年の三月まではこの仕事を続けよう!
「分かりました。とりあえず、来年三月までこの仕事を続けます。園長先生、本当にありがとうございます。もし、園長がそこまでおっしゃって下さらなかったら、もうこの仕事は続けられないと思っていました」
「何をおっしゃっているんですか? 高松先生のような優秀な先生には、ずっと働いてもらないと困りますよ…。この幼稚園のためにもね。そのためなら、宿舎の無料貸し出しなんてお安いものです」
小秋は改めて、いい職場で勤めることができたことを嬉しく思った。ここの園長先生は園児や保護者だけでなく、職員にも優しい。まさに評判通りの先生である。
「できることなら、来年の三月までと言わずにずっと続けて頂きたいぐらいですよ。高松先生を失うぐらいなら、私が理事会に掛け合って、誰も使わない独身宿舎を無料かもしくは格安で貸す事はできるようにします」
さすがにずっと独身宿舎を借り続けるのは気が引けるが、園長先生がそのように考えてくれることがありがたい。小秋だって、できることなら定年までずっと幼稚園の教員の仕事を続けていたかった。浮気と言うのは、家庭だけでなく、様々なモノを壊していく事を改めて思い知らされる…。
「でも、それを他の先生方が納得しますかね…」
「しますよ。だって、誰も使う必要のないものを困っている優秀な方に貸す訳ですから大丈夫ですよ! それに他の先生方は住む家に困っていませんからね…」
久々に心が温かくなった。家に帰ると、留守番電話に一つのメッセージが入っていた。それを聞くなり、小秋はこれまでのほんわかとした気分が一気にふっ飛ぶ思いだった。
『あっ、もしもし、辰雄です。今、福岡に、います。明日、桜と、冬彦を連れて、家に、戻ります…』
あの男のせいで、またしても自分のペースがかき乱された。どこまでかき乱してくれたら、あの男は気が済むのだろうか…。
まあ、桜と冬彦を迎えに行く手間が省けてよかった…と思うしかない。そう思わないと、とてもじゃないけどやってられない。小秋はそう考えることにした。




