幸せな家族を目の当たりにして…
飛行機で揺られること二時間、辰雄はようやく福岡に着いた。それから、戸島修平とゆりの家へと向かった。確か、前に来たのは十年前だっけ…。
すっかり、様変わりした福岡の町並みを見て、歳月の流れを感じずにはいられなかった。辰雄を乗せたタクシーは福岡空港を出てから、すぐに都市高速に入った。十年前はまだ都市高速なんてなかったのに…。
都市高速から見下ろしていた町並みが、突然真っ暗になった。トンネルに入ったらしい。トンネルを過ぎると、すぐに都市高速を降りて、一般道に入った。
それから、三分ほどで姉夫婦の家に着いた。昔は、空港から入り組んだ道を時間かけて来たと言うのに、すっかり便利なったものである。
そんなことを考えながら、辰雄はタクシーを降りてから、ドアベルを鳴らした。一応、子ども達を迎えに行くことは事前に伝えてある。すぐにドアが開いた。辰雄は姉に招かれるまま、家の中に入って行く。
「やっと、桜ちゃんと冬彦君を迎えに来たね。もう、あれから二週間よ…。あんた達夫婦は、今まで一体何をしていたの? まったく、もう…」
「はい、姉貴。おみやげ!」
辰雄はゆりの小言を軽く聞き流しながら、東京の土産をやや投げやり気味に渡した。姉の小言が多いのは子どもの時から変わらない。リビングに入ると修平がいた。
「やあ、た…」
「桜ちゃん、冬彦君。お父さんが迎えに来たから降りて来なさい」
ゆりは修平が挨拶しようとしたのに気を留めることもなく、二階にいる子ども達を呼ぶために叫んだ。しばらくすると、階段を下りる音が響いた。
「やあ、辰雄さん。梅子ばあさんの葬式以来ですね…」
「義兄さん。このたびは、いろいろとご迷惑をおかけしました」
「いや、いいですよ。あっ、これは東京ばななと雷おこしですね。どちらも子ども達が好きなお土産だ」
修平は早速、ゆりがテーブルに置いた東京土産を開ける。それを見つけたあおいと夏美は修平よりも早くお土産に手を伸ばした。どうやら、桜と冬彦と一緒に降りて来たらしい。
「こら、あおい! 夏美! お土産を食べる前にすることがあるでしょう。おじさんに挨拶しなさい!」
ゆりがピシャリと言った。あおいと夏美の手が止まる。そして、辰雄の方を向いて、
「おじさん、こんにちは」
と挨拶した。辰雄も会釈をして返した。それが済むとさっきの勢いのまま、お土産に手に取って、おいしそうに食べ出した。子どもなんて、そんなものである。
「あっ、父さん!」
お土産をとって、リビングのテーブルに落ち着いたあおいと夏美に変わって、桜と冬彦が辰雄の前に現れた。やっとの思いで父と対面できた二人は、勢いよく辰雄に飛びついて来た。しばし、離れ離れになっていた家族の再会…。
「父さん、勝手に家出して、ごめんなさい…」
「いや、いいんだ…。桜。お父さんこそ、いろいろと悪かったな…」
「ねえ、母さんは? 父さん、母さんと仲直りできた?」
冬彦が今一番聞きにくいことを聞いて来た。辰雄は答えに困ったが、すぐに嘘で取り繕った。
「母さんは家で待っている。何とか許してもらった…」
小秋はいろいろな手続きのために、東京の家に戻って来ている。まだ何もしていないが、桜と冬彦を連れて東京に帰れば、小秋もあの提案を飲み込んでくれるかもしれない。
さすがに子どもの前では、露骨に嫌な顔をしないだろう。何より、先に子どもを手懐けておけば、反対すらできないに違いない。
「よかった。これでまた四人で仲良く暮らせるね」
桜が言った。辰雄はいずれ本当のことを話さないといけない時が来ると思うと、気が急に重くなった。せめて、この休暇が終わるまでは、夢のひと時を見せて上げたい…。
「で、辰雄。今日はどうすると? 今から空港へ行っても、もう遅いよ。今日は泊まっていくでしょう?」
辰雄が困っているところで、ゆりが助け舟を出してくれた。ゆりの質問に彼は頷いた。
「そうだよ、辰雄さん。福岡は久々なんでしょう? 今日ぐらいゆっくりしていったらいいですよ。この日のために、特上の辛子明太子と辛子レンコン、麦焼酎を用意しましたから」
「分かりました。今日はお言葉に甘えます。ところで、桜と冬彦はもう帰る準備できているか?」
桜と冬彦は頷いた。ゆりはもうすでに用意していた夕食をリビングテーブルに並べ出した。もちろん、つまみの辛子明太子と辛子レンコン、麦焼酎も一緒だ。あおいと夏美もゆりの手伝いをしていた。
テーブルに豚肉の冷シャブと春雨サラダ、ごはんとみそ汁が並んだところで、みんながテーブルについた。そして、
「頂きます!」
の合図と共に夕食が始まる。修平と辰雄はまずは晩酌を楽しんだ。ゆり、あおい、夏美、桜、冬彦が楽しそうに夕食を食べるのを眺めながら、飲む酒は実にうまい。
ああ、暖かい家庭って、こんな感じだったな…と辰雄はふと思う。今さら、こんなことを感じても遅過ぎるけど…。




